山形県の環境と観光産業を守る会

山形県上山市川口地区に建設予定の清掃工場(2018年12月から「エネルギー回収施設(川口)」として稼働開始)に関する詳細、および諸問題について

澄んだ空気と水 第18号 2014.12.17 (水) 発行

流動床式ガス化溶融炉の実態を知る講座開催

 上山市川口地区に設置予定のゴミ焼却炉は、【流動床式ガス化溶融炉】です。ゴミを燃やすだけなら800°程度で済みますが、ガス化溶融炉は1300°~1800°の超高温を発し、ごみを融かします。この時に有毒なガスを発生しますが、フィルターや化学薬品を用いて毒性を削減すると言われています。現在東京都世田谷区において現役で稼働している同タイプ溶融炉の実情を環境面、経済面、多方面から伺い、ディスカッションしました。

日時:平成26年11月2日(日)13:30~17:00
議題:世田谷清掃工場 流動床式ガス化溶融炉の稼働実態
講師:世田谷区議 植田靖子氏

 世田谷清掃工場は、一日当たり300トン(150トン×2炉)処理能力をもつ流動床式ガス化溶融炉を2008年に採用し、稼働して6年が経過しています。さらに、世田谷区内にもう一つある清掃工場や他区の焼却灰の容量を圧縮するため、プラズマ式の灰溶融炉も稼働しています。山形広域環境事務組合で計画している一般ごみ焼却施設は、山形市立谷川が150トン、上山市川口が150トンの合計300トン処理を行う予定で、世田谷清掃工場と同一規模となります。世田谷区議を務めていらっしゃる植田氏は当初よりこの溶融炉に関わられ、その稼働状況や経費等の詳細な知識をお持ちでいらっしゃいますので、そのお話の要旨を以下のようにまとめました。

1.突出した事故件数の多さ

 ごみ溶融炉は、一般的に機能が未完成のまま全国に導入され、稼働されたと言われています。世田谷の溶融炉は2008年試運転の段階から不具合が起こり、工期が3ヶ月延期されました。

【平成24年度(2012年度) 工場名・炉状況・故障内容・備考等事例】

世田谷2号炉 休炉 H24.6.29
 溶融スラグの流下が止まり、燃焼溶融炉壁温度が徐々に低下してきた。その後、ITVカメラで流下口からの水漏れを確認したため、焼却炉を立ち下げた。

世田谷2号炉 休炉 H24.6.07
 ガス化炉の流動不良が起こり、ガス化炉上部の温度が上昇した。改善操作を試みたが流動不良が解消しないため焼却炉を立ち下げた。

世田谷1号炉 休炉 H24.5.12
 ガス化炉の流動不良が起こり、ガス化炉上部の温度が上昇した。改善操作を試みたが流動不良が解消しないため焼却炉を立ち下げた。

世田谷1号炉 休炉 H24.5.11
 アンモニア水貯蔵室内でアンモニア濃度”高”警報が発報した。ポータブル測定器でアンモニア気化装置上部での漏洩を確認した。

世田谷1号炉 休炉 H24.3.30
 燃焼溶融炉流下口の壁面等に溶けたスラグが付着し、塊が出来た。解除を試みたが、その後も塊の上にスラグが堆積し、徐々に閉塞してきたため、運転継続が困難と判断。

● 灰溶融・世田1谷号 休炉 H24.1.7
 灰溶融炉下部の炉体と炉底電極間に炎を発見した。調査、補修のため停止した。

● 世田谷1号炉 休炉 H24.3.30
 燃焼溶融炉流下口の壁面等に溶けたスラグが付着し、塊が出来た。解除を試みたが、その後も塊の上にスラグが堆積し、徐々に閉塞してきたため、運転継続が困難と判断共通設備であり、当該漏れ箇所は、元弁と脱機器の間に位置するため、全炉停止した。

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画像:23区清掃工場 灰溶融施設の故障件数(平成24年度)

2.溶融炉事故による支出が財政を圧迫

 世田谷清掃工場では、労働安全衛生規則に基づく定期測定で高濃度のダイオキシン類が確認され、原因究明と対策工事のために5月31日から9月2日までほぼ3カ月間にわたり休炉になった際、予定外の収集運搬費として16,684,819,200円を補正予算として組みました。燃やすごみの区分変更に伴う事故が続出し、千歳清掃工場では排ガス中の水銀濃度が自己規制値を上回り休炉となりました。

3.子どもの健康調査と土壌調査で、健康不良の原因判明

 横浜市での土壌調査では、焼却場の周辺地域では明らかに鉛や水銀の含有量が高く、離れるほど数値が下がることが判明。それにより2ケ所の工場を廃炉にし、健康が改善されました。

4.廃プラ焼却廃止によるごみ焼却場削減推進 ( プラスチックは燃やしてはいけない!)

 従来の焼却炉からガス化溶融炉に変更することにより、燃やせるごみの種類は格段に増加します。特にプラスチックを燃やすと助燃剤(灯油等)量が削減できるため、積極的に混燃されていますが、ダイオキシン類や有害な重金属類発生の元凶になっています。あくまで分別リサイクルを推進すべきです。

5.スラグは有効利用できず、ほとんどが埋立て処分されているのが実態

 ガス化溶融炉で燃焼した結果できる生成スラグや、東京23区の清掃工場の焼却灰を灰溶融炉でスラグにしたものなどは舗装材等に再利用されると言われていますが、現実には成分に有害な重金属類を含有しているため、ほとんど埋立て処分されている状態です。

 

全国で問題多発のガス化溶融炉・灰溶融炉 導入推進の牽引役専門家の責任を問う ~ もっと市民の声も反映した政策決定を ! ~ 植田靖子

■ ガス化溶融炉は未熟な技術、あきれた発言(消費者リポート第1393号)

 2007年12月25日の神戸新聞に「かさむ補修費、自治体圧迫『ガス化溶融炉』問題多発」という見出しで、専門家による「未熟な技術」だとの記事がありました。その専門家のコメントを読んで思わず絶句しました。 一人は日本環境衛生センター理事の藤吉秀昭さんで、記事によると「基本的な課題をクリアしないまま実機に移した技術もあり、影響が出始めている」と言っています。もう一人は岡山大学大学院環境学研究科教授(廃棄物工学)の田中勝さんで、「小規模施設に向く特性があるものの、大都市は新技術を難しく評価したため、あまりガス化溶融炉を選んでいない。外国で失敗した技術が流行しているのは、日本では新しい技術は『より良い技術だ』と評価する傾向も影響したと思う。メーカーは安く仕事を取って後から回収するので、維持管理費が高くなりがち。市民はもう少し税金がどのように使われているのか関心を持つ必要がある」とのことです。

■ 日本全国の焼却炉に関わってきた二人

 この二人は、これまで全国各地の焼却炉建設検討委員会や焼却炉の機種選定検討委員会の委員を歴任しています。特に田中さんは、東京都が廃プラを焼却不適物から埋立不適物に変更した時の廃棄物審議会の座長であり、環境省が廃プラ処理の優先順位を明確にした基本方針の改定で、埋め立てより熱回収が適当とした時の中環審の座長でもあります。そしてこの二人は、2000年5月、東京二十三区清掃一部事務組合の世田谷工場ガス化溶融炉導入検討委員会のメンバー6人のうちの2人であり、田中さんは座長でした。同年12月の報告書でガス化溶融炉の導入を促した張本人です。数年後、世田谷区議会の全議員にガス化溶融炉についての講演をしたのは、藤吉秀昭さんでした。田中さんは、市民が税金の使われ方に関心を持つ必要があるとコメントしていますが、私たち市民は、当初からガス化溶融炉は未熟な技術であり危険なこと、事故や故障で税金が必要以上に使われる懸念を訴え、導入の撤回や再検討することを訴え、導入の撤回や再検討することを求めて、区長、区議会、都知事に請願、陳情、署名提出などを繰り返しましたが、行政は市民の声を歯牙にも掛けず無視して、専門家がお墨付きを与えたガス化溶融炉導入は微塵も揺るぎませんでした。現在、2007年12月から本稼働の予定だった世田谷清掃工場のガス化溶融炉は、試運転中の不具合によって早くも改造することになり、引き渡し時期が3ヶ月延長されました。

■ より良い行政判断へ導くための専門家では ?

 そもそも全国でガス化溶融炉のメーカー保証期間が切れてから、予算を上回る高額な補修費が問題になる前に、専門家なら警鐘を鳴らすことが出来たのではないでしょうか。建設し稼働した今になって「あれは未熟な技術」だとか「外国で失敗した技術をよりよい技術だと評価する傾向が影響した」とか言われても、そう評価したのは専門家の二人の意見が行政に反映した結果ではないでしょうか。その結果、環境悪化と税金の無駄使いという負担を負うのは、声をあげてもなかなか届かず、健康被害なども受ける市民なのです。事実上、行政にお墨付きを与え、ガス化溶融炉・灰溶融炉の導入を推進した立役者と言える二人は、これまで自身が発言してきた結果の責任をどう考えているのでしょうか。現在も全国各地の自治体で、二人の委員に支払っている報酬は税金です。こんな専門家を委員や座長にする行政の委員選定の在り方も大いに問題であり、行政をチェックすべき議会の役割も厳しく問われます。

 

2地区で松葉ダイオキシン調査を実施しました !

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 現在日本では、ごみ焼却場周囲のダイオキシン調査が義務付けられており、管理者が調査し公表しています。しかし、調査は1年に数回の切り取られた日時であり、通年の数字とは言い難いのが実情です。その日の風の向きや燃やされるごみの質によって、数値は変動します。周辺住民が安心して暮らすためには、日常の暮らしの中で呼吸する人間と同様に、植物として呼吸している松の葉を使用するのが一般的です。この「松葉ダイオキシン調査」は、東京23区を中心に全国で市民によって実施されており、焼却場とその周辺の状況を知ることに役立っています。山形県ではまだ実施された例はありません。

 そこで私たち守る会は、現在焼却場が稼働している山形市の地区と、まだ稼働していない(予定はされていますが)上山市の地区を選び、その周辺地区に植えられているアカマツの松葉を採取しました。ごみ焼却場の煙突の周囲半径1キロの地点をまんべんなく選び、採取。それらをブレンドして地区の平均値を出します。ブレンドした松葉は、公平を期すため早急にカナダの検査機関へ送られ、12月に守る会宛に検査の結果が届きました。

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 今回はアカマツを選択し、人が呼吸する高さの枝を選んで丁寧に手で摘み取ります。マツは春に新芽が出ますが、新しい針葉ではなく、2年葉を摘むことが大切です。変色した葉や傷んだ葉が入っていたら、破棄し、よい状態の葉だけを選びます。焼却場が稼働している地区から5カ所、稼働予定の地区から5カ所選び、採取した日時と採取場所を記載した密閉袋に入れ、まずは東京の研究所に送ります。

 東京の環境総合研究所さんに送られたアカマツの針針葉はブレンドされ、それぞれ200グラムに整えられ、 カナダの分析機関へ送られました。
 結果は平成26年12月3日に届き、川口地区の数値はほぼ全国平均値で良好な状態。すでに稼働している地区は明らかに高い数値であることが判明しました。

 

<紙名〈澄んだ空気と水〉の命名意図>

生物は太陽の光と熱により生息し、空気と水の環境度合いによって生命の維持が左右されています。この会は、わが故郷・緑多き山形が、でき得る限り澄んだ空気と水を維持し、地球汚染の要因とならぬよう努力して行きたいという理念に由来しています。

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