山形県の環境と観光産業を守る会

山形県上山市川口地区に建設予定の清掃工場(2018年12月から「エネルギー回収施設(川口)」として稼働開始)に関する詳細、および諸問題について

澄んだ空気と水 第42号 2016.05.16 (土) 発行

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河川法から見た造成工事の問題点について(1)

 平成27年4月26日に行われた3件の裁判は、造成地へ入るための架橋工事の是非と、造成工事そのものの差し止めを求める仮処分申し立てに関するものでした。

 この3件の事件に共通する事項として「川」があります。敷地に接する「忠川」と、忠川が合流する「前川」です。この2本の川は、どちらも一級河川であり、前川ダムと共に山形県が管理しています。敷地に直接関係する忠川は、実質コンクリート三面張りの前川ダム放水路であり、山形県発行の「前川治水ダム事業計画書(参考資料)」によると、計画高水流量は0㎥/sとされています(下記反論書図をご参照下さい)。実際忠川には、常時ほとんど水は流れていません。このゼロであるべき忠川に、組合は敷地内で使用した水(雑排水)や、敷地南側で接する里山に降った雨水を排水することになります。そして、忠川に排水された水は、新幹線のガードの下を潜って前川に合流します。

 守る会が問題にしているのは、敷地からの排水量や護岸の強度であり、それらは「組合が計算した数字とは異なる」と、申し立てています。この排水量如何で、問題のある前川は更なる氾濫を繰り返す恐れがあります。組合が排水樋管及び排水口設置の認可を取るために山形県に提出した「雨水排水計画書」が、果たして正しいのか否か、裁判所の判断が待たれます。この敷地は南側で山へ、東側で川へ、北側で奥羽本線(山形新幹線)に接するという特殊性を持っています。とりわけ川の水は、下流へ流れて行き、広範囲に影響を与えます。そのため守る会は、河川工学の専門家に依頼し、現地に何度も足を運んで戴いた上、この計画書を精査して戴きました。

 その結果、忠川に対する架橋工事及び、敷地造成工事計画がきちんと河川法に則って作成されているか否か検討した文書を公開致します。この文書は、4月26日の敷地造成工事差止仮処分命令申立事件で、甲第30号証として山形地方裁判所に提出されました。会報ではこの30号証を、第42号と43号に分けて掲載致します。(一部写真を省略しておりますのでご了承下さい)


エネルギー回収施設(川口)建設事業の違法性
― その1:河川法との関連において ―

谷岡 康
博士(工):河川工学
技術士:総合技術監理(建設)
建設コンサルティング経歴30年
技術士:河川、砂防及び海岸
第一種情報処理技術者

■ 概 要
 山形広域環境事務組合は、エネルギー回収施設という名のもとに、ごみ処理場建設を計画し、市民の合意のないまま莫大な費用を投じて造成事業等をすすめている。 本文は、現在進められている忠川新橋架橋工事、敷地造成工事につき、とくに河川、つまり忠川、前川との関連において河川計画、治水安全度、河川環境、河川管理上の問題点を整理する。基本的な論述方針は以下である。

1)河川法:平成9年河川法改正に基づく河川整備計画が立案されていない
 河川整備計画がなされないまま河川縦横断形状を規定する以前に、環境へ配慮すべき沿川整備事業が作成されていない。
2)河川管理施設等構造令:管理用通路の原則
 同構造令によれば、河川管理用通路については最小3m幅が最小であり、設計における2mは令に反しており、不足している。
3)工作物設置許可基準:許可条件、審査結果の公示
 当基準によれば、河川管理用通路の幅は不足である。
4)山形県河川流域開発に伴う雨水排水対策指導要綱:開発対象面積
 当要綱によれば、5ha以上の開発が適用とされている。造成地自体は3.6haであるが、造成地に流入する山間地の雨水や忠川放水路への流域、排水施設も設置されており、山地も含めば32.5haである。新たな開発による排水施設を計画しているため、河川からみた開発地域は32.5haであり、当指導要綱に基づく計画が必要である。
5)土砂災害警戒区域指定につき
 地質、地形により”土砂災害系区域”に指定されるべき地域である。
6)雨水排水水理的計画諸元につき
組合が作成した造成地雨水排水計画(県許可)は、対象地域の排水量を過度に安全側に 見積もっている。下流河川、周辺市民においては、現状でも洪水氾濫を繰り返している前川の洪水被害を助長するものであるため、看過できない。

 

1. 平成9年改正河川法に対して

1.1 一級河川前川、忠川事業経緯

 昭和57年、前川の治水目的に忠川河道内貯留方式である前川治水ダムが事業実施された。しかし前川河道においては、計画流量までの改修までには至らず、前川は忠川との合流後において平成25年、26年に洪水氾濫を生じている状況であり、治水計画断面への改修予定は未だ市民に説明責任は果たされていない。

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図1-4 前川治水ダム事業計画書(参考資料)昭和48年2月:山形県

1)計画高水流量配分
 図1-4前川治水ダム事業計画書における図1-9計画高水流量配分図によると、前川ダム下流忠川放水路については計画高水0㎥/sであり、前川の洪水流量を計画通りに抑制するためには、ダム放流量及び忠川放水路は“0 ㎥/s“であるべきものである。

2)ダム設計洪水量の流量配分

 図1-4下図によると、ダムの施設放流量として単純に比流量に設計流量として計算され、前川への許容放流量として設定されたものである。ダム設計洪水量は、ダムの排水機能として設定されたものであり、前川への合流量として設計されたものではない。

1.2 前川、忠川の河川整備計画
 山形県が主張する「一級河川前川、忠川の河川整備計画は存在する」という計画内容は、図1-3 村山圏域河川整備計画のようなものであり、前川という名称があるのみである。前川に関する計画流量の記載はないばかりか、前川ダム、忠川の名称すら記載されていない。さらに環境整備計画も含めた河川の縦横断図、平面形は、市民に示されてはいない。

1.3 河川整備計画の不存在
河川法が平成9年に改正されて以降20年近く経るも、一級河川前川、忠川、及び前川ダムの河川整備計画は不存在であり、市民にも示されていない。これは、河川法違反であり、河川管理者の怠慢としか考えられない。さらに忠川放水路下流左岸の河川区域を設定しないまま造成工事を許可することは、違法と言える。

 

2. 河川管理施設等構造令からの反論

2-1 河川管理用通路

 河川管理施設構造令第27条、規則第15条によれば、管理用通路の幅員は3mが最小必要幅であり、必要な堤防幅については、工作物設置許可基準:河川管理施設の必要幅3mとされている。また、河川管理施設等構造令第21条によると、堤防の天端幅は3m以上とある。
 ここで、組合が山形県へ提出した工事許可資料については、管理用通路B=2mに対し、組合の実施図面(75葉)ではB=3mと改ざんされており極めて信頼性に欠く手続きであり不信感を抱く。また河川管理用通路幅2mの図面を“許可するもやむなし”として許認可している河川管理者の見識が疑われる。
 堤防の幅は、洪水時越流が生じたときの、のり面裏の洗掘等に対する耐力の安全性の担保である。また河川管理通路にしては、最低限の車両が通行し、河川、護岸の維持管理作 業を行う用地であり、必要なものであることは言うまでもない。

 

2-2 忠川の上空占用許可の問題

 前述の通り、連続した2橋による「陽の当たらない河川の上空空間占用」は、水質、生態系、景観の観点から、極めて不適切であり、平成9年河川法改正における河川環境、親水空間の実現には全く逆行することで、望ましくない。

次号へ続く

<紙名〈澄んだ空気と水〉の命名意図>

生物は太陽の光と熱により生息し、空気と水の環境度合いによって生命の維持が左右されています。この会は、わが故郷・緑多き山形が、でき得る限り澄んだ空気と水を維持し、地球汚染の要因とならぬよう努力して行きたいという理念に由来しています。

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