山形県の環境と観光産業を守る会

山形県上山市川口地区に建設予定の清掃工場(2018年12月から「エネルギー回収施設(川口)」として稼働開始)に関する詳細、および諸問題について

河川法からみる清掃工場建設事業の違法性について<後編> [ 平成28年4月26日裁判 / その4 ]

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※ 本記事は長文のため、前編と後編に分けて掲載致します。当記事は「後編」です。「前編」はこちらからご覧下さい。

 

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図-2 エネルギー回収施設位置図

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写-1 造成地より忠川への溢水(平成25年7月)

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写-2 忠川老朽化護岸クラックよりの石灰及び鉄分

3. 現況護岸の老朽化 及び 負荷増加

3-1 忠川老朽化護岸
 現在の忠川護岸には、クラック及び石灰剥離、鉄分錆流出が観られる。この状況から、当初の構造的強度を期待することは到底出来ない。さらに、忠川の新設架橋、排水樋管工、造成地盛土の施工による1~2mばかりの土圧、水圧は当初の構造計算よりも、余計に負荷(単位面積1㎡あたり1t以上)を与えることとなり、構造的に危険である。
 平成24年4月〜27年3月までの前川ダム堤体・導水路巡視表を情報公開し、受理したが、放水路・導水路の変状については全てが“異常なし”と記載されていた。これについては管理の怠慢としか思えず、新たな河川整備計画策定、早急な補修が必要な状態と思われる。
 また忠川の旧橋については河川管理の必要性から残置すると聞いているが、対岸(忠川左岸)の管理用通路は2m幅程度しかなく、車両が侵入して点検、維持管理することは不可能である。河川区域の上空は貴重な水面空間であり、連続して橋梁を設置している河川管理のありかた、管理者としての見識が疑われる。
 当該造成地の地下水位は地表近くの高さで、降雨があれば、写-1のごとく越水する状況であり、通常も簡易的なヒューム管から忠川への排水は続いている。この水位、設計上の設定、設計値が表示されていないばかりか、ボーリング調査結果にも測定地下水位の表示はない。恐らく雨水排水路、排水樋管などの構造物については水圧による浮力により、破壊に至る可能性は大きいと考える。

 

4. 造成地雨水排水計画の問題点

 山形県より平成27年8月に情報開示をうけた“雨水排水計画”をもとに論述する。この計画書は、山形広域環境事務組合が山形県村山総合支庁に対し、川口エネルギー回収施設敷地造成工事に係る排水樋管設置許可申請書の一部として情報公開された書類である。 

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 流出計算については、最も簡易でピーク流量のみを算定する“合理式”を用いている。小流域で既往の流出データがなく検証が出来ない場合には、よく使われる手法ではある。しかし、前川ダムを含む忠川、前川については、ダムの貯留を再現できるようハイドログラフ(洪水波形)が算定できる“単位図法”により行われている。この意味で、本川と造成地の流出計算の手法が異なっていることは問題である。つまり、造成地のピーク流量が現れたときに、前川の流量の洪水ピーク流量と重合すると、前川の洪水流量が増加し、少しでも洪水被害を増大させる可能性がある。本川流量と、造成地の流出量の時間的関係の調査、影響度合いの検討が必要ではあるが、もともと前川の洪水ピーク時には、忠川放水路の流量配分は0㎥/sであることを注記しておく。

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 造成地の流出係数は、組合が述べるところの“道路土工要綱”に基づいて、造成地では1.0、山地では0.7を用いている。これは、範囲のある流出係数のうち造成地の安全側で最大の流出係数を用いていることで、造成地に於いては安全との弁明をしているが、受け入れる側の河川については、洪水被害を増大させる流出量の排水施設を整備することであり、看過できない。例えば、“河川砂防技術基準:計画編”における流出係数は、最大の密集市街地で0.9であり、1.0まではありえない。河川の計画上、当該造成地の流出量を考慮している場合、流出係数1.0での計画は有り得ず、もともとの河川治水計画に比すれば過大な流出がされる排水施設が設計されていることとなる。
 つまり、この雨水排水計画作成者(組合)は、敷地からいかに効率的に排水するかに主眼を置き、排出先の一級河川前川の安全性について検討を怠った危険な計画であると言える。

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 合理式における到達時間については、その水路形状と流速、到達時間内降雨強度とのトライアルにより合致をみるところで設定されることだが、計算書には10分と決めているようであり、トライアルの経緯、結果が観られないのは、不当である。

 

5. 敷地造成工事の雨水対策指導要綱に基づく工事の問題点

 ここで主張したいのは、この敷地造成工事計画は、敷地の排水に関する安全性は強調されているものの、前川下流側の被害を助長することである。組合が作成した雨水排水計画は、前川の河川整備計画策定との整合性、安全性について言及すらされておらず、看過できないことである。
 山形県が主張する「一級河川前川、忠川の河川整備計画は存在する」といわれているのは、上図前述のように、前川の計画流量の記載はないばかりか、“前川ダム”、“忠川”の名称すら記載されていない。さらに環境整備計画も含めた河川の縦横断図、及び平面形を市民に示されてはいない。

5-1 河川計画上の問題
 県内の洪水防御計画は超過確率年で50年が多いのに対し、前川、忠川、ダムの計画は40年確率と低い。ピーク時には0㎥/sであるべき計画放流量である。これについては記載がない。これで河川整備計画があると言えるのか、計画としてあまりにも説明が足りない。

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図2-1 排水樋管工の申請図

 “平成17年度洪水ハザードマップ整備事業、倉津川外浸水想定区域検討業務委託”において、前川の流下能力が検討されており、この報告書によれば、前川は計画洪水能力までの改修はされていないのが明らかである。その上流側での雨水排水の増加による被害増加、検討はなされておらず、河川管理者である県の許可、その審査内容について公表されるべきである。県は”やむを得ない“との認可書を提出しているのみである。前川は、近年2年連続で洪水氾濫被害が発生している。

5-3 許認可申請の是非
 排水樋管設置工事の許可申請図面23葉(平成27年8月開示)には、河道の横断形、河川境界、河川管理用通路の図面が含まれていない。組合の実施図面75葉をみると、存在する河川横断図も観ずに、河川占用許可、工事実施の許認可をおこなっているのは如何なることか。河川管理者として有り得ない審査、認可の在り様としかいいようがない。
 さらに河川管理用通路に関して最低減の幅3mを満たしていない、また盛土による忠川現況護岸の安全性の担保も無しに、許認可については“やむを得ない”との表現で(山形広域環境事務組合による、エネルギー回収施設に伴う排水口及び排水樋管の新設であり、公共的な目的で行われること及び河川管理上特に支障となるものではないことからとの但し書きがあるものの)、審査の記録も何もないのは、河川管理者としての責務を果たしていない。

5-4 河川管理用通路
 前述のごとく河川管理施設等構造令第25条、27条、施設設置許可基準などによれば、河川管理用通路の幅員は3mを下ってはならないのである。河川整備計画もなされないままで如何にこの老朽化した護岸の点検、補修を行っていくと説明されるのか。

5-5 土砂災害系区域について
 平成27年3月23日に告示された山形広域環境事務組合の入札企業に対する要求水準書添付資料-1によると、建設予定地の山に接する南東部は、  建設不可エリア(がけに近接する区域)とされている。この山の東面に沿って忠川が流れており、この建設不可エリアの東端付近に排水樋管が設置されている。この辺りは等高線の密度が高く、表土が薄いため、がけ崩れの恐れがある。そのエリア内に雨水排水用の水路を設け、近接して排水樋管を設置する事業は、土留めを新設したとはいえ不適切である。「土砂災害警戒区域」として指定されるべき場所と考える。

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山形広域環境事務組合 要求水準書添付資料-1 事業実施区域関連資料(事業実施区域図)

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