山形県の環境と観光産業を守る会

山形県上山市川口地区に建設予定の清掃工場(2018年12月から「エネルギー回収施設(川口)」として稼働開始)に関する詳細、および諸問題について

「明かな設計ミスが認められない造成工事」裁判 | 最高裁へ不服申し立て

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 昨年11月12日に守る会側の控訴が棄却された清掃工場の敷地造成工事裁判の判決に納得できない守る会は、1月14日に最高裁へ不服申し立てをおこないました
 今回は、「上告提起」と「上告受理申立て」という2種類の方法でおこないました。(不服とする理由に応じて、どちらかあてはまる方法で上告しますが、今回は不服の理由が両方に当てはまることから、2種類で申し立てました。)
 この記事では、上告するときに裁判所に提出する「上告理由書」を公開いたします。

*Web用に編集を行っています。


令和元年(行サ)第13号 上山市清掃工場用地造成工事公金支出差止請求住民訴訟行政上告提起事件

上告理由書

上告人   守る会
被上告人  山形広域環境事務組合管理者 佐藤孝弘

令和2年1月14日

上記上告人ら訴訟代理人
弁護士  坂本 博之

最高裁判所 御中

第1 原審の争点と原判決の内容
 本書面は、原判決の誤りを指摘し、上告の理由を述べるものである。

1 原審における争点
 原審における主たる争点は、(1)山形広域環境事務組合と**建設・**土建建設工事共同企業体との間で締結された、清掃工場の敷地造成工事に関する請負契約が、河川法に違反するか、(2)山形県河川流域開発に伴う雨水排水対策指導要綱(以下「本件指導要綱」という)に違反するか、(3)同契約が上告人らの人格権を侵害するものであるか、(4)入札方法が違法な談合によるものであるか、の3点である。そして、上記(3)の点は、さらに、①本件造成工事前の本件土地から排水される雨水の流量はどの程度であったか、②本件造成工事前の本件土地に貯留効果はあったか、③本件造成工事後の雨水の排水量は造成工事前と比べてどの程度増加するか、④その増加量は、忠川や前川の流量にどのような影響を与えるか、という点に細分することができる。

2 原判決の判断
 上記の諸点について、原判決は、次のような判断を行った。
 上記(1)の点については、忠川及び前川は、一級河川最上川水系であり、村山圏域の河川であるから、山形県が策定した河川整備計画の対象区域に含まれており、河川整備計画が存在しないということはできず、河川法に違反しない、という判断を行った(原判決34p)。
 上記(2)の点については、本件指導要綱の適用対象は開発面積が5ha以上の規模の流域開発行為及び将来5ha以上の流域開発となることが当然予想される流域開発行為であるところ、本件工事は、流域開発行為の対象は山林部分を含まず、3.6haであるとして、本件指導要綱の適用対象とはならない、という判断を行った(原判決34〜36p)。
 上記(3)の点については、道路土工要綱に定められた排水に関する指針の考え方に基づいて算定したことは誤りであるとは言えないとして、本件工事の前後ともにその方法に基づく計算を行うこととし、本件土地の本件工事前の流出係数を水田の係数を参考として0.7を採用し、40年確率の雨量を採用して、本件工事の前と後とにおける本件土地(山林部分を含む)からの雨水流出量を計算した上で、前川治水ダム事業計画における忠川との合流点前後の前川の計画高水流量150㎥/sとを比較して、本件工事前後の雨水流出量の増加率は0.12%であって、本件指導要綱が基準とする1%を大幅に下回るから、本件工事が前川流域の住民らの人格権を侵害するとは言えないなどという判断をした(原判決36〜43p)。また、原判決は、上告人らが原審において指摘した、本件工事前における本件土地の貯留効果については殆ど触れず、本件工事前の雨水流出量に関しては、本件工事前に実際に存在した排水設備を前提に計算すべきであるという点については全く触れるところがなかった。
 そして、上記(4)の点については、談合の事実を認めるに足りる証拠はない、などという判断を行った(原判決44p)。

3 原判決の問題点
 上記の原判決の判断は、次のような問題点を含む。
 即ち、上記(1)の判断については、合理的な理由が述べられておらず、民事訴訟法312条2項6号所定の「判決に理由を付せず、又は理由に食違いがあること」という上告理由に該当する。
 上記(2)及び(3)の点については、憲法上最大限の尊重をすることが要請される人格権の侵害に対して、実質的な判断を避けて形式的な判断しか行わなかったという点において、憲法11条、13条、25条に違反するし、人格権が侵害される恐れがあることを理由に司法府に対して救済を求めた国民に対して、軽々にその救済を拒絶した点において憲法32条に違反する。また、上告人らが提起した問題点に対して何らの回答も行わなかった点は、民事訴訟法312条2項6号所定の上告理由に該当する。
 上記(4)の点は、合理的な理由が述べられておらず、民事訴訟法312条2項6号所定の上告理由に該当する。
 以下、上記の諸点について、順に述べる。

第2 河川法違反であるとの点について
1 上告人らの主張
 原審における上告人らの主張を改めて述べると、本件土地から排出される雨水が流入する一級河川忠川及び前川(以下「一級河川」は省略する)には、河川整備計画及び河川整備基本方針及びそれに伴う主要な地点における計画高水流流量(河川法施行令第10条の2第2号ロ)が存在せず、河川法に違反する状態である、というものである。現に、山形県知事が平成15年9月24日に策定し、平成25年3月1日に一部改訂した一級河川最上川水系村山圏域河川整備計画(知事管理区間)(以下「本件河川整備計画」という)、国土交通省が定めた最上川水系河川整備基本方針(以下「本件河川整備基本方針」という)には、前川及び忠川に関して、基本高水流量も計画高水流量も何らの記載もされていない。このような状態の中で、河川に負荷を与える本件工事は違法である、というものである。

2 原判決には合理的な理由が記載されていない
 原判決の判断は、上記のとおり、前川及び忠川は、本件河川整備計画の対象区域内に含まれるから、河川整備計画は存在する、というものである。また原判決は、「本件河川整備計画に直接記載がないからといって、忠川及び前川についての河川整備計画が存在しないということはできない」などということも述べている(原判決34p)。
 しかしながら、社会通念上も、言葉の通例の意味からも、河川整備計画の対象区域内に含まれるということと、当該河川について河川整備計画が存在するということは別問題である。
 河川法16条1項は、河川整備基本方針について、「河川管理者は、その管理する河川について、計画高水流量その他当該河川の河川工事及び河川の維持(次条において「河川の整備」という。)についての基本となるべき方針に関する事項(以下「河川整備基本方針」という。)を定めておかなければならない」と規定し、この規定を受けて、同法16条の2第1項は、河川整備計画について、「河川管理者は、河川整備基本方針に沿つて計画的に河川の整備を実施すべき区間について、当該河川の整備に関する計画(以下「河川整備計画」という。)を定めておかなければならない」、同条第2項は「河川整備計画は、河川整備基本方針に即し、かつ、公害防止計画が定められている地域に存する河川にあつては当該公害防止計画との調整を図つて、政令で定めるところにより、当該河川の総合的な管理が確保できるように定められなければならない。この場合において、河川管理者は、降雨量、地形、地質その他の事情によりしばしば洪水による災害が発生している区域につき、災害の発生を防止し、又は災害を軽減するために必要な措置を講ずるように特に配慮しなければならない」と規定する。
 即ち、河川法は、河川整備計画について、当該河川の総合的な管理が確保できるように、特に災害の発生を防止し、又は軽減するために必要な措置を講ずるように特に配慮しなければならない旨定めているのであり、河川整備計画が存在すると言えるためには、このように当該河川に関して、河川管理の具体的内容が定められていなければならないのである。単に対象区域内にその河川が存在するというだけでは、河川整備計画があるとは言えないことは、河川法の規定上も明確であると言わねばならない。
 そして、原審においても述べたように、本件河川整備計画には、前川及び忠川に関しては、忠川そのものや前川ダム、忠川との合流点について、図も示されていないし、計画高水流量の記載もない。前川や忠川に関しては、本件河川整備計画策定後に前川や忠川で行われる具体的な整備内容は何も書かれていない。国土交通省が策定した本件河川整備基本方針にも、前川や忠川に関する記載は全くない。何の具体的な計画高水流量の数値、河川整備の目標に関する事項(河川法施行令第10条の3第1号)の記載もない。
 従って、前川や忠川には、河川整備基本方針も河川整備計画も存在しないことは明らかであり、原判決の判断は、合理的な理由を欠くものと言わざるを得ない。
 なお、原判決は、忠川及び前川に関して、河川整備計画や河川整備基本方針が存在しないとしても、河川区域内における土地造成であって当該河川の流量に少しでも影響を与えるような工事に関する請負契約が、直ちに公序良俗に違反するもの出るとまでは言えない、などとも述べている(原判決34p)。しかし、河川整備計画が存在しない場合には、本件のように、河川に対して与える影響を考慮に入れない道路土工要綱のような指針に基づいた工事が行われたり、いみじくも原判決が踏んだような、造成工事の前後における正確な排水量の増加の算定を行わなかったりできなかったりというような事態が生ずることが十分にあり得るのであり、当該工事の河川に対する影響を過小評価した上での工事が行われてしまう可能性が十分にあるのである。

3 まとめ
 以上から、原判決の河川法に関する判断は、合理的な理由を欠くものとして、民事訴訟法312条2項6号所定の上告理由を構成する。

第3 人格権侵害となるとの点について
1 原判決の問題点
 本件指導要綱の問題と前川の流域住民らの人格権侵害の問題は、つまるところ、人格権侵害の問題に帰着するものと考えられるので、まとめて論ずることとする。

 原判決は、本件に本件指導要綱は適用にならないという判断を行ったが、本件指導要綱は、下流流域の災害を誘発するおそれが生ずる程度の雨水流出量の増加であるかを検討するために雨水流出量の算定を求めているということができるから、下流流域に対する影響の程度の検討のために雨水流出量を算定するに際して、その算定方法を参考にすることができるという判断を行っている(原判決37p)。そして原判決は、本件指導要綱の規定に準じて、開発前と比して最大流量が1%以上増加する場合は、当該開発行為に伴い、河川の下流域等の安全性に影響を与えるおそれがあるとの考えを採用している(原判決40p)。本件指導要綱が本件には適用にならなないとした原判決の判断は誤りであると考えるが、そこに定められた基準を本件に準用するという原判決の姿勢は首肯しうるものである。
 ところが原判決は、第一に、本件工事前後の本件土地からの雨水流出量を算出するにあたり、本件工事前の流出量の計算において、①現実に存在した水田の貯留効果を無視したこと、②現実に存在した排水設備を無視して、実際には存在しなかった工事後の設備を前提とした計算を採用したこと、という不合理な過ちを犯している。そして原判決は第二に、本件指導要綱を準用するにあたり、本件土地からの雨水流出量と比較すべき「最大流量」の地点を、明らかに誤っている。
 原判決は、上記のような過ちを犯したために、本件工事が前川下流域の住民の人格権を侵害する可能性を不当に低く考えてしまっているのである。
 以下、原判決の誤りを順に述べる。

2 本件造成工事前の本件土地から排水されていた雨水の流量
(1) 本件土地から排水される雨水の集水域
 本件土地から排水されることになる雨水の集水域は、本件造成工事の前と後とで変わりがない。この点は、上告人らと被上告人との間で争いはない。原判決の理解も、この点に関しては、上告人らの理解と変わらない。
 この点は、本件指導要綱の対象地域に山林部分が含まれると解するか否かに拘わらない。
(2) 本件造成工事前に本件土地から排水されていた雨水
 原審において述べたように、上告人らは、本件造成工事前に、本件土地から排水される可能性があった雨水の最大流量について、上告人らにおいて試算し、書証として提出した(甲76)。これは、本件造成工事前に、本件土地に存在した排水管の排水能力を前提にして、配水管が十全の排水能力を発揮する場合を想定して計算したものである。そして、この排水管の排水能力を前提とすると、本件土地からの雨水排水能力は、最大に見積もっても、2.0033㎥/sとなる(甲76・12p)。
一方、現実に本件造成工事前に存在した雨水排水設備に関しては、組合の雨水排水計画を作成したF証人は、同計画作成前に現地を確認したが、「雨水排水はほぼないと思いました」「農業用水路を通って忠川若しくは前川に流下しているという判断を致しました」と証言している(F調書18p)。一方、河川工学の専門家であるT証人は、本件土地からの忠川への排水は、甲70・7pの写真のように排水されているが、これは、「水田が営農されていた頃の名残であって、本来は大雨時には閉じられるべき穴だと思います。土地改良区と河川管理者の間でそういう規定がなされていたはずです」と述べている(T調書13p)。即ち、本件造成工事以前には、現実には、本件土地から忠川や前川に流出する流量は、0(ないしは0と同視すべきもの)であったものと考えられる(本件土地の貯留効果に関しては、後述する)。もし仮に流出する水量があったとしても、それは、上告人らが試算した前掲の数値よりもずっと少なかったはずである。
 このように、原審において実施された証人尋問において、証言を行った2名の証人の何れもが、本件工事前に、本件土地から排水される雨水は0ないし0と同視すべきであったものという証言を行っているのである。従って、本件土地から本件工事前に排出されていたはずの雨水流出量は、このような証言に基づいて認定するのが相当であったものというべきである。
 この点、原判決は、既に述べたように、本件工事前の流出量については、本件工事前に存在した排水設備を前提として算出すべきであるという上告人らの主張について全く触れるところがない。それらしいことが書いてあるのは、「なお、原告らは、本件雨水排水計画における算定の問題点を指摘し、これについて独立した本件請負契約の無効事由として主張しているようにも思われるところ、仮に、本件雨水排水計画における雨水流出量の算定方法や係数等に誤りがあったとしても、それだけで本件工事を目的とする本件請負契約が公序良俗に違反し無効となるということはできないのであるから、本件雨水排水計画そのものの問題点に関する原告らの主張の当否は判断しない」と述べている個所ではないかと思われる(原判決37p)。
 しかし、原判決のこの指摘は誤りである。即ち、上告人らは、雨水排水計画における雨水流出量の算定方法に問題があるとだけ主張しているのではない。上告人らは、本件工事前において、現実に本件土地から流出したはずの雨水流出量を問題にすべきだ、本件工事前には存在しなかった設備の存在を前提とした計算を行うのは不合理だ、という主張を行っているのである。上告人らの主張は、単に雨水排水計画における算定方法だけを問題にしているのではなく、本件工事前後における排水量の増加を問題にしているのである。

 しかし、原判決は、上記のような上告人らの問題提起に対して、何ら答えることがなかったのである。

(3) 本件土地の貯留効果
 次に、上告人らは、実際に本件土地から流出する可能性がある水量を考える場合、本件土地の貯留効果について、考える必要がある旨主張した。そして、上告人らは、本件土地は、本件造成工事が行われる前は、水田及び休耕地であったのであり、水田には高さ約30㎝の畦道があり(T調書7p、F調書20p)、少なくともこの高さ×造成地の面積=約1万㎥程度の貯留効果があったことは明らかであること(T調書7p)、本件土地と忠川との間は、コンクリートの護岸壁で仕切られている上、忠川の左岸側には、管理用の道路があり、その高さは「一番低いところでは畦畔とほぼ同じ高さだったと思います。一番高いところで、1メートル程度はありました」(F調書22p)ということであり、忠川との間にあるこの道路によって相当量の貯留効果があったものと考えられること、等を立証した。
 古来、水田が洪水時に大量の雨水を貯留して、水害を防止する効果があることは、周知の事実となっていることである。
 ところが原判決は、水田の貯留効果について、「本件土地が休耕田であったとは認められないし、……本件土地全てが忠川の護岸よりも低地であったと認めることはできないから、かかる原告らの主張は採用することができない」とだけ述べて、簡単に排斥してしまったのである(原判決40p)。既に述べた通り、上告人らの水田の貯留効果に関する主張は、休耕田における流出係数や忠川の護岸高に限られず、畦道の高さが30㎝であることも根拠にしているが、この点について、原判決は何も触れていない。また、原判決は、本件土地の全てが忠川の護岸よりも低いとは認めることができない、などと述べるが、逆に、本件土地の中で忠川の護岸よりも高い部分があったことを裏付ける証拠は何もないし、忠川の護岸よりも仮に高い部分があったとしても、そのために、忠川の護岸による貯留効果の相当部分が喪失することにもならない。
 つまるところ、原判決が水田の貯留効果を排斥したのは、常識ないし社会通念に反した不合理な判断であるし、何らの証拠に基づく判断でもないのである。その上、原判決は、上告人らの主張に対して的確な判断を行っていないのである。

(4) 造成工事前に本件土地から排水されていた雨水の量
 以上述べてきた、本件造成工事前に本件土地にあった排水設備の状況、本件土地の雨水の貯留効果を考慮すれば、本件造成工事前の本件土地から排水されていた雨水の量は0ないしは0と同視すべき量であったものというべきである。
 ところが、原判決は、本件工事前に本件土地から現実に発生したはずの上記のような数値を採用せずに、本件工事後に作られた設備を前提とした雨水排水量の計算を行った(原判決38〜39p)。
 原判決が計算したこのような数値は、現実には発生するはずのない数値であり、実際に発生するはずの数値よりも過大な数値となっていることが明らかである。何故ならば、本件工事の結果、本件土地から清掃工場を守るために迅速適切な排水がなされるように排水設備が整備されているからである。
 本件工事前の雨水排水量として、このような数値を採用することは、本件工事による雨水排水量の増加分を不当に低く見積もる、即ち、本件工事による下流流域の住民らに対する被害の増加を不当に低く見積もることにつながるものであり、裁判所の判決が下流流域の住民らの人格権侵害を助長する結果となっているとの誹りを免れない。

3 本件造成工事後の雨水排水量の増加量
(1) 本件造成工事によって本件土地から排水される水量
 本件造成工事の結果、本件土地から排水される水量について、T証人は、40年確率の降雨強度の場合の本件土地からの排水量を試算しており、その水量は、1.795㎥/s+3.503㎥/s=5.298㎥/sである(甲58・2〜3p)。この数値は、第一審判決によっても、原判決によっても採用されている(原判決39p)。この排水量は、忠川の護岸壁に新たに設置する排水樋門から排出される水量である。

(2) 本件造成工事によって本件土地から排水される雨水の増加量
 一方、本件土地の造成工事の結果、造成工事前と比べて、どの程度の排水量の増加が発生することになるであろうか。
 この点、既に述べたように、本件造成工事前に、実際に本件土地から排水されていた雨水は0であると考えるべきであることからも明らかなように、本件造成工事によって、本件土地から排水される雨水の増加量は、新たに設置される排水施設によって排水される雨水の量そのものであるというべきである。即ち、40年確率の雨が降った場合に、本件土地から新たに排水されることになる雨水の量は、5.298㎥/sであるというべきである。
 また、もし、本件工事前に存在した排水管等が十全に機能したということを前提にすると、本件造成工事後に発生する雨水排水の増加量は、最低でも5.298㎥/s-2.0033㎥/s=3.2947㎥/s、最もあり得る増加量としては、5.298㎥/s‐0.6099㎥/s=4.2859㎥/sとなるものと算定された(甲76)。そして、この数値は、原審において上告人らが何度も述べたように、本件工事前に実際にあり得た数値の中でも最大限の数値に近いものである。
 本件造成工事によって本件土地から現実に増加することが考えられる雨水排水量の増加量として、合理的に考えられるのは上記のような数値であるというべきである。このような数値が提示されているのにこれを無視して、意味のない机上の計算を行って事足れるとしてしまった原判決の判断は、全く合理性を欠いているものというべきである。

4 本件造成工事後の本件土地からの雨水排水量の増加量が忠川及び前川に与える影響
(1) 造成地からの雨水排水が下流に与える影響に関する考え方の基準
 造成地からの雨水排水が下流に与える影響に関する考え方の基準を提供してい
るのが、本件指導要綱(甲54)、及び山形県農林水産部林業振興課作成の「林地開発許可申請の手引き」(乙25)であり、原判決が、河川下流域の安全性を守るための基準として、本件指導要綱の考えを本件に準用していることは、既に述べたとおりである。
 ここで、本件指導要綱には、開発事業者は、放流先の河川の流加能力が不足している場合は、調整池を設ける等の措置を執らなければならない旨規定されており(甲54・第5条)、同規定に基づいて調整池設置基準が定められている(甲55)。同設置基準によると、「開発事業地の雨水が河川へ流入する地点を基準点とする流域において、当該開発行為に伴う最大流量が、開発前と比して1%以上増加する場合は、調整池を設けるものとされている。そして、この調整池は、「当該開発行為に伴い最大流量が増加することにより下流において最大流量を安全に流下させることができない地点が生ずる場合には、当該地点での30年確率で想定される雨量強度及び当該地点において安全に流下させることができる最大流量に対応する雨量強度における開発中及び開発後の最大流量を開発前の最大流量以下までに調節できる洪水調整池の設置」とされている。そして、最大流量を安全に流下させることができない地点とは、「開発事業地の雨水が河川へ流入する地点下流の法河川において……開発行為による影響を最も強く受ける地点とする」とされている(甲55・2p)。
 同設置基準は、「最大流量」を考慮すべき地点について、図解をして、分かり易く説明をしている(甲55・5p)。
即ち、同設置基準で言われているのは、①開発地の下流において、②開発行為による最大流量が1%以上増加するかどうか、ということである。これは、開発地からの排水口と河川との合流点にだけ留意すればいいということではなく、その下流をずっと調査して、流加能力の不足している地点を考慮に入れなければならないということである。

(2) 原判決における「最大流量」の誤った理解
 本件指導要綱に基づいて定められた調整池設置基準に定められている「最大流量」というのは、上記のような内容を持つものである。

 ところが原判決は、上記のような「最大流量」という考え方を取らず、「本件指導要綱における最大流量が計画高水流量と同義であるか否かは必ずしも明らかではないものの、原告ら及び被告がいずれも計画高水流量と本件工事後に増加する雨水流出量とを比較して主張していることに鑑み、本件では、計画高水流量と本件工事後に増加する雨水流出量とを比較しつつ、本件影響の程度を検討することとする」などという判断を行っているのである(原判決40p)。
 この原判決の判断は、第一に、上告人らの主張(上告人らの令和元年8月27日付控訴審準備書面(3)・6〜8p)とは異なる。即ち、上告人らは、本件工事後に増加する雨水流出量と計画高水流量とを比較しているのではなく、上記「最大流量」とを比較しているのである。
 第二に、上記原判決の判断は、本件指導要綱やそれに基づく調整池設置基準の規定に明確に違反する。原判決は、自ら採用した基準を定めた本件指導要綱に従わなかったことになるのである。
 そして、このような原判決の判断は、治水上、下流の脆弱な地点及びその周辺に暮らす住民らの人格権を軽視するものと言わざるを得ない。

(3) 本件造成地からの排水の前川に対する影響
 本件造成地からの本件工事後の雨水排水量の現実にあり得る増加分と前川の流量とを比較してみる。
 原審において述べたように、本件造成地からの排水口との合流をした後、忠川は間もなく前川と合流する。前川には河川整備計画上の計画高水流量は存在しない。ただ、前川治水ダム事業計画上の忠川との合流地点付近の計画高水流量は150㎥/s、防災計画上の同合流点付近の計画流量は175㎥/sである。これらの数値と、本件土地からの造成工事後の雨水排水量である、前記3.2947㎥/s乃至5.298㎥/sとを比較してみると、最も低い数値でも、3.2947÷175×100=1.88%の増加となる。
 しかし、前記のとおり、本件土地から排水される雨水の量と比較されるべき前川の流量は、計画高水流量や計画流量ではない。それは、本件土地からの排水口より下流の、流加能力が最も低い地点である。それは、甲95の「№54+21.0」とされる地点(須川との合流点から2798m上流の地点)であり、そこは左岸側の流加能力が31㎥/sしかないのである。この地点と本件土地からの造成工事後の雨水排水量を比較してみると、最も低い数値を前提としても、3.2947÷31×100=10.628%となり、10%を超える数値となる(甲97・4p)。
 以上のように、本件工事後に本件造成地からの雨水排水量の、現実にあり得る増加分を考えると、前川の下流域に対して、実際の流下能力に対して、10%を超える増加量となる。これは、下流域の安全性に対して極めて深刻な影響を与えるものと言わざるを得ない。原判決は、本件造成工事が、前川の下流域に対してこのような深刻な影響を与えること、ひいては前川下流域の住民らの人格権に対して重大な侵害を与える可能性があることに思いが至らず、ただ机上の数字を弄ぶだけの極めてお座なりな判断を行うことで可としてしまったのである。

5 まとめ
 以上のように、原判決は、第一に、本件工事前後の本件土地からの雨水流出量を算出するにあたり、本件工事前の流出量の計算において、①現実に存在した水田の貯留効果を無視したこと、②現実に存在した排水設備を無視して、実際には存在しなかった工事後の設備を前提とした計算を採用したこと、という不合理な過ちを犯したうえ、第二に、本件指導要綱を準用するにあたり、本件土地からの雨水流出量と比較すべき「最大流量」の地点を、明らかに誤った。その結果、原判決は、本件工事が前川下流域の住民の人格権を侵害する可能性を不当に低く考えてしまっているのである。
 このような原判決の判断は、憲法上最大限の尊重をすることが要請される人格権の侵害に対して、実質的な判断を避けて形式的な判断しか行わなかったという点において、憲法11条、13条、25条に違反するし、人格権が侵害される恐れがあることを理由に司法府に対して救済を求めた国民に対して、軽々にその救済を拒絶した点において憲法32条に違反する。

 また、上告人らが提起した①水田の貯留効果、②現実に存在した排水設備を考慮して本件工事前の雨水排水量を算定すべきであるという、上告人らが提起した問題点に対して何らの回答も行わなかった点は、民事訴訟法312条2項6号所定の上告理由に該当する。
 昨今、ゲリラ的な豪雨が多発して、河川の安全性に対する国民の関心が高まっているが、そのような時期に、現実を踏まえない不合理な机上の計算をするだけで、造成工事が行われた地点の下流域の住民らの人格権を軽視する態度を取った原判決の態度は、強い非難に値すると言わねばならない。今後、前川の下流域において水害が発生した場合には、裁判所がそのような事態に目をつぶって放置したことにも大きな原因があるということを、裁判所自ら、銘記すべきである。

第4 談合が成立するとの点について

 上告人らは、原審において、本件工事の入札結果を示し、7つの共同企業体が入札を行ったが、僅かの価格の範囲内に各共同企業体の入札価格が犇めき合い、しかも**建設・**土建建設工事共同企業体の入札価格は予定価格の97%であったことを踏まえ、本件工事の入札においては談合が行われたものと考えられる旨、主張した。

 これに対して、原判決は、上記の点はあくまでも入札結果に過ぎず、談合の具体的内容について明らかにするものではなく、他に本件企業体を含む入札に参加した工事業者による談合の事実を認めるに足りる証拠はない、などという判断を行った(原判決44p)。

 しかしながら、上記のように僅かの金額の差で7つもの企業が争っていたのであり、その中で入札価格が予定価格に接近した価格であったということは、社会通念上、優に談合の存在が推認できる。原判決は、このような社会通念に反する判断を行ったものであり、判決を導くについて、合理的な理由を述べなかったものということができる。このような点は、民事訴訟法312条2項6号所定の上告理由を構成する。

第5 結論
 以上に述べてきた通り、原判決は、上記前川及び忠川について河川整備計画が存在せず、本件工事が河川法に違反するという点の判断については、合理的な理由が述べられておらず、民事訴訟法312条2項6号所定の上告理由に該当する。
 本件工事が前川下流域の住民らの人格権を侵害するという点の判断については、憲法上最大限の尊重をすることが要請される人格権の侵害に対して、実質的な判断を避けて形式的な判断しか行わなかったという点において、憲法11条、13条、25条に違反するし、人格権が侵害される恐れがあることを理由に司法府に対して救済を求めた国民に対して、軽々にその救済を拒絶した点において憲法32条に違反する。また、上告人らが提起した問題点に対して何らの回答も行わなかった点は、民事訴訟法312条2項6号所定の上告理由に該当する。 本件請負工事の入札において談合が行われたという点の判断については、合理的な理由が述べられておらず、民事訴訟法312条2項6号所定の上告理由に該当する。
 よって、原判決は、取り消されるべきであり、上告人らの請求は認容されるべきである。

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