山形県の環境と観光産業を守る会

山形県上山市川口地区に建設予定の清掃工場(2018年12月から「エネルギー回収施設(川口)」として稼働開始)に関する詳細、および諸問題について

澄んだ空気と水 第29号 2015.10.30 (金) 発行 (後編)

前編「山形広域環境事務組合に対し 川口エネルギー回収施設造成工事差止仮処分命令申立を行いました」 の続き

6.
しかし、上記の債務者による想定や計算には、以下のような問題点がある。

  1. 本件工事前と後とで、用いた10年確率の雨の降雨時間が異なっている(本件工事前は上流部で33.9分、下流部で25.1分[甲16・20p]、本件工事後は10分[甲16・11p])、集水面積が異なっていると思われる(本件工事前は上流部で23.20ha、下流部で9.30ha[甲16・20p]、本件工事後は不明)、といった、計算に用いた数値に問題がある。
  2. 債務者の想定では、10年確率の大雨を45mm/hとしているが、過去10年を振り返ってみても、気象庁・上山中山観測地点において、2010年9月14日に47mm/h、2014年7月9日に54mm/hという、債務者の想定を超える大雨が降っている(甲17の3、5)。その他、2006年7月15日に43㎜/h、2008年7月6日に44mm/h、2013年7月18日に45mm/h、7月27日に44mm/hという、債務者の想定の数値ないしそれに近い大雨が降っている(甲17の1~4)。近時、わが国では、それらの数値を上回る大雨が降ることも見られる。債務者の大雨の想定は過小であると言わざるを得ない。
  3. 債務者が想定している忠川の計画高水流量の対象降雨と、本件工事に架かる対象降雨が符合しているかどうか不明である。
  4. そもそも、忠川の「計画高水流量」とされているが、忠川には河川法本来の意味での河川整備計画はなく、従って「計画高水流量」は存在しない。寧ろ、「前川治水ダム事業計画書」によると、忠川の計画高水流量は0㎥/sとなっている(甲18)。即ち、忠川の上流には治水を目的とした前川ダムがあり、洪水の際はこの前川ダムに貯水して、忠川には放流しないというのが、前川ダム建設の基本思想となっているのである。一方、170㎥/sという数字は、単に、忠川の河道の流下能力を示しているに過ぎない。
    従って、忠川及び前川の治水、流域の水害からの安全という観点から考えた場合、本件造成地から排出される雨水に関して参照されるべき忠川の「計画高水流量」は、170㎥/sなどではなく、0㎥/sでなければならないはずである。
  5. 2013年7月18日の大雨の時、本件土地に既に設置されていた樋管や排水路は役に立たず、それらの施設を通さずに、本件土地に湛水した水が直接忠川に滝のように流れ落ちていた(甲19の1、2)。一方、その時、本件土地は耕作放棄された水田であり、低湿地となっていて、相当量の雨水を湛水しており、殆ど流下することなく留まっていた。
    即ち、本件造成予定地は、総開発面積3万5886㎡であるところ、その殆どが本来は田であったのであり、忠川左岸の堤防よりも約50㎝(=0.5m)低くなっている。従って、この造成予定地は、本来、3万5886㎡×0.5=1万7943㎥の貯水容量があったものということができる。造成予定地の中には、高い所もあるかもしれないので、実際の貯水容量はこの数値よりも若干低くなるかもしれない。仮に貯水容量を、この数値の7割と考えると、1万2560.1㎥ということになる。一方、債務者は、農地の浸透係数を0.7と考えているので、若し貯水容量が1万2560.1㎥/sであったとしても、本件農地には、この容量の3割増しの貯水能力(=1万7943㎥)があるということになる。債務者は、造成前の本件造成予定地から排出される水量を4.421㎥/sと想定しているが、この水量を前提とすると、債務者が想定する10年確率の大雨が降った場合、4058秒分(=約1時間8分)の雨量を貯水することができる。債務者の上記想定は、このような造成前の本件土地の貯水能力を全く考慮していないものである。
    従って、債務者が、本件工事前に本件土地から流出する水量として想定した水量は、過大であるということができる。
    本件造成工事が行われると、このような貯水を行うことは不可能となり、造成地に降った雨は、その殆どが忠川に流れ込むことになる。
  6. しかし雨水は、平成25年7月の大雨の時には、さらに土地の貯留浸透能力を超えて忠川護岸より越水し、忠川に流出したのであり、それにより前川は、川口地区のみならず下流域広範囲で氾濫したのである。このような大雨が降った場合には、造成前における債務者の想定した排水能力を超える量の雨水が忠川に排水されることになっていたことが判る。このことは、本件造成工事が行われた場合、債務者が想定している水量を遥かに超える水量が忠川に流入することになるということである。
  7. 本件工事が完了した場合、若し債務者が想定する合計4.421㎥/sの水が忠川に流れ込むのだとした場合、それは、現状において本件土地から忠川に流れ込む水量を遥かに超える量であると言わねばならない。

7.
 ところで、山形県は既に述べたように、最上川水系須川について、管理者となっており、平成15年9月24日、須川水系を含む最上川水系村山圏域について、河川法16条の2に基づく河川整備計画を策定している(その後平成25年と平成27年に一部改訂)。この河川整備計画では、須川の支流である前川及びさらにその支流である忠川については、河川整備計画が策定されておらず、計画高水流量は存在しない。そして、この河川整備計画では、須川の計画高水流量は、前川の合流点前後において、750㎥/sとなっている(甲20・29p)。
 ところが、山形県は、昭和48年12月に作成された「前川治水ダム事業計画書」によって、忠川の計画高水流量を170㎥/sとした、という説明をしている(甲21)。この流量がどの程度の対象降雨を想定したものなのかは不明である。また、この計画においては、本件土地から流入する水量は全く考慮されていない。
 それから、山形県は、前記「前川治水ダム事業計画書」において、前川について、「計画流量」というものを定めており、それによると、忠川との合流点前後(「五反田橋」が合流点のすぐ下流である)を通して、175㎥/sとされている(甲21、23)。この流量は、1/40の対象降雨(40年に1度の雨量を想定しているということである)に基づくものであるとのことである(甲22)。このことは、山形県は、須川に関しては前川からの洪水の流入を想定しておらず、前川に関しては忠川からの洪水の流入を想定していない、ということを意味している(なお、「計画流量」という概念の根拠は明らかではない)。

8.
 従って、本件工事が行われると、大雨が降った時、想定外の水量が忠川に流入することになり、さらにそれが前川、須川に流れ込むことになる。前川は、最大流下能力が計画流量を下回る箇所が随所にある(甲23)。そのような場所は、前川の流下能力に近い大雨が降った場合、本件工事がなされたために、溢水してしまうことになる。 平成26年7月9日から10日に掛けて上山市を襲った豪雨は、前川の護岸を破壊し、川沿いの水田や畑に浸水し、上山市中心市街地の道路も濁流となった(甲24)。7月10日の真夜中に避難勧告が出されている。現在ですら豪雨になるとこのような危険な状況になるにも拘わらず、造成工事によりさらに多くの雨水や工場排水が忠川、前川に流入することは看過できない。 

9.
 また、本件工事が行われた場合、忠川への排水口のうち、上流部に設置される方は、計画高水位よりも低い位置に樋管が設置されるようである(甲16・20p)。この場合、その樋管から排水されない水が樋管や本件土地の敷地内に滞水し、樋管や忠川左岸の護岸に対して非常な水圧を加えることになる。忠川左岸の護岸コンクリートは、強度が不明な上に既にいくつものクラックが生じて劣化しており、このような水圧が加えられたとき、崩壊する危険性が高い。

 

今後の予定 (於:山形地方裁判所)

12月4日(金) 11:30~山形県行政訴訟
  13:15~造成工事仮処分(組合)第1回審尋

 

<紙名〈澄んだ空気と水〉の命名意図>

生物は太陽の光と熱により生息し、空気と水の環境度合いによって生命の維持が左右されています。この会は、わが故郷・緑多き山形が、でき得る限り澄んだ空気と水を維持し、地球汚染の要因とならぬよう努力して行きたいという理念に由来しています。

 

参考画像:山形県上山市洪水ハザードマップ
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