山形県の環境と観光産業を守る会

山形県上山市川口地区に建設予定の清掃工場(2018年12月から「エネルギー回収施設(川口)」として稼働開始)に関する詳細、および諸問題について

控訴しました! 前川ダム東線道路改良工事公金支出差止請求住民訴訟(被告:上山市長 横戸長兵衛氏) [後編] | 山形県上山市川口清掃工場問題

f:id:mamorukai:20161231021458j:plain

* 2016-12-30の記事「控訴しました! 前川ダム東線道路改良工事公金支出差止請求住民訴訟 [前編] | 山形県上山市川口清掃工場問題」の続きです。

後編となる当記事では、今週の12月27日に仙台高裁に対し提出した「控訴理由書」を公開いたします。

この裁判(平成28年(行ウ)第2号 前川ダム東線道路改良工事公金支出差止請求住民訴訟事件)の概要:
上山市長 横戸長兵衛氏に対し、現在進められている清掃工場に至る「前川ダム東線道路改良工事」に使用した公金の返還を求める訴訟です。工事自体は既に完了していますが、この計画自体があまりにも杜撰で、工事を行ったにもかかわらず既存の問題がまったく解決しておらず、計画内容にも多々問題があるため、裁判において被告(横戸長兵衛氏、(控訴審では被控訴人として))の責任を追及しています。

 


※内容はブログ用に一部編集しておりますので予めご了承ください。

f:id:mamorukai:20161229022443j:plain

平成28年(行コ)第19号 前川ダム東線道路改良工事公金支出差止請求住民訴訟控訴事件

控訴理由書

控訴人  上山市民 
控訴人 上山市長 横戸長兵衛 外1名

平成28年12月27日

上記控訴人ら訴訟代理人
弁護士  坂本 博之

仙台高等裁判所第2民事部 御中

第1 はじめに
 原判決は、控訴人らの請求を何れも棄却したものであるが、本書面は、原判決が誤りであり、取り消されるべきことを述べるものである。

 本件における控訴人らの請求は、上山市とA土建株式会社との間で締結された上山市道前川ダム東線の一部に係る道路改良工事を目的とする請負契約が公序良俗に違反して無効であるから、被控訴人は、上山市長である横戸長兵衛及び同契約の相手方である同会社に対して損害賠償請求ないし不当利得返還請求を行うべきである、というものである。

 控訴人らが、上記契約が公序良俗に違反すると主張する根拠は、①本件工事によって前川ダム東線(以下「本件市道」という)について、控訴人らの通行権等が侵害される、②本件工事に至る経緯に問題がある、③談合が行われた、という3点である。

 原判決は、上記の3つの論点の何れについても、控訴人らの主張を退けたものであるが、その何れに関しても、原判決は誤っている。

 以下、順に原判決の誤りを述べる。

 

第2 控訴人らの通行権等の侵害について

1 原判決の内容
 控訴人らの主張は、本件市道には大型車両同士の対面通行が困難な箇所が5カ所あるところ、本件工事後もそれらの箇所において大型車同士のすれ違い、対面交通は不可能なままであり、しかも、本件工事及び清掃工場建設によって本件市道を通行する大型車両が増加することになるから、円滑な交通は困難となり、日常的に本件市道を利用してきた控訴人を含む多くの通行車の通行権が侵害されるとともに、現在にもまして緊急車両等の通行が困難となるから控訴人らの平穏生活権が侵害される上、本件工事の対象区間には歩道が設置されていないため、歩行者や軽車両の通行の安全が妨害されることになる、というものである。

 これに対する原判決の判断は、①今後見込まれる大型車両の通行量の増加は、本件工事による本件道路の利便性の改良に伴うものではなく、あくまでも清掃工場(原判決は、被控訴人の用いた用語に従って「エネルギー回収施設」などと言っているが、この施設は一般廃棄物の焼却処理が主目的であり、そこで発生するエネルギーの一部を回収することを副次的な目的としているに過ぎないから、施設の実態を正しく表現するため、「清掃工場」という用語を用いることにする)の建設に伴うものである(原判決11p)、②本件工事後の本件市道のカーブ箇所のうち、2箇所は車両全体幅3.1m、車両全体の長さ8.16mの大型車同士が容易にすれ違うことができることが認められるから、本件請負契約は大型車同士のすれ違いについて、従前以上の対策を講じたものと言える(同11p)、③控訴人らは本件工事が本件清掃工場の建設と直結した工事であるから、本件清掃工場の建設による通行量の増加を一体的に捉えるべきだと主張しているが、その主張を前提としても、このような控訴人らの主張を前提としても、控訴人の大型車両の通行及び緊急車両の通行が困難となったりする等と認めるに足りる証拠はない(同12p)、④控訴人らは、本件工事によって本件市道の全ての箇所において大型車両のすれ違いが可能とならなければ、本件市道における大型車両のすれ違いの問題は解消されない等と主張するが、本件市道の全ての箇所において大型車両がすれ違うことができなければ控訴人の大型車両等の通行が不可能ないし困難となるほどの通行量の増加があると認めるに足りる証拠はないし、控訴人に本件市道の各カーブ箇所において大型車両がすれ違うことに関する権利があるとまで認めることはできない(同12p)、などというものであった。
 なお、原判決は、上記①と②の点を判断の骨子としており、③と④は付け足しのような位置づけをしている。
 しかし、上記①~④の何れの点についても、原判決の判断は誤りである。
 以下、順に述べることとする。 

2 原判決の誤り

(1) 大型車両の通行量の増加はあくまでも清掃工場の建設に伴うものであるとの点について

 原判決は、上記のように、本件工事と、清掃工場の建設とを切り離して、本件市道において大型車両の通行量が増加するのは、本件工事のためではなく、清掃工場の建設に伴うものである、などという判断を行った。これは、被控訴人の主張をそのまま鵜呑みにしたものである(被控訴人の原審における答弁書5p参照)。

 被控訴人の答弁書では、本件工事と清掃工場の建設工事とが関連性を有することについて、敢えて言及を避けている。しかし、本件工事の工事区間は、原判決4pにおいても認定されているとおり、本件市道の五反田橋南側から新橋梁(本件市道から清掃工場用地に入るために、新たに忠川という川に掛けられた橋)までであり、工期も清掃工場の建設が始まる前に終了するというものであり、大型車両が国道13号線から清掃工場用地に出入りするための利便性を向上させるための工事であることが明らかである。

 従って、本件工事は、清掃工場建設がなかったならば、発注はおろか、計画されることもなかった工事であると言わねばならず、清掃工場の建設と表裏一体のものとして理解しなければならないものである。

 そして、原判決4pにおいて認定されているように、本件工事が行われる前は、国道13号線から上記新橋梁に至るまでの間に、大型車両同士のすれ違いが困難なカーブ箇所が4カ所あった(本件市道から新橋梁を渡るための箇所を含めると5カ所になる)。これも原判決11pが認定しているところであるが(しかし、この認定が誤っていることは後述する通りである)、この4カ所のカーブ箇所のうち、2箇所は本件工事のために大型車同士のすれ違いが可能となるとのことである。従って、本件工事は、清掃工場に出入りする大型車の通行の利便性を向上させることが目的であったことが明らかである。もし本件工事を行うことを前提としなかったならば、清掃工場への大型車の出入は極めて不便であるから、その建設はあり得なかったものと思われる。

 以上から、本件工事と清掃工場建設工事とを分けるという原判決の考えが事実を無視し、歪曲した判断であることが明らかであり、本件工事によって清掃工場に出入りする大型車の通行量が増えるものと考えなければならない。

 逆に、原判決が述べるように、本件工事が清掃工場の建設とは別物であるという理解をするのであれば、本件工事は全く行う意味のない工事であり、本件工事に関する公金の支出を行うことがそれ自体において、全く無駄な出費をしたということになる。

(2) 本件工事によって大型車両同士のすれ違いが向上したとの点について

 原判決は、本件工事によって、本件市道の2箇所において、大型車同士のすれ違いが困難であったカーブ箇所において、それが可能となったのであり、本件工事は、大型車同士のすれ違いについて、従前以上の対策を講じたものと言える、などという判断を行った。

  原判決が上記のような判断を行った根拠は、車両全体幅3.1m、車両全体の長さ8.16mの大型車同士がすれ違うことができることが認められる、ということにある。この「大型車」の大きさは、被控訴人が行った実験に用いられた車両の大きさである(乙5の1、2)。しかし、この「大型車」は、大型車としては小型の部類である。道路法上、車両の一般的な制限は、幅2.5m、長さ12.0mであるから(道路法47条1項、車両制限令3条)、この程度の大きさの大型車が道路を通行することが普通であると考えなければならない(甲29、30)。実際、この程度の大きさのトラックが本件市道を通行することが十分に予想される。また、清掃工場において使用が予定されている大型バスの大きさは、長さが12m程度である。その上、本件清掃工場において火災が発生した場合に出動が予想される消防車のうち、梯子車の長さは10.64m~11.24mであり、支援車の長さは10.95mである(甲31、32)。因みに、上山市には梯子車がないから、梯子車が出動する場合は、山形市消防本部から出動することになる。山形県下の市町村及び消防の一部事務組合は、消防相互応援に関して協定を締結し、火災その他の災害の発生に際して、それぞれ相互間の消防力を活用しあうこととなっている(甲33)。

 この点、控訴人は、幅2.39~2.49m、全長11.26~11.95mのトラックを用いて、被控訴人が行ったのと同様のすれ違い実験を行ってみた。すれ違い実験を行った場所は、原判決5pに指摘されている、カーブ箇所③(五反田橋を渡り切った後のカーブ箇所)と、カーブ箇所④(奥羽本線の下をくぐる前のカーブ箇所)の2カ所である。控訴人らの実験の結果、カーブ箇所③においては、著しい徐行を行い、極めて慎重に運転を行えば辛うじてすれ違うことが可能ではあったが、橋の間際を通過しなければならないものであり、社会通念上はすれ違いが困難であると判断されるものであった。カーブ箇所④においては、カーブを曲がるためには、センターラインを超えなければならず、すれ違いは不可能であった(甲31)。

 このように、原判決が大型車同士のすれ違いが可能であると判断した、上記カーブ箇所③④は、実際には、本来の意味での大型車同士のすれ違いが困難ないし不可能なものであると言わねばならない。

 それから、被控訴人が行った実験は、カーブ箇所③④において行ったものではない。原判決は、このように、実際は実験が行われていない場所での実験結果を捉えて、カーブ箇所③④において大型車がすれ違うことが可能であるという間抜けな判断を行ったものである。 原判決5pに掲げられているカーブ箇所①②において、大型車同士のすれ違いの困難さが本件工事によっても解消されていないことは、原判決も認めるところである(11p)。従って、控訴人が指摘した大型車同士のすれ違い困難箇所は、本件工事によって、何れも困難さが解消されないままとなっているものと言うことができる。従って、控訴人が使用している大型車が、清掃工場の工事のための車両や清掃工場に出入りするゴミ運搬車や大型バスのために本件市道が通行困難になることが予想されるし、清掃工場や控訴人で火災等の災害が発生した場合に、清掃工場や控訴人の避難車両と消防車等のすれ違いができないために、災害救助が困難となることも予想されるのである。

(3) 清掃工場の稼働と控訴人等の通行権について

 原判決は、清掃工場の建設によって本件市道の通行量が増加するという控訴人らの主張を前提としても、控訴人等の大型車両の通行及び緊急車両の通行が困難となったり、歩行者や軽車両の道路通行の安全性が妨害されるといった程度にまで、本件市道を通行する車両の通行量の増加があると認めるに足りる証拠がない、などと述べている(12p)。 しかし、清掃工場の建設により、これまで本件市道を通行していなかった多数のゴミ運搬車や大型バス等が本件市道を通行することは明らかである。そして、控訴人は、日常的に多数の大型車を利用している。しかも、本件市道の国道13号線から前記の新橋梁までの距離はそれほど長い距離ではない。この短い距離の間に大型車同士のすれ違いが困難な箇所が5カ所もあるのである。従って、清掃工場の稼働により、控訴人等の大型車両や緊急車両の通行が困難となる可能性が高いことは、定性的に明らかである。 また、このように多数の大型車が通行することになった場合、歩道が設けられていない本件市道においては、歩行者や軽車両の安全が十分に保たれないこともまた、社会通念上、優に認めることができる。

(4) 本件市道における大型車両同士のすれ違い問題の解消という点について

 原判決は、控訴人らは、本件工事によって本件市道の全ての箇所において大型車両のすれ違いが可能とならなければ、本件市道における大型車両のすれ違いの問題は解消されない等と主張するが、本件市道の全ての箇所において大型車両がすれ違うことができなければ控訴人の大型車両等の通行が不可能ないし困難となるほどの通行量の増加があると認めるに足りる証拠はないし、控訴人に本件市道の各カーブ箇所において大型車両がすれ違うことに関する権利があるとまで認めることはできない、などと言う判断も行っている(同12p)。 既に述べたように、本件工事によって、本件市道の大型車のすれ違いの困難さは全く解消されていない。そして、清掃工場の稼働によって、大型車両の通行量が増加し、控訴人等の大型車両の通行が困難となる可能性が高いこともまた、既に述べた通りである。 そして、原判決は、控訴人らに、各カーブ箇所において大型車両がすれ違うことに関する権利があるとまでは認められない、などという変なことを言っているが、大型車両同士のすれ違いが困難とされるということは、通行権の妨害となるものである。

(5) その他の問題

 以上のとおり、本件工事によっても、本件市道の大型車同士のすれ違い困難箇所は、何れの地点においても、その困難さは全く解消されていないことが明らかとなった。このことは、本件工事には何の意味もなかったということを物語るものである。そもそも、本件工事個所の中には、奥羽本線の下をくぐる箇所があるが、そこは、道路の拡幅をすることが困難な箇所である。いくらほかの箇所を拡幅したとしてもこの箇所で相互のすれ違いが困難となり、大型車の通行量が増えればこの箇所で詰まってしまい、本件市道は大渋滞を引き起こすことになってしまうのである。道路の途中にこのような箇所を含む道路の他の部分を拡幅したりするなどして利便性を高めようと思っても、結局このような箇所があるために、道路自体の利便性は高まらない。このような道路の拡幅工事を行うこと自体、全く無駄な公共事業であると言わねばならない。 このような無駄なことに公金を支出すること自体が、公序良俗に違反するものと言うべきである。

 

第3 本件工事の経緯の不当性について

1 原判決の内容

 控訴人らは、上山市の設置した清掃工場候補地検討委員会における本件清掃工場の建設予定地の選定行為と、同市の本件請負契約締結行為は、一連の行為であり、上記選定行為は不当な方法で行われているから、本件請負契約ないし本件清掃工場建設計画全体が公序良俗に違反する旨主張している。

 これに対して、原判決は、①清掃工場用地選定行為は山形広域環境事務組合が行ったものであり、本件請負契約とは、主体を異にするものであり、本件請負契約は清掃工場選定行為とは独立したものと認められる、②上山市が選定条件のすり替えを行ったと認めるに足りる証拠はなく、③本件市道が本件工事前後において大型車両対面通行可能条件を満たしていないとまでは認められない、④本件工事の内容が本件市道の全ての箇所において大型車両のすれ違いを可能にするものでなければ、本件工事が公序良俗に反するものとなるわけではない、などという判断を行った。

 しかし、上記①~④の何れの点についても、原判決の判断は誤っている。以下、順に述べる。

2 原判決の誤り

(1) 清掃工場用地選定行為と本件請負契約とは主体を異にするとの点について

 原判決は、前記のとおり、清掃工場用地選定行為は山形広域環境事務組合が行ったものであり、本件請負契約とは、主体を異にするものであり、本件請負契約は清掃工場選定行為とは独立したものと認められる、などという判断を行った。この判断は、前記の清掃工場の建設と本件請負契約とは別の物だという判断と同様に、物事の実態を無視して上辺だけを捉えて、形式的な判断というにとどまらず、物事を歪曲した判断を行ったものであり、これは、原判決を書いた裁判体の得意とするところのようである。

 しかし、前述したように、清掃工場の建設と本件請負契約とは強い関連性を有するものであり、前者がなかったならば後者もなかったものである。そして、清掃工場用地選定行為は、用地選定の条件の一つとして、「敷地が大型車両の対面通行が可能な公道に接しており、又は接することが容易な場所であること(進入道路が必要となる場合は、公道から敷地に容易に接続できる場所であること)」というという条件を満たす必要があり、本件工事は、この条件を満たすために行っているものというべきである。

 また、上山市は山形広域環境事務組合の構成団体の一つであり、全く別の団体というわけではない。

 従って、清掃工場用地選定行為と本件請負契約とは、形式的には主体は別であるが、独立したものではなく、相互に強い関連性を有する者と判断されなければならない。

(2) 上山市が選定条件のすり替えを行っているとの点について

 前記のとおり、山形広域環境事務組合が、清掃工場建設用地を選定するに当たって、提示した条件の一つが、「敷地が大型車両の対面通行が可能な公道に接しており、又は接することが容易な場所であること(進入道路が必要となる場合は、公道から敷地に容易に接続できる場所であること)」というものであった。このことは、訴状にも記したことであるが、同組合が作成した、清掃工場用地選定条件を示した資料に明記されている(甲6・資料3)。

 一方、上山市が清掃工場予定地の選定のために設置した前記検討委員会に対して、8つの選定条件を示したが、そこで示された条件のうち、前記組合が示した接道に関する条件については、単に「④道路とのアクセス」となっており、さらに同市がこの選定条件に関して調査ポイントとしたのは、「幹線道路との接続が容易であるか。また、周辺の交通事情を把握する」というものであった(甲7~9)。

 以上から、上山市が、清掃工場建設予定地の選定に当たり、山形広域環境事務組合から示された「敷地が大型車両の対面通行が可能な公道に接しており…」という条件が、「幹線道路との接続が容易であるか」という条件に変わってしまっていることは、書証から明確に裏付けることができる。

 原判決が述べるように、上山市が選定条件のすり替えを行ったと認めるに足りる証拠はない、などということは全くなく、上山市が上記のような条件のすり替えを行ったことは、明確な書証の裏付けのあることである。原判決が書証を無視したおかしな判断を行ったことは明々白々である。

 それから、原判決は、被控訴人の、本件市道では直線部分で大型車同士の対面通行が可能であるから上記条件を満たしているという主張を鵜呑みにして、そもそも本件市道は、山形広域環境事務組合が提示した接道に関する条件をクリアしており、その上で「幹線道路との接続が容易であるか」と言う別の要件を上山市は検討したものだ、などと言う捉え方をしたということなのかもしれない。しかし、本件市道は、既に述べたように、国道13号線との交差点から清掃工場入口に掛けられた新橋梁に至るまでのそれほど長くない距離の間に、5カ所もの大型車のすれ違い困難な箇所があるのである。従って、単に直線部分では大型車同士の対面通行が可能であるというだけで、本件市道が「対面通行が可能な公道」であると評価することは、一般常識とは相容れない判断であるというべきである。

(3) 本件市道が大型車両の対面通行条件を満たしていないとまでは認められないとの点について

 原判決は、本件市道が大型車両の対面通行条件を満たしていないとまでは認められない、などという判断を行っている。 しかし、この点については、前記第2、2、(2)において詳細に述べたように、本件市道が大型車両の対面通行条件を満たしていないことは明らかである。

(4) 本件工事の内容が、本件市道の全ての箇所において大型車両のすれ違いを可能にするものでなければ、本件工事が公序良俗に反するものとなるわけではない、との点について

 原判決は、本件工事の内容が、本件市道の全ての箇所において大型車両のすれ違いを可能にするものでなければ、本件工事が公序良俗に反するものとなるわけではない、などとも述べている。 しかし、本件工事の内容が、本件市道の全箇所において大型車両のすれ違いを可能なものにしないのであれば、その工事を行う意味が全くないことについても、前記第2、2、(5)において述べた通りである。

 

第4 談合について

1 原判決の内容

 控訴人らは、本件工事の入札結果を示し、10社が入札を行ったが、予定価格を下回って入札をしたのがA土建だけであり、しかも同社の入札価格は予定価格の99%であったことを踏まえ、本件工事の入札においては談合が行われたものと考えられる旨、主張した。

 原判決は、控訴人らが示したのはあくまで入札結果に過ぎず、談合の具体的内容について明らかにするものではなく、他に具体的な談合の事実を認めるに足りる証拠がない、などという判断を行った(14p)。

2 原判決の誤り

 一つの工事について、10社もの入札者があり、落札者以外の会社が予定価格を上回り、しかも落札者の入札価格が予定価格の99%となる、などということは、常識的にみて、入札者(及び上山市)が談合を行った結果であるとしか考えられない。何の作為もなしに、このような整然とした入札結果が出るなどということは通常はあり得ないからである。

 原判決の判断は、このような一般通常人の考えとは相容れないものであり、非常識かつ不合理な判決との誹りを免れない。

 

第5 結論

 よって、原判決の誤りは明らかであり、取り消されたうえ、控訴人らの請求は認容されるべきである。

 


 *以下スキャンデータ

 

f:id:mamorukai:20161229022443j:plain

f:id:mamorukai:20161231012847j:plain

f:id:mamorukai:20161231012858j:plain

f:id:mamorukai:20161231012943j:plain

f:id:mamorukai:20161231013032j:plain

f:id:mamorukai:20161231013041j:plain

f:id:mamorukai:20161231013049j:plain

f:id:mamorukai:20161231013058j:plain

f:id:mamorukai:20161231013111j:plain

 

控訴しました! 前川ダム東線道路改良工事公金支出差止請求住民訴訟(被告:上山市長 横戸長兵衛氏) [前編] | 山形県上山市川口清掃工場問題

f:id:mamorukai:20161230200412j:plain

 国道13号線のかみのやま高架橋を越えて上山市道に入ると、突然道幅が狭くなり、カーブが続きます。市道は奥羽本線(山形新幹線)と一級河川前川に挟まれていますが、上山市は交通の利便性を図るため、ガス化溶融炉建設地までの一部区間の改良工事を行いました。すなわち一部道幅を広げ、ガス化溶融炉の排熱を利用して冬期融雪を行い、側溝の蓋を掛ける工事です。

f:id:mamorukai:20161231011034j:plain

 しかしそれらの工事は、国道から敷地入口までの全区間で行われるわけではなく、前川に沿った直線部のみで行われる工事です。この工事を行っても、他のカーブでの拡幅は行われず、いわゆる工事用の大型車や、隣接企業の大型車、竣工後に利用が見込まれる大型の消防車、見学者用大型バス等の通行に支障をきたし、歩行者や軽車両の安全を阻害することが想定されます。このため守る会は、上山市長 横戸長兵衛氏に対し、現在進められている一般ごみ焼却場に至る「前川ダム 東線道路改良工事」に支出した公金の返還を求める訴訟を提起しました。
 
 この経緯として、守る会は上山市に住民監査請求を求めた後、平成28年1月27日付で上山市山形地方裁判所に提訴(平成28年 (行ウ)第2号 前川ダム東線道路改良工事公金支出差止請求住民訴訟事件(松下貴彦裁判長))しましたが、同年8月16日に口頭弁論において突然裁判長から結審が告げられ、その結果10月18日に「棄却」されました。

 守る会は準備書面を2度提出したのみ(他の裁判では、少なくともこれ以上の準備書面を提出し継続されています)で、被告からの守る会の主張に対する反論らしい反論もない中、何の説明もないままなぜ急に結審となったのか、不満と謎の残る裁判となりました。

 裁判に関する専門的知識を持たない一般市民とすれば、裁判のプロセスは全く不透明で、裁判所と市民との感覚の違いを実感せざるを得ません。

 守る会として到底納得できる内容ではなく、この判決に対し反論したい事項が多々あったため、10月24日仙台高等裁判所控訴を申し立てました。そして、平成28年12月27日には控訴理由書を提出致しました。

 当記事では、まず10月18日付山形地方裁判所の「判決文」を公開致します。明日は、引き続き12月27日に仙台高裁に対し提出した「控訴理由書」を公開する予定です。

 


※内容はブログ用に一部編集しておりますので予めご了承ください。

 

f:id:mamorukai:20161229032304j:plain

平成28年10月18日判決言渡 同日原本交付 裁判所書記官
平成28年(行ウ)第2号 前川ダム東線道路改良工事公金支出差止請求住民訴訟事件
口頭弁論終結日 平成28年8月16日

判決

原告 上山市市民
被告 上山市長 横戸長兵衛

(中略)

主文

1 原告らの請求をいずれも棄却する。
2 訴訟費用(補助参加によって生じた費用を含む。)は原告らの負担とする。

 

事実及び理由

第1 請求の趣旨

  1.  被告は,市道前川ダム東線道路改良工事に関してA土建株式会社との間で 締結した請負契約に基づく請負代金に係る公金を支出してはならない。
  2.  被告は,横戸長兵衛に対し,5032万8000円及びこれに対する平成2 7年6月25日から支払済みまで年5分の割合による金員の支払をするよう請求せよ。
  3.  被告は,A土建株式会社に対し,5032万8000円及びこれに対する 平成27年6月25日から支払済みまで年5分の割合による金員の支払をする よう請求せよ。

第2 事案の概要

1 本件は,山形県上山市(以下「上山市」という。)の原告らが,上山市がA土建株式会社(以下「A土建」という。)との間で市道前川ダム東線の一部の改良工事(以下「本件工事」 という。)を目的とする請負契約(以下「本件請負契約」という。)を締結したことについて,本件工事の内容が原告らの通行権や平穏生活権を侵害するも のであること,本件請負契約と一連の行為である上記道路に隣接する清掃工場の建設予定地選定行為が不当なものであること,及び本件請負契約の入札が違法な談合によるものであることから,公序良俗に違反し無効であり,本件請負契約に関する公金の支出等が違法である旨主張して,上山市の執行機関である 被告に対し,地方自治法242条の2第1項1号に基づき,本件請負契約の請負代金の未払分である7549万2000円の支出の差止めを求めるとともに, 同項4号に基づき,本件請負契約の請負代金の一部である5032万8000 円を支出したこと(以下「本件支出」という。)について,本件支出当時の上山市の市長であった横戸長兵衛(以下「横戸」という。)に対して損害賠償請求をすること及びA土建に対して不当利得返還請求をすることを,それぞれ求める住民訴訟である。

2 前提事実(証拠等の摘示のない事実は当事者間に争いがない。)

(1) 当事者

ア 原告B(*以下、個人情報のため非公開)。

イ 被告は,上山市の執行機関である(弁論の全趣旨)。

ウ A土建は,上山市との間で本件請負契約を締結し,本件工事を実施し た工事業者である(甲1,弁論の全趣旨)。

エ 横戸は,本件支出当時,上山市の市長の職に在った者である(弁論の全趣旨)。

(2) 市道前川ダム東線について

 国道13号から山形広域環境事務組合がエネルギー回収施設という名称の施設(以下「本件エネルギー回収施設」という。)の入口に架けた橋梁(以 下「新橋梁」という。)に至るまでの区間の市道前川ダム東線(以下「本件 市道前川ダム東線道路」という。)につき,本件工事完了前の全幅は,7. 4メートルから9.3メートルであり,直線部分は,おおむね大型車両同土のすれ違い及び対面通行が可能であったところ,4つのカーブ箇所においては,大型車両同士のすれ違いが困難であった(乙2の1ないし2の4,弁論 の全趣旨)。

(3) 本件工事について

 上山市は,市道前川ダム東線の五反田橋南側から新橋梁の先までの284. 4メートルの区間の道路(以下「本件工事対象道路」という。)について, 工期を平成27年6月1日から平成28年3月18日として,掘削や盛土による道路改良,消雪施設設置及び直線部を中心とした拡幅等を目的とした本 件工事を行うこととした(乙1)。

 上山市は,平成27年5月29日,入札(以下「本件入札」という。)を 実施し,A土建が1億1650万円(税抜)で落札したことから,同年6 月1日,A土建との間で,本件請負契約を1億2582万円(税込)で締結し,同月25日,A土建に対し,本件工事の請負代金額のうち5032 万8000円を前払金として支出した(甲1,13) 。  本件工事は,平成28年3月18日に完成し,請負代金額は最終的に1億 3113万360円となった(乙3)。

(4) 原告らによる監査請求及び本件訴訟の提起

 原告らは,上山市監査委員に対し,平成27年10月29日付けで,本件請負契約が公序良俗に違反し無効であることなどを理由に,本件請負契約に 基づく公金の支出等が違法であると主張して,被告に対して,横戸及びA土建に対する本件支出相当額の損害賠償請求権ないし不当利得返還請求権を行使する措置を求めるとともに,本件請負契約に基づいて予定されている支出を差し止める措置を求めて住民監査請求をした(甲15)。 上山市監査委員は,前記監査請求について,平成27年12月25日付け で,請求人のうち原告Bについて,住所要件に欠けるとして却下し, その余の請求人については,本件請負契約について違法不当な事由がないと して,棄却する旨の決定をし,同月28日,原告らはその旨の通知を受けた (甲16の1,16の2)。 原告らは,平成28年1月26日,本件訴訟を提起した(当裁判所に顕著 な事実)。

 

3 争点

本件請負契約に基づく公金支出の違法性の有無

 

4 争点に関する当事者の主張

(原告らの主張)

 本件工事を行うことを目的とした本件請負契約は,以下のとおり公序良俗に違反し無効であるから,本件請負契約に基づく公金支出は違法である。

(1) 通行権等侵害

 本件市道前川ダム東線道路のうち,①国道13号から市道前川ダム東線に進入して間もない場所にあるカーブ箇所,②前川に架かる五反田橋を渡る直前のカーブ箇所,③五反田橋を渡り切った後のカーブ箇所,④奥羽本線の下をくぐる前のカーブ箇所及び⑤新橋梁と交差する箇所において,大型車両同 士の対面通行及び緊急車両の通行が困難であるところ(以下,これらのカー ブ箇所をそれぞれ「本件カーブ箇所①」などといい,これらを併せて「本件 各カーブ箇所」という。),本件工事後も,本件カーブ箇所①及び本件カー ブ箇所②における大型車両同土のすれ違いが不可能なままであり,本件カー ブ箇所③,本件カーブ箇所④及び本件カーブ箇所⑤における大型車両同士の 対面交通は不可能である 。そして,本件工事及び本件工事の目的である本件エネルギー回収施設の建設によって,従前は道路幅の問題で物理的に通行できなかった大型車両の通行が増加するとともに,道路の改良により利便性が向上することで,交通量が多くなる。 したがって,本件市道前川ダム東線道路は,化学消防車などの緊急車両を含む大型車両の相互通行が不可能なままであるにもかかわらず,逆に本件工事によって本件エネルギー回収施設へ出入りする大型車両の通行が増加する ことで,円滑な通行は困難になり,日常的に本件市道前川ダム東線道路を大 型車両の通行のために利用してきた原告Bを含む多くの通行者の通行権が侵害されるとともに,現在にも増して緊急車両の通行が困難な事態が生 じ,原告Bらの平穏生活権が侵害される。 また,本件工事対象道路には歩道が設置されないことから,歩行者や軽車 両の道路通行の安全が妨害され,歩行者らの通行権が侵害される。

(2) 本件工事の経緯の不当性

 山形広域環境事務組合は,エネルギー回収施設の建設予定地を選定するために,「敷地が大型車両の対面通行可能な公道に接しており,又は接す ることが容易な場所であること。(進入道路が必要となる場合は,公道から敷地に容易に接続できる場所であること。)」という条件(以下「本件 大型車両対面通行可能条件」という。)を選定条件の一つとして抽出して いた。そのため,本来,拡幅工事を行わなくとも大型車両の対面交通が可能な道路に接した場所をエネルギー回収施設建設予定地に選定すべきであ った。

 そして,上山市が,本件エネルギー回収施設の建設予定地がある川口地区(以下「川口地区」という。)を含む5つの地区を上山市内における候補地として選定し,上山市が設置した清掃工場候補地検討委員会の委員が,8つの選定条件について点数をつけ,いずれの候補地が適当であるか検討した際,「道路とのアクセス」に関する選定条件(以下「道路とのアクセス条件」という。)は重要な選定条件とされた。

 しかし,上山市は,道路とのアクセス条件について,幹線道路との接続が容易であるか等の観点をもって調査することで,本件大型車両対面通行可能条件という本来の条件から,幹線道路との接続が容易であるという条件にすり替えた。その結果,川口地区は,原告らの主張(1)にあるとおり, 本件エネルギー回収施設の敷地進入口に架かる新橋梁の手前の公道でのすれ違いが不可能であり,本件大型車両対面通行可能条件を満たさず,エネルギー回収施設建設予定地に合致しない土地であったにもかかわらず,道路とのアクセス条件において,5地区中2番目の高得点を獲得し,総合得 点も5地区中2番目となり,最終的にエネルギー回収施設建設予定地に選 定された。

 また,上山市は,山形広域環境事務組合から,上山市内にエネルギー回収施設を建設したいので,その候補地を選定する作業をするよう要請され, 川口地区を候補地として選定したのであるから,実質的には,上山市が川口地区をエネルギー回収施設建設予定地として決定したといえる。

 したがって,上山市が,エネルギー回収施設建設予定地とするには不適当であった川口地区を,実質的に不当な方法で建設予定地として選定した のであり,上山市による上記不当な選定行為と本件譜負契約あるいは本件工事は,一連の行為であり,全体として公序良俗に反するものである。

 清掃工場候補地検討委員会は,その評価集計表の付帯意見において,アクセス道路を近隣会社と完全に共有しなければならないと考えると道福が狭く,新たなアクセス道路を通すことを提言したい旨述べるなど,本件大型車両対面通行可能条件を満たしているという認識を共有しておらず,山形広域環境事務組合や上山市は,川口地区の景観と環境を守る会の意見書により,川口地区が,大型車両同士の対面交通が因難であることを認識し ていた。そのため,本件工事は,本件エネルギー回収施設が,本件大型車両対面通行可能条件を充足させることを目的とするものであり,本件市道前川ダム東線道路の全域において大型車両同士の対面交通を可能にする必要があった。しかし,本件工事は,本件市道前川ダム東線道路のうち一部直線部のみを拡幅するだけで,本件工事対象道路ですら,そのカーブ箇所 の対面通行を確保せず,また,五反田橋から本件エネルギー回収施設入口 までの一部のみ融雪工事を行うなど冬季における車両のすれ違いは困難なままにしているから,本件エネルギー回収施設は本件大型車両対面通行可能条件を満たしてはいないのであり,本件工事は相当ではない。

(3) 談合

 本件入札は,1億1650万円(税抜)から1億2300万円(税抜)の わずかな価格差の範囲内で行われ,予定価格を下回って入札したのが予定価格の99パーセントで入札したA土建だけであるところ,本件工事のような工事は,多数の費目を積算して入札価格を決定するから,複数の業者がほとんど同じ価格になることや,1社だけが予定価格を下回るなどということは考えられない。よって,本件工事の入札は,違法な談合が行われていたものであるといえ,公序良俗に違反して無効であり,少なくとも,本件請負契約の代金額の10パーセントの範囲では公序良俗に違反して無効である。

 

(被告の主張)

 本件工事について,以下のとおり上山市長の判断に裁量権の逸脱又は濫用が あるといった特段の事情となるべき問題点は全く認められず,本件請負契約に 基づく公金支出は違法ではない。 

(1) 通行権等侵害

そもそも平穏生活権や通行権に対する侵害があるからといって,本件請負契約が公序良俗に違反し,無効となるわけではないし,原告らの平穏生活権 通行権は,以下のとおり,本件工事によって侵害されるものではない。

 原告らには,道路上のカーブ箇所という個別の部分ごとに無制限な通行権や平穏生活権が認められているものではない。

 国道13号から原告Bに至るには,本件市道前川ダム東線道路以外にも迂回路が存在する。

(ア)本件市道前川ダム東線道路の幅員は,7.4メートルから9.3メー トルあり,カーブ前後の直線部分では容易に大型車両同士のすれ違いが 可能である。
(イ)そして,本件市道前川ダム東線道路のカーブ箇所のうち,本件工事対象道路に含まれているのは,本件カーブ箇所③,本件カーブ箇所④及び 本件カーブ箇所⑤の各箇所であるところ,本件工事完成後は,これらのカーブ箇所において,車体全幅3. 1メートル,車両全体の長さ8. 16メートルの大型ダンプ車同士が支障なくすれ違い通行することが可能 である。
(ウ)また,本件市道前川ダム東線道路を大型車両が多く通行することになるのは,本件工事によるものではなく,エネルギー回収施設の建設によ るものである。さらに,国道13号から本件エネルギー回収施設の敷地には,市道前川ダム東線を利用するほかに迂回路によっても進入できる。
(エ)そのため,本件市道前川ダム東線道路において,大型車両の対面通行 に支障はない。

(2) 本件工事の経緯の不当性

 被告の主張(1)ウ(ア)にもあるとおり,本件市道前川ダム東線道路において,直線部分で大型車両同士がすれ違うことにより大型車両同上の対面通特を行うことが可能であるから,本件エネルギー回収施設の建設予定地は, 本件大型車両対面通行可能条件を満たしている。

 そして,道路とのアクセスについての調査評価は,本件大型車両対面通行可能条件を満たしていることを前提に行ったもので,原告らが主張するような条件のすり替えを特ったものではない。

 また,清掃工場候補地検討委員会は,道幅が狭い箇所については舗装幅員の拡幅により対応可能であることから,付帯意見を踏まえつつ,川口地区を候補地として選定したのであるし,上山市は,エネルギー回収施設の 候補地を選考したにすぎないのであるから,上山市が,エネルギー回収施設建設予定地とされるには不適当であった川口地区を実質的に不当な方法 で建設予定地として選定としたという事実はない。

 被告の主張(1)ウ(イ)にあるとおり,本件エネルギー回収施設の建設予定地は,本件工事後も本件大型車両対面通行可能条件を充足している。

(3) 談合

本件入札において談合を行ったことの根拠は一切示されていないため,そのような事実は認められない。

 

第3争点(本件請負契約に基づく支出の違法性の有無)に対する判断

1 地方自治法242条の2第1項4号請求について

 原告らは,本件請負契約が公序良俗に違反し無効であるから,本件支出が違 法である旨主張しているところ,本件支出は,支出負担行為である本件請負契 約の債務の履行の一部としてされているのであるから,本件請負契約が私法上無効といえる場合には,横戸が,本件請負契約に基づく本件支出を行ってはな らないという財務会計法規上の義務を負うことになるものというべきである。

(1) そこで,本件請負契約が公序良俗に反し私法上無効といえるか否かについて検討する。

ア 通行権等侵害について

(ア)原告らは,本件工事及び本件エネルギー回収施設の建設によって本件市道前川ダム東線道路を通行する大型車両が増加するにもかかわら ず,本件工事によっては本件市道前川ダム東線道路における大型車両 のすれ違いの困難さを完全に解消できない旨主張する。

(イ)しかし,前記前提事実(3)のとおり,本件工事は,本件工事対象道路について,工期を平成27年6月1日から平成28年3月18日とし て,掘削や盛土による道路改良,消雪施設設置及び直線部を中心とし た拡幅等を目的とする工事であるところ,本件工事により大型車両の通行量が継続的かつ大量に増加することを認めるに足りる証拠はない。 また,本件エネルギー回収施設には,8トンのロングダンプの出入りが予定されていることは当事者間に争いがないから,本件市道前川ダム東線道路において,今後一定の大型車両の通行量の増加が見込まれるものの,今後見込まれる大型車両の通行量の増加は,本件工事によ る本件市道前川ダム東線道路の利便性の改良等に伴うものではなく, 飽くまで本件エネルギー回収施設の建設に伴うものであると認められ る。

 そうだとすると,今後,本件エネルギー回収施設の建設に伴い大型 車両の通行量の増加が見込まれ,本件工事によっては本件市道前川ダム東線道路における大型車両のすれ違いの困難さを完全に解消できないとしても,それだけで本件工事が公序良俗に反するとはいえない。

(ウ)かえって,証拠(乙5の2)及び弁論の全趣旨によれば,本件工事完了後の本件市道前川ダム東線道路について,本件カーブ箇所①及び 本件カーブ箇所②は,そもそも本件工事対象道路に含まれていない結果,大型車両同上のすれ違いの困難さは解消されていないことが認められるものの,本件カーブ箇所③及び本件カーブ箇所④は,それらの カーブ箇所付近において車両全体幅3.1メートル,車両全体の長さ 8.16メートルの大型車両同士が容易にすれ違うことができることが認められるから,本件請負契約は,大型車両のすれ違いについて従前以上の対策を講じたものであるといえる 。なお,原告らは,本件力 ーブ箇所④において,車両全体幅2. 7メートルの大型車両のすれ違いが困難である旨主張し,これを裏付ける証拠として甲第23号証を提出しているものの,同号証によっても原告らの主張を認めることは できない。

(エ)よって,原告らのかかる主張には理由がない。

(オ)なお,原告らは,本件工事が,本件エネルギー回収施設の建設と連結した工事であるから,本件エネルギー回収施設の建設による通行量の増加を一体的に捉えるべきである旨の主張をしているところ,仮に原告らのかかる主張を前提としても,原告Bらの大型車両の通行及び緊急車両の通行が困難となったり,歩行者や軽車両の道路通行の安全が妨害されるといった程度にまで,本件市道前川ダム東線道路を通行する車両の通行量の増加があると認めるに足りる証拠はないか ら, 原告B及びその従業員らの平穏生活権並びに歩行者らの通行権が侵害されるとはいえない。また,原告らは,本件工事によって 本件市道前川ダム東線道路の全ての箇所において大型車両のすれ違いが可能とならなければ,本件市道前川ダム東線道路における大型車両のすれ違いの問題は解消されず,違法な通行権等の侵害となる旨の主 張をしているところ,本件市道前川ダム東線道路全ての箇所において大型車両がすれ違うことができなければ原告Bらの大型車両等 の通行が不可能ないし困難になるほどの,本件市道前川ダム東線道路 における通行量の増加があると認めるに足りる証拠はないし,仮に原告らに,本件市道前川ダム東線道路の大型車両の通行等に関 する何らかの権利があるとしても,本件各カーブ箇所において大型車両がすれ違うことに関する権利があるとまで認めることはできない。 よって,原告らのかかる主張は,上記結論に影響を及ぼすものではな い。

イ 本件工事の経緯の不当性について

(ア)原告らは,上山市が設置した清掃工場候補地検討委員会の本件エネルギー回収施設の建設予定地選定行為と上山市の本件請負契約締結行為は 一連の行為であるところ,上記選定行為は,実質的に不当な方法で行わ れているから,本件請負契約あるいは本件工事を含む全体として公序良 俗に反する旨主張する。

(イ)しかし,証拠(甲6ないし11)及び弁論の全趣旨によれば,上山市は,清掃工場候補地検討委員会を設置し,エネルギー回収施設の上山市内の候補地の選考及び調査評価を行い,これを受けて,山形広域環境事務組合が,他の市町の候補地と併せてエネルギー回収施設の建設予定地を検討した結果,川口地区を選定したものであり,本件エネルギー回収施設の建設予定地選定行為の主体は山形広域環境事務組合であることが認められる。このように,本件請負契約は,本件エネルギー回収施設の建設予定地選定行為と主体を異にするものであり,また,本件エネルギ 一回収施設の建設を事実上の契機として行われた本件工事を目的とする 請負契約にすぎないのであって,本件エネルギー回収施設の建設予定地 選定行為とは独立したものであると認められるから,仮に原告らの主張どおり,本件エネルギー回収施設の建設予定地選定行為に何らかの違法性があったとしても,そのことをもって,本件請負契約が直ちに公序良俗に反し私法上無効となるとまではいえない。

(ウ)また,原告らが主張するような,上山市が選定条件のすり替えを行ったと認めるに足りる証拠はなく,前記1(1)ア(ウ)及び前記前提事実(2)か らすると,本件市道前川ダム東線道路が,本件工事前及び本件工事後に 本件大型車両対面通行可能条件を満たしていないとまでは認められない。 そして,本件工事の内容が,本件市道前川ダム東線道路の全ての箇所に おいて大型車両のすれ違いを可能にするものでなければ ,本件工事が公序良俗に反するものとなるわけではないことは,前記1(1)アのとおり である。 (エ)よって,原告らのかかる主張には理由がない。

 

ウ 談合について

(ア)証拠(甲13)によれば,上山市は,平成27年5月29日,本件工事について,予定価格を1億1763万5000円(税抜)とする入札 を行い,A土建を含む10社が参加したところ,最高入札額は,1億 2300万円(税抜)で,最低入札額は,1億1650万円(税抜)で あったことが認められ,本件工事のような類型の工事における入札においては,工事業者が多数の費目を積算して価格を決定することは当事者間に争いがない。

(イ)原告らは,前記(ア)の認定事実によって本件入札における談合が推認される旨主張するが,前記(ア)の認定事実は,飽くまで入札結果にすぎず, 談合の具体的内容について明らかにするものではなく,他にA土建を 含む本件入札参加工事業者による具体的な談合の事実を認めるに足りる 証拠はない。

(ウ) よって,原告らの談合に係る主張には理由がない。

 

 したがって,本件請負契約が公序良俗に違反し私法上無効となる旨の原 告らの主張はいずれも採用できず,他に,本件請負契約が私法上無効とな ったり,本件請負契約を締結した市の判断に,裁量権の範囲の著しい逸脱又はその濫用があるといった事情も認められないから,本件請負契約が私法上無効であるとはいえない。

(2) したがって,本件請負契約に基づく上山市の義務の履行として,横戸が本件支出をしたことに財務会計法規上の義務に違反する違法な点はないというべきであるから,横戸が上山市に対して損害賠償責任を負うということはで きない。

(3) また,上記検討のとおり,本件請負契約が私法上無効であるとはいえない から,上山市は,A土建に対して不当利得返還請求をすることができない。

 

2 地方自治法242条の2第1項1号請求について

 契約に基づく債務の履行として行われる公金の支出について地方自治法242条の2第1項1号に基づく差止めを請求することができるのは,当該契約が私法上無効である場合に限られると解される(最高裁昭和56年(行ツ)第144号同62年5月19日第三小法廷判決・民集41巻4号687頁参照)と ころ,前記1(1)アで判示したとおり,本件請負契約が私法上無効であるとい う事情は認められないから,原告らのかかる主張は認められない。

 

第4 結論

 以上のとおり,原告らの請求は,いずれも理由がないからこれらを棄却することとし,主文のとおり判決する。

 

山形地方裁判所民事部
裁判長裁判官 松下貴彦
裁判官 曽我 学
裁判官 菅原光祥

 


 

 ※ 以下、判決のスキャンデータ

f:id:mamorukai:20161229032304j:plain

f:id:mamorukai:20161229052828j:plain

f:id:mamorukai:20161229052845j:plain

f:id:mamorukai:20161229052913j:plain

f:id:mamorukai:20161229052935j:plain

f:id:mamorukai:20161229053000j:plain

f:id:mamorukai:20161229052949j:plain

f:id:mamorukai:20161229053011j:plain

f:id:mamorukai:20161229053019j:plain

f:id:mamorukai:20161229053032j:plain

f:id:mamorukai:20161229053040j:plain

f:id:mamorukai:20161229053048j:plain

f:id:mamorukai:20161229053110j:plain

f:id:mamorukai:20161229053120j:plain

f:id:mamorukai:20161229053130j:plain

f:id:mamorukai:20161229053159j:plain

 

上山市川口一般廃棄物焼却施設建設工事及び操業差し止め請求事件 訴状を提出いたしました | 山形県上山市川口清掃工場問題

f:id:mamorukai:20161222192424j:plain

 これまで山形県の環境と観光産業を守る会は、上山市川口に計画実行されている公称エネルギー回収施設(実質一般ごみ焼却施設)に関し異議を唱え、設置主体である山形広域環境事務組合、及び上山市(組合の構成員)、山形県を相手に刑事告発、住民監査請求、訴訟等を行って参りました。

 これ以前にも、平成24年より意見書や反対署名、話し合い等を繰り返しておりましたが、意見は平行線を辿るばかりで合意できなかったため、現在に至っております。上山市川口地区が一方的に候補地として浮上したのは、平成24年5月のことでしたが、川口に至る以前にも現焼却施設の老朽化という理由で、平成11年に山形市志土田地区、13年に山形市蔵王半郷地区、18年に上山市柏木地区、22年に上山市大石陰地区と候補地を定めながらも住民の反対運動が激しく、4度に渡り計画を断念した経緯があります。これまで実に17年を要しながら、組合は何故反対運動が起きるのかを真摯に検討することなく、突然候補地として指名し、ごり押しをするという強硬策を取り続けました。抜本的な解決の方策を模索する努力を怠り、同様のやり方で決定することは、行政としての職務怠慢ではないかと思えます。17年の間に時代は変化し、見直しをする必要性もあったはずです。
 また、建設地の決定を急ぐあまり、公共事業としての環境アセス、設計、入札、施工等においてあまりにも拙速で杜撰な工程ではなかったのか、今後の裁判で明らかにして行く所存です。

現在守る会は、下記4件の裁判を継続中です。

  1.  組合に対する新ちゅうかわ橋架橋工事公費返還を求める住民訴訟
  2.  山形県に対する一級河川忠川の河川占用許可取消を求める行政訴訟
  3.  上山市に対する上山市道改良工事の公費返還を求める住民訴訟
  4.  組合に対する敷地造成工事の公費返還を求める住民訴訟
  5.  組合に対する一般廃棄物焼却施設建設禁止を求める行政訴訟

 1~4について、守る会は平成27年1月より順次提訴し、現在も訴訟を続けております。そして、去る平成28年12月6日、新たに川口エネルギー回収施設本体工事禁止を求める訴訟を5として提起しましたので、ご報告致します。

 これまでの訴訟はすべて、この施設の周辺整備工事に関する差止を求める内容でしたが、今回の訴訟は、周辺住民の人権保護に基づく趣旨です。山形地裁に提出された訴状は100ページ以上に渡る内容ですので、全文を公開せずに訴状冒頭部と、最後尾の「結語」を掲載致します。全体の内容につきましては、訴状の目次としてご覧戴ければ概要がお分かり戴けるかと思います。この本体工事差止を求める訴訟は、山形広域環境事務組合に対し、周辺の被害を受ける原告は7名(守る会会員)となっております。

 この訴訟につきましては、ごみ弁連(たたかう住民とともにごみ問題の解決をめざす
弁護士連絡会)会長の梶山正三弁護士(理学博士)と、同事務局長の坂本博之弁護士に、原告側の弁護をお願い致しました。この裁判の日程等は未定です。

f:id:mamorukai:20161222015234j:plain

f:id:mamorukai:20161222015244j:plain

f:id:mamorukai:20161222015254j:plain

f:id:mamorukai:20161222015310j:plain

f:id:mamorukai:20161222015320j:plain

f:id:mamorukai:20161222015332j:plain

f:id:mamorukai:20161222015344j:plain

f:id:mamorukai:20161222015353j:plain

f:id:mamorukai:20161222015402j:plain

f:id:mamorukai:20161222015411j:plain

12月6日に行われた裁判に提出された書類の公開 | 上山市清掃工場用地造成工事公金差止請求住民訴訟事件

f:id:mamorukai:20161219193847j:plain

 山形広域環境事務組合は、上山市川口の公称エネルギー回収施設敷地造成工事を、平成27年8月より開始しました。しかし守る会は、多くの理由からこの造成工事は不正として、支出した公金の返還を求めています。(これまでの経緯をご覧ください)。

 まずこの敷地は、南側を里山(通称物見山)、北側を奥羽本線山形新幹線)東側を一級河川忠川(上流前川ダムのコンクリート放水路)に囲まれた細長い三角形の土地です。

f:id:mamorukai:20161221182601j:plain

 造成前この土地は、ほとんどが田んぼと、少しの畑でした。一般的に、この用途を変更して開発行為をおこなう場合、山形県に「開発許可」を申請する必要があります。この場所は「都市計画区域及び準都市計画区外の区域」ですが、開発区域が10,000㎥以上の場合は、通常開発許可が必要です。この敷地は約3.6ha(36,000㎥)ですが、エネルギー回収施設は、(3)公益上必要な建築物のための開発行為(法第29条第1項第3号)に該当するため、開発行為の許可は不要となっています。

 以上の理由で、組合が3.6haという広大な農地をごみ焼却場建設とする工事は、チェックを受けることなく造成工事を請け負った企業の計画に沿って進めることになりました。これだけの開発行為が「公益上必要な施設の建設」という理由で簡略に認められてしまうことは驚きです。とはいえ、発注者である組合には、発注者としての責任があります。

以上のような経緯で、組合は造成工事に着手しましたが、守る会はこの敷地が標高400m程度の里山や、前川ダム放水路に接している地形に危惧の念を抱いています。

 その理由の一つとして、まず里山に降った雨が、この敷地を通じてダム放水路(忠川)に排出されてしまうことが挙げられます。敷地自体は3.6haであるものの、接する里山に降る雨も含めた降雨面積は、組合の計算によると32.5haとなっています。これまで里山や田畑に降った雨は、地面の保水力に助けられ、一定量敷地に貯水されていました。しかし、敷地が開発されて保水力を失えば、32.5ha分の降雨が前川ダム放水路を通じて、前川に排水されることになります。

 近年は、想定外の豪雨も多く、平成25・26年連続して前川が溢水の被害を受けている現状を考えれば、これ以上の雨水や工場排水を放水路に流すことは危険です。造成工事において、この里山に降った雨については、山際に設けられた水路を通じて放水路に排水されます。東側で忠川に接するコンクリート護岸壁には、敷地から排水するための排水樋菅と排水口が設けられました。守る会は、上記前川ダム放水路(忠川)やその下流である前川に与える影響に鑑み「この排水計画は、河川法上違法」として、訴訟を続けています。いかに開発許可が不要であろうとも、敷地が接する一級河川に与える悪影響を、河川法の視点で検証しなかった組合の過失は大きい。下流域の人命や資産に関わることであり、産業活動をも脅かすことになりかねません。

 また、この前川ダム放水路のコンクリート護岸の劣化が近年著しく、特に造成工事を行っている面に、多くの亀裂が入っていることも問題点の1つです。これまで田畑のみを支える構造計算であった構造物が、このような土圧や工事の振動に耐えられるとは考えにくく、はなはだ疑問に思えます。

 去る12月6日に行われた裁判(平成28年(行ウ)第1号 上山市清掃工場用地造成工事公金差止請求住民訴訟事件)において、守る会は、組合が行った雨水排水計算に誤りがあることを具体的に指摘し、本来敷地内に流量調整池を設けるべきであり、現計画は違法であると結論付けています。

 これまでの敷地造成工事の違法性に関する守る会の主張に対し、この裁判において被告である山形広域環境事務組合は第3、第4準備書面を提出しましたので、下記公開致します。この書面内容は、守る会にとって全く理解を超える内容であるため、次回裁判(平成29年2月14日)までに更なる反論を行う予定です。

 ※ 今回提出された準備書面は、「第3」「第4」準備書面で、これまで山形広域環境事務組合は2回(第1・第2)準備書面を提出しています。この第3・4準備書面は、これまでに原告・被告が提出した準備書面から連続した内容であるため、この内容を読むだけではよくわからないと思います。その場合は、当ブログの過去の記事を参考に、ご覧下さい。

被告提出 第2準備書面についてはこちら:

被告提出 答弁書についてはこちら:

 原告提出 訴状についてはこちら:

 

この裁判(平成28年(行ウ)第1号 上山市清掃工場用地造成工事公金差止請求住民訴訟事件)の概要:
 清掃工場(公称エネルギー回収施設)を建設するための造成工事(平成28年5月31日工事終了)が不適切であるため、すでに支出した公金の返還を求める訴訟です。 守る会は、組合の監査委員に対し住民監査請求を行ったものの、棄却されたため 住民訴訟を提起しました。 

準備書面とは:
 民事訴訟で、当事者が口頭弁論において陳述しようとする事項を記載して、あらかじめ裁判所に提出する書面です。原告・被告がこの書面にお互いの主張を書いてやりとりすることで裁判は進行します。


*内容はブログ用に編集しております。

f:id:mamorukai:20161221183148j:plain

平成28年(行ウ)第1号上山市清掃工場用地造成工事公金支出差止請求住民訴訟事件

原告 *********
被告 山形広域環境事務組合管理者佐藤孝弘

第3準備書面

平成28年12月2日

山形地方裁判所 民事部 合議係 御中

被告訴訟代理人
弁護士  内藤和暁
同 古澤茂堂
同(担当)小野寺弘行

原告ら準備書面(2)に対する反論

第1 河川法違反との原告ら主張の不相当性
1 原告ら準備書面(2)の第3の一(2頁乃至4頁)は,
「・・・忠川及び前川については,河川管理者である山形県は,河川整備基本方針も河川整備計画も定めていない。・・・忠川及び前川については,このように河川管理を行うための基礎となる計画高水流量等の数値が定められていないのであるから,...忠川及び前川の流量に対して,従前よりも大きな負荷を与えることになる工事については,原則として,河川法に基づく河川管理方法に違反しているものと考えるべきであり,且つ,そのような河川法に違反する工事は,公共の安全性を害するものと推定され,民法上は公序良俗に違反するものと判断されなければならない。」(原告ら準備書面(2)の第3の一4《4頁下段》)
と主張している。

2 上記原告ら主張は忠川及び前川に関して河川盤備計画,河川整備基本方針が存在しないとしているが,実際には,忠川及び前川に関する河川整備計画,河川整備基本方針は存在するものである。
 すなわち,まず,河川整備計画については,山形県知事は,村山圏域の知事管理区間の河川整備計画として,平成15年9月24日に一級河川最上川水系村山圏域河川整備計画(知事管理区間)を策定し,平成25年3月1日にその一部変更を行ったものであるが,忠川及び前川は,この一級河川最上川水系村山圏域河川整備計画[変更](知事管理区間)の対象となっているものである(甲第20号証 一級河川最上川水系村山圏域河川整備計画[変更]《知事管理区間》13頁の「1-3-3 計画対象区間」,「村山圏域の知事管理区間149河川,延長775kmを計画対象区間とする。」との部分を参照)。
 河川整備基本方針についても,河川法第16条第2項に「河川整備基本方針は,・・・水系ごとに,その水系に係る河川の総合的管理が確保できるように定めなければならない」とあるように,河川整備基本方針は水系ごとに作成することとなっているところ,国土交通省は,一級河川最上川水系に含まれる河川に関する河川整備基本方針として,最上川水系河川整備基本方針(乙第5号証)を定めているものである。忠川及び前川も,一級河川最上川水系に含まれる河川であることから,国土交通省の定めた河川整備基本方針である,最上川水系河川整備基本方針(乙第5号証)の対象となっているものである。
 従って,忠川及び前川に関して河川整備計画,河川整備基本方針が存在しないなどとする上記原告ら主張には,そもそも理由がないものである。

3 また,上記原告ら主張は,「忠川及び前川の流量に対して,従前よりも大きな負荷を与えることになる工事については,原則として,河川法に基づく河川管理方法に違反している」,「そのような河川法に違反する工事は,公共の安全性を害するものと推定され、民法上は公序良俗に違反する」などとしているが,河川管理者ではない被告が行う本件のような一般の造成工事について,何故,河川の流量に負荷を与えることによって工事が河川法違反となるのか,原告ら主張の根拠及び論理関係が不明といわざるを得ないものである(河川の流量が増加すれば河川法違反とする上記原告ら主張によれば,一般の舗装工事等も全て河川法違反となりかねないものである。)。

4 よって,本件工事請負契約が河川法違反によって公序良俗違反となる旨の上記原告ら主張には,全く理由がないものである。

 

第2 山形県雨水排水対策指導要綱違反との原告ら主張の不相当性

1 原告ら準備書面(2)の第3の三(5頁乃至9頁)は,本件工事においては調整池の設置を行っていないことから,本件工事は山形県雨水排水対策指導要綱に違反して違法であり,本件工事請負契約は公序良俗違反により無効である旨を主張している。

2 原告ら準備書面(2)の第3の三2(1) (5頁)は,「本件清掃工場建設計画に関わる総面積は32.5 haであるから,『山形県河川流域開発に伴う雨水排水対策指導要網』に従って,調節池等を設置するなどの対策を取る必要があった」としている。
 しかしながら,被告第1準備書面第2の2(1)(8頁,9頁)の繰返しとなるが,「山形県河川流域開発に伴う雨水排水対策指導要綱」においては,同要綱が定める規定の対象となる,河川への排水量増加による河川の洪水処理計画への影響を検討する必要が生じる大規模な開発を,開発面積5ha以上の場合としているものである(乙第4号証 報告書の資料2「山形県河川流域開発に伴う雨水排水対策指導要綱」第3条)。これに対し,本件造成工事は対象面積3.6haであり(乙第4号証 報告書の別紙1)、上記基準未満であることから,そもそも,本件工事については,「山形県河川流域開発に伴う雨水排水対策指導要網」が定める規定の 適用はないものである。

3 原告ら準備書面(2)の第3の三2(4) (6頁,7頁),3(3)(8頁,9頁)は,「本件開発行為に伴って,前川に放流される最大流量が,開発前と比して1%を超える」ことから,「山形県河川流域開発に伴う雨水排水対策指導要綱」が定める調整池等設置基準(工事による雨水流出量の増加が計画高水流量の1%増となる場合には洪水調整池検討を必要とする,甲第16号証雨水排水計画20頁参照)に違反しており,本件工事は「山形県河川流域開発に伴う雨水排水対策指導要綱」に違反する違法なものである旨を主張している。
 そして,原告らは,かかる「前川に放流される最大流量が,開発前と比して1%を超える」ことの根拠として,甲第16号証の雨水排水計画の排水施設能力(基準点I 1.564㎥/s,基準点II 3.556㎥/s) (甲第16号証の19頁)と,原告らが山形県の河川整備計画の基礎資料となっている降雨強度式に基づいて算出した降雨確率年5年の降雨強度(mm/h)によって洪水流出モデルを使用して計算した流出量(基準点I 0.75㎥/s, 基準点II 2.19㎥/s)の差が計2.18㎥/sであり(甲第57号証の4頁乃至6頁),忠川の計画高水流量170㎥/sの1%を超えている旨を主張している。
 しかしながら,乙第4号証の報告書にあるように,甲第16号証の雨水排水計画の排水施設能力の流出量(基準点I 1.564㎥/s,基準点II 3.556㎥/s)の算出の前提となっている降雨は,降雨確率年10年の降雨強度(mm/h) による降雨であり(基準点Iにおいては降雨強度75.33mm/h, 基準点IIにおいては降雨強度64.62mm/hの降雨《乙第4号証の別紙3,4》),原告ら主張が挙げる降雨確率年5年の降雨強度の降雨(基準点Iにおいては降雨強度48.46mm/h, 基準点IIにおいては降雨強度48.56mm/hの降雨《甲第57号証の6頁》)とは異なっているものである。
 すなわち,本件工事前後の流出量の差が計2.18㎥/sであるとする上記原告ら主張は,甲第16号証の雨水排水計両が工事後の流量を降雨確率年10年の降雨強度の降雨で計算しているのに対し,工事前の流量については,これより大幅に降雨強度の低い,降雨確率年5年の降雨強度の降雨で計算を行っているものである。
 工事前後の雨水流出量の増加量を論じるに当たって,同一の降雨強度の降雨を前提にする必要があることは当然のことであり,異なる降雨強度の降雨による計算結果をもって,工事前後の雨水流出量の増加量を論じている上記原告ら主張は,そもそも,計算の前提を誤っているといわざるを得ないものである(さらにいえば,甲第57号証の6頁は,t=25.1分とt=33.9分の降雨強度が同一となっており,計算も誤っているものである。)。
 従って,「前川に放流される最大流量が,開発前と比して1%を超える」との上記原告ら主張にも,理由がないものである。

4 原告ら準備書面(2)の第3の三3(2) (7頁,8頁)は本件工事について,道路土工要綱ではなく山形県の河川整備計画の基礎資料となっている降雨強度式によるべきこと,降雨確率年5年の降雨強度とすべきこと,造成地の流出係数を0.6とすべきことを主張しているが,いずれも独自の見解を述べるに過ぎず,理由がないものである。

5 なお,原告ら準備書面(2)の第3の三2(2)(5) (5頁乃至7頁)は,「山形県河川流域開発に伴う雨水排水対策指導要綱」について,「この要綱を守らない流域開発計画は,開発区域の周辺や下流流域の住民に対して災害を誘発する恐れがあるということが推定されるものと言うべきであり,そのような開発行為を行うことを内容とする契約は,原則として,公序良俗違反となって無効となる」,「調節池の設置を行っておらず,その検討すらもしていない本件造成工事の計画は違法であり,それをもとになされた工事請負契約は公序良俗に違反して無効である」などとしているが,仮に「山形県河川流域開発に伴う雨水排水対策指導要網」の規定によれば調整池の検討が必要であったとした場合においても,調整池の点に留まらず,何故,本件工事の工事請負契約全体が違法となるのか,原告ら主張の根拠及び論理関係が不明といわざるを得ないものである。

6 従って,いずれにしても,本件工事が山形県雨水排水対策指導要綱に違反して違法であり,本件工事請負契約は公序良俗違反により無効であるとする原告ら主張にも,理由がないものである。

以上

 


 

f:id:mamorukai:20161221183211j:plain

平成28年(行ウ)第1号上山市清掃工場用地造成工事公金支出差止請求住民訴訟事件

原告 *********
被告 山形広域環境事務組合管理者佐藤孝弘

第4準備書面

平成28年12月5日

山形地方裁判所 民事部 合議係 御中

被告訴訟代理人
弁護士  内藤和暁
同 古澤茂堂
同(担当)小野寺弘行

本件造成工事に係る財務会計行為

1 工事請負仮契約の締結
 被告管理者山形市長市川昭男(当時)は,平成27年7月3日,**建設・**土建建設工事共同企業体の代表者である**建設株式会社代表取締役****との間で,**建設・**土建建設工事共同企業体が本件造成工事を請負代金3億7098万円にて請負うとの工事請負契約の仮契約である,エネルギー回収施設(川口)敷地造成工事の工事請負仮契約書(乙第1号証)を締結した。同仮契約においては,被告議会の議決を経た時は本契約書に切り変わるものとされていた(乙第1号証 工事請負仮契約書1枚目)。

2 議会の議決による本契約書への切り変え
 平成27年7月24日,被告議会定例会において**建設・**土建建設工事共同企業体との上記工事請負契約の議決がなされた。 これにより,上記のエネルギ一回収施設(川口)敷地造成工事の工事請負仮契約書(乙第1号証)は同日をもって仮契約から本契約書に切り変わり,被告管理者山形市長市川昭男(当時)は、**建設・**土建建設工事共同企業体に対し,同日,その旨を通知した(甲第2号証 建設工事請負契約締結の議決通知書)。

3 前払金の支出
 被告管理者山形市長市川昭男(当時)は,平成27年8月20日,**建設・**土建建設工事共同企業体に対し,上記工事請負契約の前払金として1億4014万円を支払った(甲第3号証 請求書《支出調書》兼支出命令票《歳出簿》)。

4 工事請負仮変更契約の締結
 被告管理者山形市長佐藤孝弘は平成28年2月10日,**建設・**土建建設工事共同企業体の代表者である**建設株式会社代表取締役****との間で、上記工事請負契約の請負代金を974万520円増額するとの変更契約の仮契約である、第1回工事請負仮変更契約書(乙第6号証)を締結した。同仮契約においては,被告議会の議決を経た時は,本契約書に切り変わるものとされていた(乙第6号証 第1回工事請負仮変更契約書1枚目)。

5 議会の議決による変更契約の本契約書への切り変え
 平成28年2月17日,被告議会定例会において**建設・**土建建設工事共同企業体との上記変更契約の議決がなされた。 これにより,上記の第1回工事請負仮変更契約書(乙第6号証)は同日をもって仮契約から本契約書に切り変わり、被告管理者山形市長佐藤孝弘は,**建設・**土建建設工事共同企業体に対し,同日,その旨を通知した(乙第7号証 建設工事請負変更契約締結の議決通知書)。

6 出来高払い分の支出
被告管理者山形市長佐藤孝弘は、平成28年4月28日,**建設・**土建建設工事共同企業体に対し,上記工事請負契約の平成27年度出来高払い分として1億8343万8000円を支払った(乙第8号証 請求書《支出調書》兼支出命令票《歳出簿》)。

7 完成払い分の支出
**建設・**土建建設工事共同企業体は,平成28年5月27日,上記工事請負契約に基づくエネルギー回収施設(川口)敷地造成工事を完成させ,被告管理者山形市長佐藤孝弘に対し,その旨を通知した(乙第9号証 完成通知書)。 **建設・**土建建設工事共同企業体は,平成28年6月6日,被告の完成検査を受けた後,目的物の引渡しを行った(乙第10号証 目的物引渡書)。 被告管理者山形市長佐藤孝弘は,平成28年6月17日,**建設・**土建建設工事共同企業体に対し,上記工事請負契約の完成払い分として5714万2520円を支払った(乙第11号証 請求書《支出調書》兼支出命令票《歳出簿》)。

以上

今後予定されている裁判:

平成28年12月27日
平成27年(行ウ)第1号 上山市忠川河川占用許可取消請求事件

組合が設置した進入路に架かる新橋が、一級河川忠川を占用していることが不当として、山形県に対して許可取り消しを求める行政訴訟です。

平成28年12月27日
平成27年(行ウ)第2号 忠川橋梁建設公金差止請求住民訴訟事件

既に完成した敷地に入るための新橋設置工事に掛かった公金支出の差し止めを求める住民訴訟です。

 


以下は準備書面のスキャンデータです。

f:id:mamorukai:20161221183148j:plain

f:id:mamorukai:20161219200802j:plain

f:id:mamorukai:20161219200809j:plain

f:id:mamorukai:20161219200815j:plain

f:id:mamorukai:20161219200820j:plain

f:id:mamorukai:20161219200826j:plain

f:id:mamorukai:20161221183211j:plain

f:id:mamorukai:20161219200846j:plain

f:id:mamorukai:20161219200852j:plain

上山市清掃工場用地造成工事 公金差止請求住民訴訟事件:昨日の裁判について | 山形県上山市川口清掃工場問題

f:id:mamorukai:20161207173024j:plain

 昨日の平成28年12月6日に山形地方裁判所において上山市川口の公称「エネルギー回収施設」敷地造成工事公金支出差し止めを求める裁判(住民訴訟弁論準備)が行われました。

 この裁判(平成28年(行ウ)第1号 上山市清掃工場用地造成工事公金差止請求住民訴訟事件)のこれまでの経緯:

 昨年(平成27年7月1日)山形広域環境事務組合は、敷地造成工事に関する入札を行い、上山市の羽陽建設・堀川土建建設工事共同体が落札。7月3日に請負代金額3億7098万円で工事請負契約を結び、 7月24日の組合議会で承認後、本契約となりました。 しかし、これに対し守る会は、

  1.  契約内容が不明確である。
  2.  河川法に違反した計画である。
  3.  談合が行われていたと考えられる

として、組合監査委員に対し平成27年10月28日、住民監査請求を行いました。その後同年12月3日、守る会代表3人が意見陳述したものの、 12月28日に棄却されたため、翌平成28年1月27日敷地造成工事公金支出差止住民訴訟を提起しました。

 12月6日まで守る会は、第1から第4準備書面と書証を山形地方裁判所に提出。それに対し組合は、第1から第4までの準備書面と書証を提出しています。

 「河川法に違反した計画である」を証明するために、守る会はこれまで河川工学博士に現場検証と分析を依頼し、組合の計画が多方面で河川法に 違反する主旨の論文を提出して参りました。12月6日に提出された甲58号証を、下記に公開致します。この論文では、組合の行った敷地からの排水量計算に誤りがあるため、下流の忠川や前川に対して組合の計画以上の水が流れるため、水害の被害を助長することを述べています。


*ブログ用に内容を一部編集しております。

平成28年11月19日

組合の清掃工場用地造成工事は 忠川、前川に重大な負荷を与える

博士:河川工学
技術士:総合技術監理(建設)
技術士:河川、砂防及び海岸 建設コンサルティング経歴30年
第一種情報処理技術者

1.造成地雨水排水量の確率年別試算(造成地開発後の10年確率流出量の比較)

 組合の用いている雨水排水計画における、流出係数、流達時間を用いて、山形県の河川整備計画で用いる確率別短時間雨量により造成地雨水排水量の確率別試算を行い、組合排水計画が、一級河川忠川及び前川における現状の流下能力に対し過大であることを述べる。

 組合は造成地の排水計画を、余裕をもたせた計画としているが、それは敷地内の安全性を優先とした意味での余裕に過ぎない。組合の示す「安全性」とは、敷地に接する山や敷地に降った雨水を迅速に忠川に排出することである。そして、敷地内の安全を確保するあまり、排出先の忠川・前川の現流下能力にとって過大かつ負荷を与える計画になり、現在でも余裕のない前川下流域に悪影響を与えることを、ここに示す。

f:id:mamorukai:20161207174542g:plain

山形県:降雨強度曲線の係数表
県でのホームページに公開されている“山形地域における河川整備計画”に準拠する。

r=a/(t^ n + b) (mm/hr)

n, a, b = 確率年により代入する

t:降雨の継続時間(分): 組合の計画値(kervey式)を用いて試算する

 近年「気候変動に伴う」とも言われている集中豪雨は、毎年のように“過去最大”と表現され、全国に被害をもたらしている。そのような現状において、流下能力が50年確率に満たない忠川、前川や造成地においても超過降雨に配慮する必要がある。

f:id:mamorukai:20161207174938g:plain

 

■ 流出量計算書
 造成地開発後(河川整備計画における降雨強度式を用いた場合、ほか流出係数、到達時間、排水面積の条件は組合計画と同様)

f:id:mamorukai:20161207175109g:plain

造成地開発後の10年確率流出量の比較をおこなう。
  Q=1.357+2.645 =4.002m3/s(県河川確率雨量強度式10年確率による)
  Q=1.498+2.923 =4.421m3/s(組合計画値)(造成地排水能力5.12m3/s)

※ 造成地開発後の排水量は、山形県河川整備計画の降雨強度式の考え方を用いると、 組合が道路土工要綱で計画した流量より余裕を見込んで10%大きく見積もられているため、排出先の河川にとっては過大となってしまう。さらに、組合の計画する排水施設能力(計画+余裕2割=5.12m3/s)と比較すれば、10年確率規模を超える降雨の場合には、28%増となった排水量が忠川、前川に流入するため、河川の大幅な負担増となる。また、組合の排水施設計画は、河川の降雨強度式を用いた場合、計算表から30~40年確率相当規模の降雨をも忠川へ排水する施設としている。このような排水計画では、未だに改修されていない前川の流下能力を超えてしまい、下流域の洪水氾濫被害を助長するものである。

【付設】上記計算による10年確率の開発後流出量は、4.002㎥/sである。 組合は、これを5.12㎥/sとしているが、この数字の差は以下の違いである。

5.12㎥/s
 組合の10年確率における道路土工要領準拠、及び計画排水量4.421㎥/sに対する排水施設計画を行った場合の、余裕も含めた“施設排水能力”である。この流量は、造成地が浸水されることなく、忠川に順調に排水されることを目的とした流量と考えられる。

・4.002㎥/s
 県が公表している河川整備計画における“山形”地域の10年確率降雨強度式(組合の道路土工要領とは異なる)を用いた数字である。組合は、道路土工要領の降雨強度式による到達時間、流出係数、排水域面積の値を用いている。

※つまり、河川計画で考える降雨外力では、同じ10年確率では4.002㎥/sであるが、道路土工要領を用いて計算すると、4.421㎥/sとなってしまう。その結果、流出量は約10%増えるため、河川にとって流入過剰となる。さらに、造成地の排水施設能力が5.12㎥/sであれば、10年確率を超える降雨でも、この量まで排水されることも考えられる。そうなれば、さらに過大放流が見込まれ、下流域に甚大な被害をもたらすこともあり得るのである。

 

2.前川氾濫推定容量と水位上昇量の推定(忠川流出量による前川への影響)

 忠川の前川ダムを含めた計画流量配分は、山形県ホームページによると0㎥/sである。現在改修されていない前川が満杯となり、危険な状況において、忠川からの合流量が重なれば、すなわちその流出量は、洪水氾濫を起こすものとなる。

 ここでは上記で算出した確率年別忠川流量に、図‐1に示す合理式の単一ハイドログラフ(流出波形)を想定し、その容量を推算して前川へ合流後の氾濫容量として算定する。また、それを想定できる氾濫面積で除し、忠川流出による氾濫水深として推算する。

f:id:mamorukai:20161207180519g:plain

氾濫容量(V㎥)= Q㎥/s × t 分×2 × 60秒 / 2

 Q :忠川流出流量: 合理式による
 到達時間内降雨強度: 合理式においては到達時間内は一定の降雨強度としている
 t : 到達時間(流達時間と同義)

前川氾濫水深(Hm) = V ㎥ / Am2(氾濫面積)

 氾濫面積は、前川の忠川合流点付近の河川幅:およそ5m程度、氾濫原延長:およそ1km(忠川と前川の合流地点から跨線橋下まで)として5m×1000m=5000m2 と想定した。つまり、現在でも未改修で流下能力の不足している前川が、1km下流の跨線橋下までの間で、護岸崩落や橋桁等への流木などによる閉塞等により満杯となる洪水状況を想定する。そこに忠川の排出容量が流入した場合、5m幅×延長1kmにおいて、平均的に水位Hがどの程度護岸を超えて上昇するかを試算した。

f:id:mamorukai:20161207180942g:plain

  • 10年確率においては7200㎥、前川計画40年確率(未整備)の降雨においては、約1万㎥もの排水容量が想定される。また、流出容量としては、雨量ピークの前後にも降雨流出があるので、実際はさらに大きな排水容量となる。
     
  • 想定する10年確率の排水量において、前川の洪水氾濫に対する影響は、その河川氾濫水深1.4m程度に達する。
     
  • 近年の集中豪雨の増加、増大傾向を考えれば、30年から100年確率規模の降雨を当然想定すべきであるが、造成地の排水は、前川氾濫水位に対して、2m程度の水位上昇が推定され、この程度の堤内地(河川外民地)への洪水氾濫被害が助長されることは容易に考えられる。すなわち、前川と忠川合流点より下流の上山市道、及び橋などが冠水することにより、この上方に住む市民の唯一の避難路さえ途絶され、重大な被害が生じることが想定される。
    通常、水深50cm程度で歩行避難は困難となり、自動車も動けず避難には使えない。市道の上流側では、平成26年豪雨の際に道路が大規模に崩落し、通行不能となったことは周知の事実である。
     

3. 造成地開発前後の雨水流出量の比較

① 造成地開発前後のピーク流出量の比較(10年確率)

組合の計画(10年確率の雨が降った場合)に従った場合、造成地開発後の排水量が、造成前と比べてどれだけ増えるかについて、検証する。ここでは、10年確率の雨が降った場合においての造成前の流出量を、河川整備計画の降雨強度式を用いて計算し、組合の雨水排水計画(10年確率)との比較を行う。

  •  造成地開発前の10年確率流出量
    降雨強度式は、山形県が公開している“山形地域における河川整備計画” (道路土工要綱とは異なる)に準拠する。降雨強度rは下式による。
    r=a/(t^ n + b) (mm/hr)
         10年確率での降雨強度式係数 n = 0.84
          a = 1721
          b = 10.2
    :降雨の継続時間(分): 組合の計画値(kervey式)を用いて試算する。
         t1 = 25.1分 : 基準点1
         t2 = 33.9分 : 基準点2

    基準点1   r1 = 1721 / (25.1^0.84+10.2) = 68.3mm/hr
    基準点2   r2 = 1721/ (33.9^0.84+10.2) = 58.4mm/hr

    流出量Q㎥/sは合理式を用いて計算する(道路土工要領、河川整備計画とも合理式)
       
    Q =1/3.6× f・r・A


     ここで、造成地開発前の流出係数 f(現況、計画)は、河川砂防技術基準より以下の地目による平均値とする。(河川砂防技術基準同解説 計画編(国土交通省河川局監修)“2.7.3洪水流出モデルの定数の決定“より)

       密集市街地:0.9      
       一般市街地:0.8     
       畑原野  :0.6      
       水田   :0.7      
       山地   :0.7

    基準点1:造成地については、ほぼ元休耕田であったため畑原野f1=0.6とする
    基準点2:ほぼ山地として、f2=0.7 を用いる。
    造成地開発前の流出量(10年確率) Q㎥/s

    ■基準点1(造成地):t=25.1分
    r1 = 1721 / (25.1^0.84+10.2) = 68.3mm/hr
    Q1 =1/3.6× f・r・A = 1/3.6× 0.6×68.3×9.30ha/100 = 1.059㎥/s

    ■基準点2(山地含む):t=33.9分
    r2 = 1721/ (33.9^0.84+10.2) = 58.4mm/hr
    Q2 =1/3.6× f・r・A = 1/3.6× 0.7×58.4×23.20ha/100 = 2.634㎥/s

    ■合計の排水量
    Q=Q1+Q2=1.059+2.634 = 3.693㎥/s

【付設】ここで行った造成地開発前の10年確率の流出量計算結果3.693㎥/sが、 本論P2の計算表の10年確率の合計Q=4.002㎥/sと異なるのは、流出係数の違いである。造成地建設前の建設地を河川砂防技術基準相当の値としており、後者は造成地開発後雨水排水計画の組合が示す流出係数を用いたものである。

これより、造成地開発前後の10年確率の流出量を比較すると
□ 造成地開発後 組合排水計画(10年:道路土工要綱による)Q=4.421 ㎥/s
■ 造成地開発前 河川計画の考え方               Q =3.693 ㎥/s

造成地開発による増加量は、10年確率の降雨時に、

4.421-3.693=+0.728㎥/s 増 となる。

また、増加率は、4.421 / 3.693 = 1.197倍 となり、約20パーセント増加することとなる。

 ここでは造成地開発前の到達時間(流域上流最遠点から排水地点までの流下時間)を、組合のコンクリート排水路が整備された状況の速い流速で試算しているが、本来造成前の流出速度は開発後より遅いため、洪水の集中も分散されて、到達時間も長くなり、造成地開発前の流出量がさらに小さかったことは容易に想定できる。

 

② 造成地開発前後のピーク流出量の比較(40年確率)

 前川や忠川の治水計画(H9河川法改正以降、河川整備計画・河川整備基本方針は未策定であり、河川法上の正式なものではないという前提)は、40年確率の流出量を算定している。一方、組合は10年確率の計画を立てたうえで、40年確率の前川の流量と比較しており、造成地雨水排水量と比較して過小評価をしている。実際40年確率の流出量について、前川にどのくらい負荷を与えるか、という計算をしてみる。

・本論での40年確率流出量:5.298㎥/s(本資料P2計算表)
・造成前の40年確率の想定流出量は以下に計算する。

造成地開発前の流出量(40年確率) Q㎥/s

■基準点1(造成地):t=25.1分
r1 = 2875 / (25.1^0.89+14.2) = 90.4mm/hr
Q1 =1/3.6× f・r・A = 1/3.6× 0.6×90.4×9.30ha/100 = 1.401㎥/s

■基準点2(山地含む):t=33.9分
r2 = 1721/ (33.9^0.89+14.2) = 77.3mm/hr
Q2 =1/3.6× f・r・A = 1/3.6× 0.7×77.3×23.20ha/100 = 3.487㎥/s

■合計の排水量
Q=Q1+Q2=1.401+3.487 = 4.888㎥/s

【付設】この造成地開発前の流出量計算結果である4.888㎥/sが、本論P2の計算表の40年確率の合計Q=5.298㎥/sと異なるのは、流出係数の違いである。そして、造成前の建設地を、河川砂防技術基準相当の値としている。後者は、造成地開発後の雨水排水計画における道路土工要綱に基づく最大値であり、組合が計画の流出係数を用いたことによる。

 これより、造成地開発前後の40年確率の流出量を比較すると

□造成地開発後 組合排水計画諸元(道路土工要綱の最大流出係数)Q=5.298㎥/s
■造成地開発前 河川計画の考え方(流出係数、降雨強度式)   Q =4.888㎥/s

造成地開発による増加量は、40年確率の降雨時に、

5.298-4.888=+0.410㎥/s 増であり

増加率は、5.298 / 4.888 = 1.084倍 となり、約8パーセント増加することとなる。  ここでは造成地開発前の到達時間(流域上流最遠点から排水地点までの流下時間)を組合のコンクリート排水路が整備された状況の速い流速で試算しているが、本来、造成前の流出速度は開発後より遅いため、洪水の集中も分散されて、到達時間も長くなり、造成地開発前の流出量はさらに小さかったことは容易に想定できる。

③ 造成地開発前の休耕田の貯留による流出抑制効果

 造成地開発前の状況において、山地も含む休耕田の流域の流出量は、一旦休耕田(造成地開発区域と同等)である低地に湛水し、忠川へ排水されると考えられる。この貯留する容量Vは、休耕田の深さを、あぜ道等と想定して平均的に30cmとし、組合の建設地面積(雨水排水計画P4)0.032+0.004=0.036 km2を用いると、

貯留V㎥/s=0.3m×(0.036×1000×1000)m2 = 10800 m3

この休耕田の湛水、貯留容量は、10800 m3程度を見込めることとなる。ここで前期記、表―4 忠川流出量による前川氾濫水深Hの推定表における氾濫容量(忠川への流出)と比較すれば、50年確率降雨での流出氾濫量 V=9905 m3は、全て貯留されるため、忠川及び前川への流出量は、0m3とできる効果がある。
 仮に平均的に20cmの湛水深と想定しても、貯留容量は

貯留Vm3=0.2m×(0.036×1000×1000)m2 = 7200 m3

となり、同じく表―4における氾濫容量Vは10年確率で7204 m3をほぼ貯留、調節できる効果を持っていたと推算できる。

このように休耕田における貯留効果は、少なくとも10年確率~50年確率を有しており、忠川、前川へのピーク排水量を0m3と出来ていたことがわかる。故に、造成地盛土、開発により、流出係数f=1.0(造成地への流出量を全て排水する)を想定した組合の計画は、この造成前の貯留効果を無にするものであり、同等の貯留容量を持つ雨水貯留施設を設置しなければ、忠川を通して流下能力の不足している前川で洪水氾濫を起こすことは明らかである。

※組合造成地の雨水排水施設の流下能力5.12m3/s(施設断面の余裕を含む:10年確率)は、本来忠川の流量が0m3/で計画されているので、仮に前川合流河川の計画流量170m㎥/s (40年確率)との比較をするとしても3.0%となり、1.0%を超えるため、雨水貯留池などの流出抑制施設を設置しなければ、前川への氾濫被害を助長することになる。と共に「山形県河川流域開発に伴う雨水排水対策;第6条(調節地の設置基準)」によれば、1%を超過するため、この対策を行っていない組合の雨水排水計画は、前川へ重大な負荷を与えるものである。

仙台高裁からの造成工事仮処分決定書について | 山形県上山市川口清掃工場問題

f:id:mamorukai:20161015203713j:plain

 守る会は、山形広域環境事務組合が進める上山市川口の公称「エネルギー回収施設」 敷地造成工事に対して工事の禁止を求め、とりあえず仮処分命令申し立てを山形地方裁判所に行いました。
 その後に審尋を経て、山形地裁によりこの申し立てが却下されたため、仙台高等裁判所に即時抗告を行っていました。その結果が守る会弁護士に届きましたので、ご報告致します。 これまでの経過は以下の通りです。

平成27年 8月中旬 組合が突然造成工事開始
平成27年10月28日 守る会は山形地裁に工事差止を求める
「仮処分申立書」を提出
同時に組合監査委員宛住民監査請求を求める
                             ↓
後日監査委員が棄却したため、住民訴訟を提起
平成27年11月 4日 山形地裁にて、平成27年(ヨ)第16号第1回審尋
平成27年11月 6日 守る会が申立書の一部変更・差し替え
平成28年 2月22日 組合より証拠乙1号証が届く
平成28年 2月24日 組合が第1準備書面(守る会の申立書に対する反論)を提出
平成28年 2月26日 山形地裁にて、平成27年(ヨ)第16号第2回審尋
平成28年 4月26日 山形地裁にて、平成27年(ヨ)第16号第3回審尋
守る会が「仮処分命令申立書訂正申立書(2)」提出
組合が「上申書」と証拠乙1号証の2提出
         ↓
どちらも証拠は出尽くしたとして【結審】
平成28年 5月12日 平成27年(ヨ)第16号造成工事禁止の仮処分命令
申立事件【決定文】が守る会弁護士宛に郵送される
【債権者(守る会)らの申立てをいずれも却下する】
平成28年 5月23日 守る会は仙台高等裁判所に「即時抗告状」を提出
平成28年 5月31日 敷地造成工事完了
平成28年 6月30日 組合が仙台高裁へ「答弁書」提出
平成28年 7月19日 守る会が仙台高裁へ第1準備書面提出
(平成28年(ラ)第 91号)
平成28年 9月20日 仙台高等裁判所より守る会弁護士宛【決定文】が届く
平成28年(ラ)第91号
【本件抗告を棄却する】

 9月20日に届いた、上記の平成28年(ラ)第91号造成工事禁止の仮処分命令申立却下決定に対する即 時抗告事件(原審:山形地方裁判所平成27年(ヨ)第16号)の決定文を公開致します。
*プライバシーに配慮し、個人名は削除致しますのでご了承下さい。


平成28年(ラ)第91号 造成工事禁止の仮処分命令申立却下決定に対する即時抗告事件(原審・山形地方裁判所平成27年(ヨ)第16号)

決定

(**省略**)

主文

1 本件抗告を棄却する。
2 抗告費用は抗告人らの負担とする。

理由

1 抗告の趣旨及び理由の要旨
本件抗告の趣旨は,原決定を取り消し,原決定別紙物件目録記載の各土地( 以下「本件土地」という。)において,同工事目録記載の造成工事(以下「本件造成工事」という。)を行ってはならないとの裁判を求めるものであり,その理由の要旨は,以下のとおりである。
本件造成工事は,現況,そのほとんどが休耕田で低湿地のような状態にある本 件土地を清掃工場の敷地として造成する工事であり,本件造成工事が完成すると, 本件土地の雨水浸透量を大きく低下させ,本件土地から忠川への雨水排水量が増加し,忠川や忠川と合流する前川が溢水し,又は,本件士地に雨水が滞留して忠川の護岸コンクリートが圧力を受けることで崩壊して同川が堰き止められ,氾濫するおそれがある。忠川又は前川流域付近において勤務ないし農業に従事してい る抗告人らの生命や身体等に著しい損害又は急迫の危険(人格権侵害)が生じる蓋然性が高いから,本件造成工事を差し止める必要性がある。

2 当裁判所の判断
(1)  抗告人らは,本件造成工事の完成により,従来,本件土地にあった3万5886㎡×50cm(忠川左岸の堤防との高低差) =1万7943㎥の貯水能力が失われるから,本件土地から忠川への雨水流入量が著しく増加すると主張する。 しかし,本件造成工事前の本件土地がすべて忠川護岸よりも低地であるというわけではないし,本件土地に流入した雨水については水路による排水も行われ ている(乙1の1) のであるから,本件土地全体に,水深50 cmの水槽に匹敵 する貯水能力があるかのような抗告人らの想定には,高低差を考慮し,貯水容量を7割(1万2560.1㎥)とし,流出計数を0. 7として貯水能力を想 定したからといって,何ら合理的根拠はない。抗告人らは,平成25年7月の大雨の際に,本件土地が冠水し,水が忠川の護岸コンクリートを越えて本件土地から忠川に流入した事実を指摘するが,この事実からは,本件土地に本件土 地の雨水浸透量を超える降雨があっても,その雨水のすべてが直ちに本件士地 の表層から忠川へ排水されるわけではなく本件土地に一定程度滞留(貯留)すること,その状態が一定時間続くと本件土地が冠水し,さらに降雨が続くと護岸コンクリートを越えて水が忠川に流入すること(その際には,本件土地に流 入した雨水の大部分がそのまま忠川に流入することも考えられる。),平成25 年7月の降雨の際に,上記雨水浸透量を超える降雨が実際に一定時間以上継続したこと(すなわち,本件土地には一定の貯水能力があるが,平成25年7月 にはその貯水能力を超える降雨があったこと)が推測されるだけであって,本件士地の貯水能力が抗告人らの主張するような量になることや本件士地から忠川に流入する水量の程度を想定する抗告人らの主張には,本件記録を精査しても何ら合理的な裏付けはない
。 他方,相手方は,本件造成工事の前後で,本件土地から忠川への雨水排水量は,基準点1 (忠川下流部の排水口)において0.140㎥/s増加するにす ぎず,基準点2 (忠川上流部の排水口)においては雨水排水量に変化はないと主張し,その旨を記載した雨水排水計画(甲16) を作成している。しかしながら,乙1の1によると,同計画は,簡単にいえば,降雨の際の本件土地から忠川への雨水排水量について,本件造成工事完了後の雨水排水量の計算値と, 本件清掃工場の建設地の開発面積0.036km2の流出係数を湛水した水田の流出係数(0. 7)に置き換えて計算した雨水排水量の計算値とを比較し,その差をもって本件造成工事前後の本件士地から忠川への雨水排水量の差としてい るものであって(乙1の1, 20~21 頁),本件造成工事前における本件土地 から忠川への雨水排水量については,近傍における雨量観測所の資料が得られないため,特殊係数法を適用するなど実証的な検証をしているわけではなく, 本件造成工事前の本件士地に一定程度存在していることが推測される上記の貯水能力について検討した様子はない(本件審理においても,貯水能力に関する抗告人らの主張に合理性はないという反論のみに終わっている。乙1の1, 2 2頁)。したがって,仮に,本件造成工事によって降雨の際に本件土地に流入する雨水が速やかに忠川に排水される状況になった場合に,本件土地から忠川へ の雨水排水量の増加量が基準点1 (忠川下流部の排水口)において0.140 ㎥/sにすぎず,基準点2 (忠川上流部の排水口)においては雨水排水量に変化はないという上記雨水排水計画の試算の合理性,正確性については,なお検討の余地がある。

(2)  しかしながら,疎明資料(甲38,乙2, 3) によると,本件造成工事は, 手直しの余地はあるとしても,平成28年5月27日頃までの間に完成したこ とが認められるから,本件申立ての利益は失われたというべきである。 また,この点をひとまず措き,上記(1)の点を踏まえて考慮しても,本件造成工事が行われた場合,本件土地から忠川への雨水排水量がどの程度増加するのかについては何ら明らかとはいえない(雨水排水量の増加量について,合理的 根拠を伴う具体的な主張や疎明はない。)。上記のとおり,平成25年7月の降雨の際には,本件士地が冠水し,溢れた雨水が護岸コンクリートを越えて本件土地から忠川へ流入したことが認められるところ,抗告人らは,それにより忠川が合流する前川が川口地区のみならず下流域広範囲で氾濫したと主張してい るが,相手方はこれを否認しており(原審答弁書6頁(力)),一件記録によっても, 平成25年7月の降雨の際に前川が川口地区のみならず下流域広範囲で氾濫したという事実の疎明はない。また,平成25年7月の本件土地から忠川への上 記の雨水の流入状況を示す抗告人ら提出の写真(甲19の1の写真1) を見て も,護岸コンクリートを越えて本件土地から忠川に流入している雨水の流入量が,前川下流域広範囲の氾濫を惹き起こす原因となるような規模であるとはにわかに認め難い。
 さらに,抗告人らは,本件造成工事で設けられる排水ゲートの構造を問題と し,忠川の水位が排水樋管の排水口よりも高くなって排水できない場合に,本 件土地に雨水が滞留するおそれがあるとも主張しているが,抗告人らは,本件 造成工事によって本件土地の貯水能力が失われる結果,本件土地から忠川へ流 入する雨水の量が増えることにより,忠川や忠川と合流する前川が溢水すると 主張しているのであり,本件造成工事完了後,本件土地から雨水排水計両にお いて想定されている排水ができなかった場合の危険性を主張するのは,本件士 地の貯水能力が失われることを問題とする前記の主張と基本的に矛盾しており (排水できなければ本件士地に雨水が貯留することは,本件造成工事の前後を 通じて同じはずである。),この点についての抗告人らの主張は採用することが できない。護岸コンクリートが劣化しているという主張も同様であり,護岸コンクリートが劣化していることによる崩壊の危険は,本件造成工事とは別の間題というほかない。

3 以上によると,一件記録によっても,本件造成工事が行われることにより,大雨の際に忠川や忠川と合流する前川が溢水し,又は,忠川の護岸コンクリートが崩壊して河川が氾濫し,忠川又は前川流域付近において勤務ないし農業に従事している抗告人らの生命や身体等に著しい損害又は急迫の危険(人格権侵害)が生じると一応認めることはできないから,抗告人らの本件申立ては理由がない。本件申立てをいずれも却下した原決定は相当であり,本件抗告は,理由がない。

よって,主文のとおり決定する。
平成28年9月20日
仙台高等裁判所第1民事部

裁判長裁判官 小野 洋一
裁判官 潮見 直之
裁判官 綱島 公彦

(**以下省略**)

f:id:mamorukai:20161015210736j:plain

f:id:mamorukai:20161015210742j:plain

f:id:mamorukai:20161015210750j:plain

f:id:mamorukai:20161015210804j:plain

f:id:mamorukai:20161015210811j:plain

 一般市民が行政訴訟、または住民訴訟を行うためには、証拠集めが必要ですが、 そのためには行政等に対する「情報公開請求」を行います。情報公開請求は相手自治体に住民票があれば誰でも請求可能ですが、開示されるまで2週間の期間が必 要です。場合によっては(各自治体の情報公開条例に基づく)公開しなくてよいもの があり、検討して公開期日を延長できる場合もあります。
 仮処分申し立ては、期間が限られている中で急いで行う申し立てです。守る会は 平成27年8月に始まった造成工事に対し、情報公開請求を繰り返し、同年10月28日 に急ぎ仮処分申し立てを行いました。
 しかし、その後相手方の組合から、申し立てに対する反論である準備書面が届いたのは、申し立てから4か月近くを過ぎた2月のことでした。工期終了は5月31日予定で 期間が短い中、守る会はこれらの対応を不服として仙台高裁に抗告しましたが、それも「棄却」という結果になりました。
 「すでに工事は終了してしまった」ということですので、造成工事の仮処分事件は終了となりますが、この敷地造成工事については、組合に対する「公金差し止めを求 める住民訴訟」が残っておりますので、守る会は引き続きこちらの訴訟を続けて行く所存です。

■ 来る10月17日に山形地方裁判所において、山形広域環境事務組合に対する敷地造成 工事の住民訴訟(弁論準備)が、13:30から行われます。
平成28(行ウ)第1号 上山市清掃工場用地造成工事公金支出差止請求住民訴訟事件

情報公開請求を通してごみ焼却施設本体の基礎に関する書類を受理しました | 山形県上山市川口清掃工場問題

f:id:mamorukai:20161007205309j:plain

守る会は9月12日、組合に対し「清掃工場本体基礎に関する書類」を情報公開請求致しましたが、公開期限である9月26日までに書類を受理することはできませんでした。その理由は以下の通りです。

「公開請求に係る行政文書に第三者に関する情報が記載されているため、当該情報に係る第三者に対して意見書を提出する機会を与える必要があり、期間内に公開・非公開の決定をすることが困難であるため。」

 この内容が書かれた「公開決定等期間延長通知書」が届き、またこの通知書には公開日は10月6日に延長されることが記載されていました。そして、その期限ぎりぎりの6日に情報公開請求文書を受理しましたので、公開致します。 

f:id:mamorukai:20161007204430j:plain

f:id:mamorukai:20161007204441j:plain


山広環第318号
平成28年10月6日

行政文書部分公開決定通知書

山形県の環境と観光産業を守る会

山形広域環境事務組合
管理者 山形市長 佐藤孝弘

平成28年9月12日付けで請求があった行政文書の公開については、次のとおりその一部を公開することに決定したので、山形広域環境事務組合情報公開条例第11条第1項の規定により通知します。

請求があった行政文書の内容
上山市川口のエネルギー回収施設本体建設工事に関する
  1 基礎数量表(掘削土量を含む)
  2 基礎に関する図面の全て
   ○ 建築確認申請図書の構造図の基礎に関する図面の全て
  3 構造図(構造が明確に分かるもの)
   ○ 建築確認申請図書の構造図の一部
  4 作業工程表
   ○ 作業工程表(マスター工程表

 

公開の日時
平成28年10月6日 午前 11時00分

公開の場所
山形広域環境事務組合 管理課(山形市役所10階)

公開することができない部分及びその理由
上山市川口のエネルギー回収施設本体建設工事に関する
  1 基礎数量表(掘削土量を含む)
   ○ 該当する行政文書が不存在(現時点では作成していない)のため。
  2 基礎に関する図面の全て
   ○ 建築確認申請図書の構造図の基礎に関する図面の内、寸法等、個人名、個人の印影、一級建築士大臣登録番号、建築士証交付番号。
    • 山形広域環境事務組合情報公開条例第8条第3号に該当
    (理由)法人の生産技術に関する情報で、公開することにより、 営業活動等事業活動上の正当な利益を害するおそれが あることが明らかであるため。
    • 山形広域環境事務組合情報公開条例第8条第2号に該当
    (理由)個人に関する情報で、特定の個人が識別され、又は識別され得るため。
  3 構造図(構造が明確に分かるもの)
   ○ 建築確認申請因書の構造図の内、寸法等、個人名、個人の印影、 ー級建築士大臣登録番号、建築士証交付番号。
    • 山形広域環境事務組合情報公開条例第8条第3号に該当
   (理由)法人の生産技術に関する情報で、公開することにより、 営業活動等事業活動上の正当な利益を害するおそれが あることが明らかであるため。
    • 山形広域環境事務組合情報公開条例第8条第2号に該当 (理由)個人に関する情報で、特定の個人が識別され、又は識別され得るため。

所管課

山形広域環境事務組合 管理課
電話番号023-641-1844 (内線912)

備考
1 公開の日時に都合が悪い場合には、あらかじめ所管課へご連絡ください。
2 行政文書の公開を受ける際には、この通知書を係員に提示してください。
3 この決定(以下「処分」といいます。)に不服がある場合は、処分があったことを知った日の翌日から起算して3か月以内に、管理者に対し、審査請求をすることができます。
また、処分の取消しを求める訴えは、処分があったことを知った日(審査請求をした場合 にあっては、当該審査請求に対する裁決があったことを知った日)の翌日から起算して6か 月以内に、山形広域環境事務組合を被告(管理者が被告の代表者となります。)として提起することができます。


■ 今回情報公開請求した結果は以下の通りです。

1 基礎数量表(掘削土量を含む) → 不存在  
2 基礎に関する図面のすべて → これがすべてかどうか不明の上、数字はすべて黒塗り  
3 構造図(構造が明確にわかるもの)  → これがすべてかどうか不明の上、数字はすべて黒塗り  
4 作業工程表 → 開示  

情報公開請求項目は4点ですが、1の基礎数量表は「不存在」と記載されているため、公開できないということです。本体の基礎を打つために、どれだけの土を掘削するか計算して見積も ることは常識で、この書類がないとは信じがたいことです。組合は掘削の数量も分からずに仕事を発注し、現在掘削作業を行 っていることになります。

f:id:mamorukai:20161007214502j:plain

f:id:mamorukai:20161007214519j:plain

 基礎数量表が不存在であること、図面の数字が消されていることは、全く理解することができません。基礎の寸法を公開できない理由は以下の通りです。

「法人の生産技術に関する情報で、公開することにより、営業活動等事業活動の正当な利益を害するおそれがあることが明ら かであるため」

また、4の作業工程表は公開されましたので、掲載致します。

f:id:mamorukai:20161007214725j:plain

■ 来る10月17日に山形地方裁判所において、山形広域環境事務組合に対する敷地造成工事の住民訴訟「平成28(行ウ)第1号 上山市清掃工場用地造成工事公金支出差止 請求住民訴訟事件 」が、13:30から行われます。

© 山形県の環境と観光産業を守る会, All rights reserved. 当ブログへのリンクについてはこちら。