山形県の環境と観光産業を守る会

山形県上山市川口地区に建設予定の清掃工場(2018年12月から「エネルギー回収施設(川口)」として稼働開始)に関する詳細、および諸問題について

清掃工場造成工事について 山形県に対し公開質問状を提出 (4) | 山形県上山市川口清掃工場問題

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 上山市川口に現在建設中の公称エネルギー回収施設の敷地は平成28年5月に造成工事が終了したとされています。しかし、その計画は危険で不当だとして、守る会は設置主体の山形広域環境事務組合を提訴し、現在も係争中です。

 組合は敷地造成工事に当たり、敷地の東側に接する県管理の前川ダム放水路に対し、山地及び敷地の雨水排水を行う必要性から、山形県に、排水樋管及び排水口設置の河川占用許可申請を行いました。

 この申請認可が、果たして正しいものであったか、未だに疑問が多いため、守る会は改めて山形県に対し、質問状を提出致しました。過去3日間に公開した図説1~3は、質問状に対する添付資料ですが、下記に質問状の本状を公開致します。

 この質問状に対する回答は、山形県より守る会代表に通知されるものと思います。

 組合が計画した「雨水排水計画」に誤りはなかったのか、山形県が策定した「前川治水ダム事業計画」や「洪水ハザードマップ整備事業浸水想定区域検討業務報告書」との整合性は取れているか等々安全上の問題が解決したとは思えません。このまま建築工事を進めることに根源的な不安を感じるものです。

 守る会は、河川工学の専門家と相談の上、これらを分析し、とりまとめて公開質問状としました。行政側のご担当者は数年で異動してしまうため、詳細が分からなくなってしまう可能性も高いこと、また市民県民の皆さまにも知って戴くため、ここに公開致します。

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平成29年2月7日

山形県知事
吉村 美栄子殿

山形県の環境と観光産業を守る会

公開質問状


 日頃より当会(以下、守る会と略す)活動にご協力を賜り、有難うございます。

 設置主体である山形広域環境事務組合(以下、組合と略します)は、現在までに、上山市川口に建設中の公称エネルギー回収施設に係る周辺整備工事に於いて、山形県に対し2件の申請を行いました。

  1.   まず山形県は、建設用地東側に接して流れる一級河川忠川に新橋を架けるための「河川占用許可申請」を組合より受理して、平成26年9月12日に起案し、同年10月7日に許可されました。
  2.   更に、敷地造成工事に係る忠川左岸への排水口及び排水樋管設置に関する「河川占用許可申請」を同組合より受理して、平成27年5月14日に起案し、同年7月23日に許可されました。この許可にあたり、河川占用の目的は「エネルギー回収施設建設に伴う排水口、排水樋管の設置免除」とされています。この審査表において、行政事務的意見として「…公共的な目的で行われること及び河川管理上特に支障となるものではないことから、許可するもやむを得ない。…」とあり、技術的意見としても「許可するもやむを得ない」とされています。

 しかし、敷地造成工事において造成地に設置される排水口及び排水樋管から流出する雨水、雑排水は、排出先の忠川や前川の水量・水質に影響を及ぼすため、疑問点が多々存在しています。
 そこで、この工事及び許可に対する山形県の考え方を改めて伺いたいと存じます。これらの経緯につきまして、勝手ながら県民の皆さまにもご理解を得る為分かりやすいよう、公開質問状とさせていただきました。ご多忙中大変恐縮とは存じますが、3週間以内に回答を戴きたく、ご配慮のほど宜しくお願い申し上げます。

ご質問

 平成29年1月現在、組合は敷地造成工事及びそれに係る排水樋管等設置工事を終了していますが、一級河川前川は、洪水時の前川氾濫被害に更なる悪影響を与え、周辺住民の人命、資産、産業活動を脅かす状況にあると認識しております。故に、以下質問に対し早急に納得できる回答を下さるようお願い申し上げます。
 もし、即時に回答をいただけない場合、県民の安全性に関わる緊急を要する事項ですので、組合に対する応急的措置として改善工事のご指導、ご指示を下さいますよう宜しくお願い申し上げます。

  1.  造成工事の際、忠川左岸壁の排水樋管、及び排水口が新たに設置されたことにより、忠川左岸のコンクリート護岸壁が一部切り欠かれた結果、天端高は、計画護岸高に対し低く不揃いとなりました。これは河川法上、危険で由々しき事態であると考えますが、貴殿は組合に対し「護岸天端高の復旧指示」を出される予定はございますか。
  2.  造成工事着手以前雨水貯留、及び雨水浸透機能維持のため、「造成前の貯留、及び浸透能力をもつ調整池を造成地内に設置する指示」を、組合に対して出される予定はございますか。現状のままでは、敷地及び里山から流出された雨水が、忠川排水樋管及び排水工を通して直接前川へ排水されることにより、一級河川前川下流域での更なる洪水氾濫の助長が予想されます。豪雨時における前川の堤防洗掘による破堤の危険、及び前川の忠川合流点より下流域での氾濫はご存知の通りで、上山市民の安全上看過できません。
  3.  造成地における本体建設工事の差し止め、もしくは造成・開発区域計画や 設計の変更要求を行う予定はございますか。※山形県の環境と観光産業を守る会(以下“守る会”とする)は、平成9年河川法改正に基づく一級河川前川、忠川の具体的な河川整備基本方針、河川整備計画は、不存在と認識しております。現状は名目のみで内容を伴わず、施設維持のみを行う計画であり、これにより洪水被害を防止することはできません。また、平成9年の河川法改正による環境の内部目的化がなされておらず、本来、開発、造成にあたっては、事前に前川の状況、及び流下能力、河川整備計画の公表及びパブリックコメントを経た上で、進捗状況に照らして初めて「許可」されるべきものであり、排水先の河川の整合、能力を無視した造成、開発、排水施設工事の許認可を行えるものではないと考えます。
  4.  昭和48年8月に山形県が策定した「前川治水ダム事業計画」のダム設計流量配分において、前川上流より160m/s分派したものを前川へ戻す施設の水路は、どのようなものか、またどのような施設管理がなされているのか、お示し下さい。またその際のリスクをどの様に市民へ周知徹底されているかをお示し下さい。
  5.  平成27年5月、組合が山形県に対し申請した敷地に接する忠川護岸壁への 排水樋管、排水口(排水工とどちらか統一確認ください)の設置を許可した経緯、及び確認事項等を詳細にお示し下さい。許可に当たり「許可するもやむを得ない」とコメントした理由も、具体的に明らかにして下さい。
  6.  敷地造成工事により、これまで休耕田であった貯留浸透機能を無にし、造成 地からの雨水を、排水樋管及び排水口から直接(流出係数100%を忠川に)排水し、さらに里山から休耕田に貯留・浸透していた流出抑制機能(これについ て検討されているか疑問)を無にして水路により雨水を集め、樋管、排水口により直接忠川へ排水することは許可できるものでしょうか。改めて見解をお示し下さい。
  7.  護岸天端の高さについて、排水樋管部、及び排水口部では、従来の連続した コンクリート護岸壁を、こともあろうに大きく切り欠いています。従来は、護岸壁に遮られて、休耕田に一旦貯留・浸透した雨水が直接忠川に越流することはなかったことを考えると、現計画は著しく貯留・浸透効果を欠いています。 にもかかわらず、何故組合に設置許可を与えたのか、その理由をお示し下さい。
  8.  組合は、敷地造成設計に際し作成した雨水排水計画において、開発・造成後 に増加する排水量は、忠川の設計洪水流量170m3/sと比して1%以下であるとしています。しかし現状は、本来の河川整備基本方針、河川整備計画が具体的に策定されておらず、忠川の計画高水流量も定められていない状態です。山形県が策定した「前川治水ダム事業計画」では、前述の通り「洪水時の前川ダム設計洪水流量170m3/s、及び40年確率での計画高水流量0m3/s」と定められています。敷地造成により排水量がわずかでも増えれば、分母がゼロであるため流量の増加する比率は無限大となります。これは、「山形県河川流域開発に伴う雨水排水対策指導要綱」に反するものと考えます。以上により、洪水に対し無策の排水樋管等設置に係る計画を何故許可できるのか、その根拠をご回答ください。
  9.  前川本川の計画(前川治水ダム事業計画)と、敷地からの排水との整合性は、確認されているのでしょうか。 ※流出係数は、平地で0.6、山地で0.8ですが、造成地排水区域として接する山地も含むべきと考えます。また、初期損失雨量は、流量観測資料を基に20~30mmとしているものの、計画に反映されていません。さらに、流出計算手法は、山形県が単位図法を採っているのに対し、組合は合理式、及び道路土工要綱による計算をしており、双方に齟齬が見られます。また、降雨強度式は、山形県河川整備計画で用いるものと異なっているため、計画自体に整合性が見られず、造成前の安全性が担保できていません。
  10.  前川の忠川合流点から下流の水量について、造成・開発前後の10年確率(造成地の排水計画降雨時)、40年確率(河川の計画降雨時)、また超過洪水(ダムの設計外力)において、前川の洪水量や被害を解析、確認をしておられますか。 忠川(前川ダム放水路)を、既にダム設計流量170m3/sまでの流下能力で改修していることは、本支川バランスを著しく欠いており逆転していると考えますが、これについての見解をお示し下さい。 ※この計画では、一級河川として前川の支川である忠川の流下能力が大きくなり過ぎ、下流である前川への過負荷となっています。この計画は、本来前川ダム上流部及びダム直下流山地狭隘部まででの間で氾濫していた洪水被害を、前川下流部に位相、集中させる行為であって、前川の忠川合流点下流の河道が未改修の現状においては、極めて危険な計画であると言えます。さらにダム設計流量時(東北地域での記録的降雨による超過洪水時)には、本来自然と忠川上流で氾濫していた被害を、前川ダム放水路としてそのまま前川下流へ170m3/sまでの洪水として移し、下流市街地での被害を増大・集中させる構造となっており、極めて不適切であると考えます。
  11.  管理用通路幅員(排水樋管上部、他の地点)について ① 申請当初の図面では3.0mで設計されていたものの、実施図面では2.0mに変更されています。完成時に、すべての区間で2.0m確保できているか、また現状では雑草が茂り、人も歩けないような状況で放置されており、造成工事を優先されていることに疑問を感じざるを得ませんが、その現状確認をなさいましたでしょうか。
    ② すでに造成工事は終了していますが、組合は忠川沿いの管理用通路として幅員を連続させずに放置しています。これを、河川管理者としてどのように考えておられますか。
    ③ 河川管理用通路の幅員は、設計当初図面通り通常の3.0mでしたが、実施設計時2.0mに設計変更した経緯をご存知でしょうか。幅員が1.0mも狭まったことについて、許可された際どのように解釈されましたか。さらに用地境界杭からの造成地までの幅員は2mに欠けている現状をいかに解釈されておられますか。
    ④ 現在造成地の左岸に、2.0mの管理用通路が確保されておりますか。たとえ工事中であっても、安全上、河川管理・監視の観点で管理用通路は、いつでも利用できる状態であるべき、と考えます。
  12.  忠川に旧橋梁を残置したことにより、旧橋と新しく架設された橋が連続し、一級河川忠川の河川上空を余分に占用する結果となりました。橋梁が連続して2ケ所存在することは、河川管理、治水機能、河川環境、景観上望ましいことではありません。これについて、旧橋残置を許可する理由をお示し下さい。また新橋(しんちゅうかわ橋)の河川占用を、造成地通行のみへの占用とされている理由についてもお示し下さい。
  13.  新橋(しんちゅうかわ橋)の河川管理用通路としての部分について、河川管理時、及び平常時に造成地への車両通行止めとする措置がとられているか、ご回答ください。
  14.  河川区域、河川保全区域を如何に設定されているか、またそれが造成工事に反映されているか、をお示し下さい。
  15.  忠川の造成地区間、特に橋梁架設付近の現状点検結果については、錆の流出及び表面に目視できる変状について、河川管理者としていかに評価し、補修の必要なし、異常なしと判断されたのでしょうか。お示し下さい。
  16.  現在上山市が発行している洪水避難地図は、防災上の観点から前川、忠川流域を含む村山圏域として、貴県が氾濫解析を行った結果(基データ)をもとに作成され、公開されています。この氾濫解析は「前川ダム事業完成時の河道条件として、40年確率の洪水に対し河川が改修されていない状況において、同年確率計画の洪水が起こった場合の氾濫区域、氾濫水深を想定した」ものです。この上山市洪水避難地図(洪水ハザードマップ)について、お尋ね致します。
     ①  上山市内を流れる前川、及びその上流に位置する前川治水ダム放水路 (旧忠川)の治水安全度は、支川である忠川が高く、本川である前川で低いため、前川下流域での氾濫が増幅されています。この安全度が、本支川で逆転している現状をどのように説明されますか。ちなみに、平成29年1月13日に山形県において情報公開請求文書を受理予定でしたが、前川上流部の「前川危険水位流下能力一覧表」は「不存在」との回答でした。
    ②  洪水避難地図により、県民(40年確率計画を想定条件)と国民(100~200年確率)に危険度を周知し、その対策を講じていることは、防災上、か つ治水安全上の蔑視であると思います。同じ国民として平等であるはずの市民の命、財産に対する防災対策の格差についてご説明をお願い申し上げます。国でも県でも市でも、洪水に対する危険度の見積もり方、周知の仕方、及び防災上の安全対策(避難の仕組み、避難路、避難所の設定等)、同じ確率年で計画を立てるべきではないでしょうか。
    ③  前川、忠川において、添付資料‐2にある通り造成地の直接排水が、前川ダム及び忠川において40年確率の計画高水量を増やし、前川においてはその数値計画すらないというような造成工事を、何故許認可できたのか、その理由をお伺い致します。
    ④  村山圏域の氾濫解析については、“想定外を想定する“ という防災上の 条件として、上流から溢れながらも集まる最大流量(現況河道、下水道整備状況、地目、造成地等、地形状況のトレンドも含み)を見直し、改定して、データを上山市へ渡され、市の防災対策として反映、見直すよう指示される予定はございますか。また隣接する南陽市等も含め、公助としての防災対策を、市単独ではない県として、避難路及び避難所等の防災対策につき、関連市町村へ指導なさる予定はございますか。

【質問16 ①~④に関する解説】

 昨今の気象状況や、気候温暖化等により、全国では洪水被害の頻度が増し、ますます増加傾向にあります。つまり危機管理上は、“想定外を想定しなければならない“というまでの状況に至っております。これに対し、前川治水ダム事業の想定外力は、算定に当たり「東北地方の過去最大規模(Creager‘s equationの係数C=34)」を用いており、かつて貯留機能を持っていた渓谷を流れる旧忠川を、前川治水ダム放水路として新たに構築し、Q=170m3/sという想定内(東北地方の過去最大規模)で改修しています。つまり、添付資料‐3中央図に示す通り、前川下流の洪水量増量分は、前川治水ダム設計洪水量(170m3/s)が、40年確率流量(150m3/s)に加算された結果、合計320m3/sの流量(40年確率計画改修後の150m3/s)の洪水が想定される、と読み取れます。同様に、国管理河川(最上川等)の氾濫想定は、河川の重要度において100~200年確率の洪水に対する解析が行われており、国管理河川の想定規模は、国民に対する氾濫規模及び危険度の周知であると言えます。それに対し県管理河川流域の想定規模は、山形県民に対する氾濫規模、危険度の周知を目的としており、国管理河川よりも危険である40年確率想定となっています。

 つまり、河川氾濫時における人命・財産の危険度は、県民イコール国民ではなく、県民を国民より甘く想定しているのが現状です。さらに、想定外を想定するためには、上流河川は氾濫しながらも、下流に流れてくるであろう最大流量を対象として、河道改修が進む度に解析し、改定されるべきものです。さらに、ダムの下流においては、その決壊も想定した危機管理対策、防災対策、洪水災害に対する平等な危険度周知が必要となります。

【防災について】

 防災上の避難勧告、避難指示などにつきましては、管理者の首長が行うことになっています。自然災害でも、洪水、津波地震災害、火災延焼等、様々であり、避難方法、避難情報の伝達手法等が異なっているのが現状です。そのため、国、県、市町村それぞれの状況判断が、市民への周知徹底に対する混乱を招いております。また防災情報を例にすれば、気象庁の発表する、”命を守る行動を”などを含めてLアラートや、民間防災情報、川の防災情報、地震速報等々実に多様であるため、まさに情報が洪水のごとく氾濫した状態になっています。市民、県民、国民は、何を信じて避難すべきでしょうか。 

 一人ひとりに適切かつ迅速かつ簡潔な情報発信が出来ていないのが現状において、山形県として、どのような防災対策の公助、共助、自助の分担を考えておられ、それを市民に周知徹底されるのか、また公助、共助のうち「公」が行うべき分担の防災対策事業を、どのように位置づけておられるのか、併せてお伺いできれば幸いに存じます。

 以上、ご多忙中大変恐縮ではございますが、3週間以内に回答下さいますよう宜しくお願い申し上げます。
                               

以上


参考とした図書
コンクリート構造物の診断と補修
※以下URLのコンクリートの変状と診断について記載されていたので参考としました。
http://www.ehimedoren.or.jp/11_sigen/kennsyuusiryou/okunai-siryou.pdf
01) 最上川水系 前川治水ダム事業計画書、昭和48年8月 山形県
02) 最上川水系 前川治水ダム事業計画書〔参考資料〕昭和48年12月 山形県
03) 村山総合支庁 村山圏域河川整備計画
04) 平成17年度洪水ハザードマップ整備事業倉津川外浸水想定区域検討業務委託報告書平成18年3月/山形県村山総合支庁/パシフィックコンサルタンツ株式会社
05) 前川治水ダム(パンフレット、山形県HPより)山形県村山総合支庁統合ダム管理課  年次不明
06) 上山市洪水避難地図(洪水ハザードマップ)平成26年3月改定 :A4折A1両面
07) 前川氾濫解析図(山形県HP)
08) 前川定期点検結果:情報公開請求資料
09) 造成工事申請許可設計図面、2種類
10) 排水樋管、排水工、排水路設計図面
11) 雨水排水計画(組合より開示)年次、作者不明
12) 造成工事認可証明書
13) 現地撮影写真
14) 吉川秀夫著、改定河川工学、昭和55年2月1日pp.55-58

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