山形県の環境と観光産業を守る会

山形県上山市川口地区に建設予定の清掃工場(2018年12月から「エネルギー回収施設(川口)」として稼働開始)に関する詳細、および諸問題について

仙台高等裁判所へ即時抗告いたしました | 山形県上山市川口清掃工場問題

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 上山市川口に建設予定されている一般ごみ焼却場の敷地造成工事は、 昨年8月中旬に着工されました。しかし、この造成工事には多くの問題点があるため、守る会は昨年10月28日付けで、山形地方裁判所に「仮処分命令申し立て」を行いました。そして、その後3回の審尋を経て、今年4 月26日に結審しました。

 その結果、5月12日に山形地方裁判所より決定書が届き、守る会の申し立ては「却下」されました。その決定文の「主文」を公開致します。

 決定内容は、守る会にとって納得できるものではないため、5月23 日付で仙台高裁へ即時抗告致しました。

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平成27年(ヨ)第16号 造成工事禁止の仮処分命令申立事件

決定

(債権者・債務者の個人情報のためこの部分省略)

主文
債権者らの申立てをいずれも却下する。
申立費用は債権者らの負担とする。

理由

第1 事案の概要
本件は,債務者が,新たに清掃工場を建設するため,別紙1物件目録記載の各土地(以下「本件土地」という。)を造成する計画を立てたことに対し,本件土地沿いを流れる忠川付近で稼働する債権者らが,本件土地の造成により,大雨が降った際には,①忠川への排水量が増加して,忠川や前川が逸水する,あるいは, ②忠川の水位が上昇し,排水ができなくなって,本件土地に雨水が滞留し,忠川 のコンクリート護岸に想定外の圧力が加わるなどし,同護岸が崩壊して,河川を せき止め,鉄砲水が発生することにより,河川の水が債権者らの稼働場所に流入するなどして,債権者らの生命や身体等に著しい損害が生じるとして,人格権, 身体権,職業遂行権,会社経営権,営農権,農地の所有権,農業水利権に基づき, 債務者に対し,本件土地において,別紙3工事目録記載の工事(以下「本件造成 工事」という。)をしてはならない旨命ずることを求めた仮処分命令申立の事案である。

第2 争いのない事実及び疎明資料から容易に認定できる事実
1 本件造成工事の計画債務者は,山形市上山市東村山郡山辺町及び同郡中山町をもって組織された,地方自治法284条2項で定められた一部事務組合であり,ごみを処理 するための中間処理施設の設置,管理及び運営に関する事務を処理すること等を目的として設立されたものである。 債務者は,本件土地において,「エネルギー回収施設」という名称の清掃工場を建設するため,本件造成工事を計画した(甲1,2)。

2 土地の造成工事における雨水排水についての考え方
雨水は,士地の勾配によって低地や河川に流出,あるいは,地下に浸透する。 しかし,土地の造成工事を行うと,雨水の地下への浸透に変化が生じるととも に,低地や河川への流出状況に変化が生じる。このため,造成工事における雨水排水計画を策定する必要があり,その際には,道路土工要綱に基づいて計画を策定することが一般的である。また,山形県においては,開発面積5ヘクタ ール以上の大規模な開発を行う場合には,河川の洪水処理計画への影響を検討する必要があるとされている。(乙1)

3 本件における雨水排水計画
本件造成工事は,その対象面積は3. 6ヘクタールであるから,上記のような洪水処理計画への影響を検討する必要がある場合には該当しないものであるが,債務者は,上記のような一般的な基準である道路土工要綱に基づいて,以 下のとおり雨水排水計画(以下「本件雨水排水計画」という。)を策定した (甲16,乙1)。
まず,道路土工要綱においては,排水施設で排水しなければならない雨水流出量を算定し,その後,当該雨水流出量を排出するための排水施設を設計するものとされている。雨水流出量は,土地側の問題としては,集水域(降雨があ った場合に雨水が排水施設に集まることとなる区域)の面積と流出係数(降雨 量全体の中で地表を流下することとなる雨水の割合)を決定し,降雨側の問題としては,排水施設が安全の目標とする降雨確率年(何年に1度の確率の降雨 か)を設定して,集水域における最遠点からの降雨の流下時間(流達時間)に 対応する降雨確率年の降雨強度(雨の強さを表す単位)を計算した上,これら を所定の合理式に当てはめて計算することによって,当該降雨確率年の降雨強度が発生した場合に排水施設において生じることになる雨水流出量として算出される。
そして,債務者は,集水域については本件土地及びその南側の山地を含む区域とし,本件土地及びその南側の山地についての流出係数をそれぞれ決定し, 降雨確率年については10年と設定して,集水域における最遠点からの降雨の 流下時間(流達時間)に対する降雨確率年10年の降雨強度を算出した上で, 所定の合理式を用いて雨水排出量を計算したところ,本件造成工事後の雨水排水量は,本件造成工事前と比べて,0.140立方メートル/秒増加すること が明らかとなった。
この結果に基づいて,債務者は,排水施設を2か所設置することとし,そのうち,忠川上流に設置されたものについては,水路の底面が,前川ダムから放水された場合に想定される水位よりも低いことから,忠川の水位が上昇 した場合に河川の水が逆流することを防ぐ排水ゲートを設けた。この排水ゲ ートは,河川水位の高さまでは排水できる設計となっている。

第3 本件の争点及び当事者の主張
1 本件の争点は,本件雨水排水計画が不合理であるかである。
2 債権者らは,主として,降雨確率年10年とした場合,10年確率アメダス 時間雨量は,45ミリメートル/時であるが,本件上地周辺においては,これまでにも最大54ミリメートル/時の雨量の雨が降っているし,前川の計画高水流量は降雨確率年を40年としているから,降雨確率年は10年では過小である,忠川上流の排水施設は,忠川の水量が増加すれば排水ができなくなるから,本件土地に雨水が滞留し,忠川のコンクリート護岸に想定外の圧力が加わるとして,本件雨水排水計画が不合理であると主張する。
3 これに対し,債務者は,主として,本件雨水排水計画は,一般的な手法である道路土工要綱の基準に基づいており,それによれば本件造成工事の前後において,排水量の増加はわずかしかないため,大雨が降った際にも,忠川や前川が逸水するおそれはなく,また,忠川の水位が上昇しても,雨水が本件士地に 滞留するおそれはない旨主張する。

第4 当裁判所の判断
1 まず,上記のとおり,本件雨水排水計画によれば,本件造成工事後の雨水排水量は,本件造成工事前と比べて,わずか0.140立方メートル/秒増加す るにとどまるから,大雨が降ったとしても,本件造成工事によって忠川に流入 する雨水排水量が著しく増加することにはならない。 そして,上記のような道路土工要綱に基づいた計算は,造成工事における雨水排水計画策定の一般的な手法に基づいてなされており,不合理な点は見いだせない。 これに対して,債権者らが根拠とする計画高水流量に関する数値は,本件と は異なる場面であるから,直ちに債務者が採用した計算式や数値が不合理になるとはいえない。加えて,少なくとも,本件雨水排水計画によれば,各集水域 における降雨強度は,最小でも64. 62ミリメートル/時の数値となっているのだから,債権者らが主張する54ミリメートル/時よりも高い降雨強度を前提としているので,債権者らの主張を前提としても,債務者の計算が不合理とはいえない。
2 つぎに,排水ゲートの点に関しては,上記のとおり,排水ゲートは河川水位 以上の雨水が滞留しない設計となっているし,仮に河川水位が上昇して排水ができず,忠川のコンクリート護岸に水圧や浮力が加わる場合があったとしても, その水圧等の影響については,具体的機序は明らかではない。
3 そうすると,債権者らの主張する権利関係はさておき,債権者らに著しい損害又は急迫の危険性が生ずるとは認められないのであるから,債権者の主張は理由がない。

第5 結論
以上のとおりであり,本件申立てには理由がないから,主文のとおり決定する。

平成28年5月12日
山形地方裁判所民事部
裁判官竹田奈未

(以下省略)

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