山形県の環境と観光産業を守る会

山形県上山市川口地区に建設予定の清掃工場(2018年12月から「エネルギー回収施設(川口)」として稼働開始)に関する詳細、および諸問題について

上山市川口清掃工場(ゴミ工場)造成工事 | 守る会側第2準備書面の公開(控訴審)

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明後日の火曜日(2019年2月26日)に行われる予定の造成工事の裁判に関して、前回の裁判で守る会側が提出した第2準備書面を公開いたします。この裁判は、平成27年から長期にわたって続いており(仮処分→一審→二審(控訴審))、控訴審の現在において最終局面を迎えています。

この準備書面はこうした、これまでの長く複雑な内容を、裁判官にむけて簡潔にまとめたもので、この書面を読めば、何が裁判で争われているのかや、これまでの流れなどがわかる内容になっています。

明日後の口頭弁論では、この準備書面でも触れられていますが、守る会側が申請している「証人尋問」をおこなうかどうかの判断が裁判官によって示される予定です。

 

(*公開用に編集を行っています。)


平成29年(行コ)第28号
上山市清掃工場用地造成工事公金支出差止請求住民訴訟控訴事件

控訴審準備書面(2)

控訴人 地域住民
被控訴人 山形広域環境事務組合管理者 佐藤孝弘

平成30年11月21日

上記控訴人ら訴訟代理人
弁護士 坂本博之

仙台高等裁判所第2民事部 御中

第1 はじめに
 本準備書面は、これまでの控訴人ら及び被控訴人の主張、並びに原判決の内容を概観し、原判決の不備、被控訴人の主張の不備を改めて指摘するものである。
 本件おける控訴人らの主張は、山形広域環境事務組合と××建設・××土建建設工事共同企業体との間で締結された、清掃工場の敷地造成工事に関する請負契約が、河川法に違反し、原告らの人格権を侵害するものであり、入札方法が違法な談合によるものであるから、公序良俗に違反して無効である、というものである。
 以下、本件で問題点となる論点のそれぞれについて、控訴人らの主張、被控訴人の主張、原判決の内容、控訴審における控訴人らの主張、控訴審における被控訴人の主張、残された問題点の順に述べる。

第2 河川法違反であるとの点について

1 控訴人らの主張
 控訴人らの主張は、本件土地から排出される雨水が流入する一級河川忠川及び前川(以下「一級河川」は省略する)には、河川整備計画及び河川整備基本方針及びそれに伴う主要な地点における計画高水流流量(河川法施行令第10条の2第2号ロ)が存在せず、河川法に違反する状態である、というものである。現に、山形県知事が平成15年9月24日に策定し、平成25年3月1日に一部改訂した一級河川最上川水系村山圏域河川整備計画(知事管理区間)(以下「本件河川整備計画」という)、国土交通省が定めた最上川水系河川整備基本方針(以下「本件河川整備基本方針」という)には、前川及び忠川に関して、基本高水流量も計画高水流量も何らの記載もされていない。このような状態の中で、河川に負荷を与える本件工事は違法である、というものである。

2 被控訴人の主張
 被控訴人の主張は、前川及び忠川に関する河川整備計画、河川整備基本方針は存在する、というものである。具体的には、本件河川整備計画、本件河川整備基本方針がこれである、というものである(被控訴人の第3準備書面・2p)。

3 原判決の内容
 原判決は、被控訴人の主張を殆ど無批判に取り入れたものであり、①本件河川整備計画があり、忠川及び前川は、最上川水系に属し、村山圏域の河川であるから、上記河川整備計画に直接記載がないからと言って、上記河川整備計画の対象区域に含まれていると考えるのが自然であるなどとして、忠川及び前川についての河川整備計画が存在しないということはできない、②国土交通省最上川について本件河川整備基本方針を定めており、前川及び忠川は最上川の支流であるから、この河川整備基本方針は忠川及び前川についての河川整備基本方針である、などという判断をした(34p)。

4 控訴人らの控訴審での反論
 しかし、現実に、原判決も認めるように、本件河川整備計画には、前川及び忠川に関しては、忠川そのものや前川ダム、忠川との合流点について、図も示されていないし、計画高水流量の記載もない。前川や忠川に関しては、本件河川整備計画策定後に前川や忠川で行われる具体的な整備内容は何も書かれていない。国土交通省が策定した本件河川整備基本方針にも、前川や忠川に関する記載は全くない。このような場合、一般人の感覚からすれば、前川や忠川が本件河川整備計画や本件河川整備基本方針の区間に含まれていたとしても、何の具体的な計画高水流量の数値、河川整備の目標に関する事項(河川法施行令第10条の3第1号)の記載もなく、具体的な整備計画が何も記載されていないのであれば、通常は、前川や忠川に関しては、河川整備計画は未だ作成されていない(=存在しない)、と考えるのが「自然」である。

5 被控訴人の控訴審での反論
 この点に関して、被控訴人は、単に「原判決の上記判断は相当なものであり」などと述べるものであり、具体的な主張は何ら行っていない(控訴審答弁書12p)。

6 残された問題点
 もし、前川や忠川について、河川整備基本方針やそれに沿って計画されるべき河川整備計画(河川法第16条の2第1項)があるということなら、その具体的内容が明らかにされなければならない。特に、後に述べることとも関連するが、前川や忠川に河川整備計画が存在するのであれば、基本高水流量や計画高水流量が存在するはずである。しかしながら、被控訴人が山形県知事に対して行ったとされる河川整備計画に関する照会に対する回答においては、これらの点が全く触れられていない(乙16)。
 このような点について、山形県の河川に関する担当者がどのような認識を持っているのかについては、当該担当者に対して証人尋問を行って、明らかにするほかはないものと考える。

第3 人格権侵害となるとの点について
1 控訴人らの主張
 人格権侵害に関する控訴人らの主張の基本は、本件清掃工場用地の造成工事は、周辺河川への雨水流出状況を変えることにより、河川下流域で水害等を発生・助長させ、当該下流域の住民の人格権を侵害する可能性がある、というものである。
具体的には、以下の通りである。

(1) 山形県河川流域開発に伴う雨水排水対策指導要綱(以下「本件指導要綱」という)というものが存在するが、この要綱では、河川流域で5ha以上の開発を行う場合には、調整池の設置が必要とされているところ、本件造成工事に伴う雨水排水計画の集水域は、山地も含めると32.5haとなり、この範囲の流域開発が行われるにも拘らず、調整池の設置が予定されていない。

(2) 本件清掃工場用地の造成工事により、前川及び忠川の流域の治水計画を定めるに当たって要求される40年確率の大雨が降った場合に、実際にどの程度の負荷を前川及び忠川に与えることになるのかを実際に算出して、その与える影響が多大であることを主張している。より具体的には、この点に関する控訴人らの主張の基本は、次のとおりである。
 道路土工要綱は、工事現場からの排水を行うことを主眼として作られたものであり、周囲の河川に与える負荷を全く念頭に置いていない。
 組合の雨水排水計画は、10年確率の降雨があった場合の排水を念頭に置いているが、対象としている排水先の河川(前川)の計画高水流量150㎥/s(被控訴人の第1準備書面10p)というのは、40年確率の大雨の場合の流量であり、整合性がない。なお、ここで被控訴人は、前川の計画高水流量と述べているが、これは、河川整備計画に基づく数値ではなく、前川治水ダム事業計画に出てくる数値であろうと思われる。
 本件造成地に40年確率の大雨が降った場合の流出量を試算すると、いくつかの数値があり得るが、その一つの計算では、忠川の流量が170㎥/sであるとすると、1.28%増加する(控訴人らの準備書面(2)・8~9p)。また本来は忠川護岸壁に囲まれた造成用地である為、樋管やその上部切り欠き及びU字溝による排水量全てが造成工事による流出量増量であり、排水先の忠川が合流する前川は、現在においても洪水ハザードマップを見ても明らかなように計画高水流量の水が流れると溢水、氾濫する箇所が何カ所もある。本件造成工事は、このような溢水、氾濫の可能性をさらに高めることになる。
 その場合の本件造成地の流出係数は、本件土地が造成工事前にはほぼ休耕田であったため、原野の場合の0.6を、山地は0.7を採用すべきである。
 山形県が作成した調整池等設置基準によると、開発事業地の雨水が河川に流入する地点を基準点とする流域において、当該開発行為に伴う最大流量が、開発前と比して原則として1%以上増加する場合は、調整池の設置等の措置を講ずることが要求される(控訴人らの準備書面(2)・6~7p)。本件造成地からの排水は前川ではなく、忠川に対して行うから、その排水量は、忠川の計画高水流量と比較すべきであるところ、忠川の計画高水流量は0㎥/sである。従って、本件造成地には調整池を設ける必要があることが明らかである。なお、ここで忠川の計画高水流量と言っているが、これは、河川整備計画に基づくものではなく、前川治水ダム事業計画(甲18)に書かれている数値である。
 本件造成地は、休耕田が多く、相当の貯留効果があったものというべきである。従って、本件造成事業以前に本件造成地から排出される雨水は、造成後に排出されることとなる雨水の水量よりも遙かに少なかったものと考えられる。

(3) 忠川の左岸側コンクリートが大きく切り欠かれたことで、従前よりも遙かに大量の雨水排水が可能になった。そのため、造成地からの排水も、従前よりも遙かに大量に行われることとなる。また、この低く切り欠かれた箇所があるため、忠川の護岸の高さは左右両岸において格差が生じてしまっており、豪雨時に前川ダムから放水された水は、この低い護岸部より造成地内に流入し、樋門部を洗掘し、護岸を崩壊させ、さらに大量の排水を前川に対して行う可能性がある。

2 被控訴人の主張
 上記の控訴人らの主張に対する被控訴人の主張は、次のようなものであった。
(1) 上記(1)の点については、本件造成工事は、対象面積が3.6haであり、本件指導要綱に定める河川への排水量増加による河川の洪水処理計画への影響を検討する必要はない。
(2) 上記(2)の点については、基本的に、道路土工要綱に基づいて本件造成工事の雨水排水計画を立てており、同要綱に定められた方法で雨水排水量の計算を行っているので、問題はない。そして、上記ア~カに対しては、次のような主張を行った。
 造成地の工事を行う場合、道路土工要綱に基づいて計画を策定することが一般的であり、本件雨水排水計画は合理的である。
 本件造成地の雨水排水計画が10年確率の大雨を想定しているのに対して、それが流入する河川の流量が40年確率の大雨であるという不整合については、被控訴人は、明確な反論をしていない。
 被控訴人は、改めて本件造成地に40年確率の大雨が降った場合の排水量の計算をすることなく、控訴人らの計算結果を独自の主張などと非難することに終始している(被控訴人の第3準備書面4p等)。
 本件造成地において造成工事が行われる前の流出係数について、被控訴人は、造成工事前の平成24年までは水田として耕作されており、雨水の透水性は耕作が行われていた当時と変わらないなどとして、水田の場合の0.7を用いるべきだ、と主張している(被控訴人の第5準備書面3p)。
 忠川の計画高水流量は0㎥/sではない。前川治水ダム事業計画書に記載されている0という数字は、前川ダムに流れ込む流量が140㎥/sとなった場合に、前川ダムから忠川への放流は行わないということを意味するに過ぎない。本件造成工事前にも、忠川には前川ダム直下から前川合流地点までの区間の各所で雨水が流入していたものであり、忠川全域で計画高水流量が0であったなどということはなかった(被控訴人の第5準備書面4~5p)。
 本件造成地にあった水田は、西側から忠川に向けて緩やかに傾斜しており、水田への降雨は水路を通じて忠川に排水されていたものであり、造成地前の建設地が休耕田であり、大きな貯水能力があったという主張には理由がない。

(3) 上記(3)の点については、排水口の切欠きに関する控訴人らの主張には理由がない、というのが被控訴人の主張である(被控訴人の第6準備書面)。

3 原判決の内容
 原判決の判断は、以下のようなものであった。
(1) 上記(1)の点について、開発行為とは、主として建築物の建築又は特定工作物の設置の用に供する目的で土地の区画形質の変更をいう、などとして、控訴人らが開発区域であるとすべきと主張する土地は山地であり、本件清掃工場の敷地と一体的に利用することが想定されているものではなく、本件工事における流域開発行為の対象は、本件造成工事が行われる土地のみであり、その面積は3.6haであるとし、本件指導要綱によって求められる調整池の設置は必要ではない、などとした(35~36p)。

(2) 上記(2)の点についての、原判決の判断を、上記ア~カに対応させて整理してみる。
 本件造成工事には本件指導要綱の適用はないから雨水排水計画において道路土工要綱の定める排水に関する指針の考えに沿ったことは誤りとはいえない。
イ~エ 40年確率の降雨強度式の係数については、××が述べる30年確率と50年確率との平均を取ることは不合理とは言えない。本件土地の流出係数は、本件土地が造成工事前にはほぼ休耕田だったとは認めることはできず、むしろ水田に類似する状態であったというべきであるから、水田の係数を参考にして0.7とするのが相当である。到達時間、排水面積、算定式等は、控訴人らが採用するものを用いるのが相当である。そうすると、本件工事前後における40年確率の雨水排水量の合計は、それぞれ、5.120㎥/s、5.298㎥/sである。忠川との合流点付近の前川の計画高水流量は150㎥/sである。本件土地からの雨水排水量の増加は0.178㎥/sであり、組合の計算である0.14㎥/sと大きく異なっていないし、前川の計画高水流量に対して0.12%に過ぎない。
 降雨時に直接忠川に降る雨や、周囲の土地からの忠川へ流れ込む雨水等がある以上、およそ忠川から前川に雨水が流入しないということは考え難いから、忠川の計画高水流量が0㎥/sという前提で忠川に対する影響を考える事はできない。
 本件土地が休耕田であったことは認められないし、本件土地全体が忠川の護岸よりも低地であったと認めることはできないから、本件土地の貯留効果も認められない。
(3) 上記(3)の点については、控訴人らの主張は、具体的な危険性の主張立証をしていないとか、忠川の計画高水流量が0㎥/sであることを前提としているから前提を欠く上、本件造成工事の影響の程度は低い、などとという判断をした(43p)。

4 控訴審における控訴人らの主張
 上記の項目立てに沿って、控訴審における控訴人らの主張の概要を以下に示す。
(1) 上記(1)の点については、本件指導要綱の適用対象となる「流域開発行為」というのは、単に区画形質の変更が行われる地区だけではなく、当該開発行為によって雨水の排出機構が変化する地域も含めて解釈するのが相当である。また、同要綱5条1項は、「開発事業者は、開発区域を含む流域から流出する雨水を適切に排水するため必要な施設を設置し、開発区域外の放流先に支障を及ぼさないようにしなければならない」と規定し、この規定を受けて調整池等設置基準が設けられ、一定の基準に該当する場合には調整池の設置が必要である、とされている。そして、調整池等設置基準には、「開発事業地の雨水が河川へ流入する地点を基準点とする流域において、当該開発行為に伴う最大流量が、開発前と比して原則として1%以上増加する(以下、「最大流量が増加する」という。)場合は、下記により洪水容量の算定を行う」という規定が設けられている(調整池等設置基準は、原判決6~7pにも記載されている)。
 本件は、本件造成用地及び周囲の山林合計32.5haの集水域から排水される雨水の排水のために必要な施設を設けなければならないのである。また後述するように、本件では、本件造成工事により、雨水が河川に流入する地点において、最大流量が従前と比較して1%以上増加するものであるから、調整池等設置基準に従って、調整池の設置が必要となる。

(2) 上記(2)の点について、控訴人らは、控訴審で以下のような主張を行っている。
 本件造成工事は、本件清掃工場用地に「土工構造物」を築造するものではなく、単に清掃工場用地の地盤整備を行うものである。従って、そもそも、本件清掃工場用地造成に道路土工要綱は当てはまらない(甲75・2p、資料1、甲74・1p)。
 それから、道路土工要綱の「共通編」の「第2章 排水」の「2-2 排水施設の計画」の箇所には、「(3) 道路からの排水が周辺地域へ悪影響を及ぼさないよう、適切に流末処理を行わなければならない」と書かれている。しかし、本件清掃工場用地造成計画においては、周辺地域への排水による悪影響の配慮は全くなされていない(甲75・2p、甲74・110p)。従って、本件清掃工場用地造成工事について、仮に道路土工要綱が当てはまるものであったとしても、本件清掃工場用地造成工事は、道路土工要綱に違反している。
 本件造成地の雨水排水計画が10年確率の大雨を想定しているのに対して、それが流入する河川の流量が40年確率の大雨であるという不整合については、原判決も認めたところである。
 控訴人らは、その上で、さらに、原審で行った主張とは別の観点から、即ち、本件造成工事前に実際に存在した排水口の管径に基づいて、本件造成工事前の状況において、最大限排出できる雨水の水量を算出した。即ち、控訴人らは、本件造成工事前に実際に本件造成地に存在した排水管の位置、管径等を調査し、それらの配管を利用した場合の最大の排水量、及び最もあり得べき排水量を算出した。その結果、本件造成工事の結果、40年確率の雨が降った場合の、本件土地から前川に対する雨水排水の増加量は、最低でも3.2947㎥/s、もっともあり得る増加量としては4.2859㎥/sとなるものと算定された。そして、この水量を、原判決が認定した、40年確率の降雨があった場合を想定した前川治水ダム事業報告書(平成9年河川法改正に基づく河川整備基本方針ではない)における「計画高水流量」の150㎥/s、及び本件造成工事後の40年確率での雨水排水量の5.298㎥/sと比較すると、本件造成工事の結果、40年確率の雨が降った場合の、本件土地から排出される雨水による前川の流量に対して与える増加量は、少なくとも2.196%、最もあり得る増加量としては2.8573%となるものと算定された(控訴理由書8~10p)。
 この増加量は、当然、組合において調整池の設置を行わなければならない数値である。また、このような排水量の増加によって、前川は、下流の相当範囲で氾濫することになるものと考えられる。
 原判決の認定にも拘わらず、本件土地が造成工事前において、水田に類似する状況であったことを裏付ける証拠は極めて薄い。
のみならず、工事開始直前の平成24年秋から平成27年7月の造成工事開始までの約3年間は、本件土地の全域が水田ではなかった。また、平成24年よりも前の年代においても、本件造成地の相当部分が耕作放棄地であった。
 そして、本件造成予定地は耕作が放棄されてから手入れがされず、草などが伸び放題の状態であった。一般的に水田は数年も放置すれば草木の生い茂る原野と化すのである。このような状態からするならば、平成24年に全面的に耕作がなされなくなって以降の本件土地の流出係数は、畑原野と同様に0.6という数値を用いるのが適切である。それ以前についても、水田と耕作放棄地とが混在していたものというべきであるから、流出係数は、安全側に立って、やはり0.6を採用するのが、造成工事直前より、下流前川の安全性を低下させないという観点からも適切な計画であったものというべきである。
 本件土地からの排水は、殆どが前川ではなく、忠川に排出される。忠川には、河川整備計画は存在せず、河川整備計画上の計画高水流量は存在しない。ただ、前川ダム事業計画書において、忠川の計画高水流量は0㎥/sとされている。これが40年確率の雨が降った場合の忠川の計画高水流量である。計画高水流量とは、計画雨量が降った場合に、基本高水流量から各種洪水調節施設での洪水調整量を差し引いた流量である(甲91)。前川治水ダム事業計画書において示された0㎥/sという数値は、まさにこのような数値である。なお、計画高水流量という数値は、飽くまでも計画上の数値であることに注意すべきである。
 また、忠川は、昭和48年に策定された前川治水ダム事業計画によって3面コンクリート張りの排水路として計画された。前川治水ダム事業計画における流出計算モデルにおいては、前川ダムから前川合流点までの間には流域が見込まれていない。現実にも、前川ダム直下から前川との合流点までの間に、忠川に合流する河川はないし、流入する水路は、本件造成地からの排水路の他には、ダム直下の右岸側に1本の水路があるだけである。忠川の護岸の途中から、地下水を排水するためのヒューム管はいくつか設置されているが、40年確率の豪雨が降った場合であっても、そのような水抜きのためのヒューム管からの流入量はごく僅かであるものと思われる。
 計画高水流量というのは、1秒間に1㎥(=1t)というレベルの水量を考えるのであり、降雨時に川面に降る雨や上記のような水抜き管から入ってくる水量は無視できる量であるというべきである。
 原判決が述べている「降雨時に、直接忠川に降る雨や、周囲の土地からの忠川へ流れ込む雨水等がある以上、およそ忠川から前川に雨水が流入しないということは考え難い」などということは、計画高水流量という概念を全く理解していない者の妄言であるという他はない。
 結局、実際に本件土地から雨水が排水される河川として、忠川に注目すれば、本件造成工事によって増加する排水量の割合は、無限大となるものという他はない。
 本件土地は、北側が奥羽本線の線路、西側及び南側が山地、東側が忠川の護岸に、それぞれ囲まれる、すり鉢の底のような形状となっている。そして、本件土地は、忠川の護岸よりも低い土地であることは明らかである。従って、元々、本件造成工事以前には、雨が降った場合、本件土地に相当の貯留効果があったことは明らかである。
 また、控訴人らは、原審の準備書面(4)において、本件土地の貯留効果を実際に計算してみた。これは、畦の高さを30㎝と想定し、本件土地の面積を0.032+0.004=0.036 km2(甲16・4p)として、貯留量を、0.3m×(0.036×1000×1000)m2=10800㎥と試算したものである。原判決は、控訴人らのこの主張に関しては、全く触れていない。控訴人らのこのような考えは、専門家によっても受け入れられている考え方である。
 従って、控訴人らが原審において行ったような貯留効果の試算は、十分に根拠のあるものというべきである。
 このように、本件土地には元来相当の貯留効果があったのであり、前川や忠川に排出される水量は、被控訴人が主張する水量よりも遙かに低いものであったということができる。

(3) 上記(3)の点について、控訴人らは、控訴審では特段新しい主張を行っていないが、原審における主張をそのまま維持する。

5 控訴審における被控訴人の主張
 上記の項目立てに沿って、控訴審における被控訴人の主張の概要を以下に示す。
 なお、被控訴人の主張は、何れも理由がないか、控訴人らの主張に対する十分な反論となっていない。この点については、後述の6において具体的に述べる。

(1) 上記(1)の点について、即ち、本件指導要綱に関する控訴人らの主張に対して、被控訴人は、何らの反論もしていない。

(2) 次に、上記(2)の点についての、被控訴人の反論は、次のようなものである。前記ア~カの項目に沿って述べる。
 組合が本件雨水排水計画において道路土工要綱の指針を採用したことは何ら不相当なものではない。本件工事のような造成工事は道路土工と同様の工事だし、造成工事を行う場合には道路土工要綱の指針を利用することが一般的になっている。
 被控訴人は、降雨確率年10年の降雨強度を計算し、これを下に雨水流出量を計算しており、このような計算結果、前川の計画高水流量150㎥/sの0.1%弱の増加量しかないことを確認している、降雨確率年40年の降雨強度で計算しても、増加量は0.1%強に過ぎない、などと述べている(第7準備書面4p)。
 控訴人らの行った雨水流出量の計算は、元々あった配水管の排水口からの最大流出量を求めたものであるが、これが前川への最大流出量であるというのは全く理由がない。大規模降雨時には、排水口から排出されずに直接本件土地から忠川に流入するなどということがあったことからも明らかである(第7準備書面7~10p)。
 本件造成工事前の本件土地は、平成24年の買収までは水田であったのであり、本件工事前の流出係数を0.7としたのは妥当である。また、水田であった土地は、数年間耕作がなされなかったとしても、畦畔の形状は耕作されていた当時と変わらないし、地盤に透水性の低い粘土層があることには変わりがない。従って、平成27年7月当時の流出係数を0.7として計算したことは相当である(第7準備書面5~6p)。
 被控訴人において山形県に対して、前川治水ダム事業計画書25p上段の「計画高水流量配分図」に記載されている、前川ダム下流の「→0」という記載の意味について照会を行ったところ、「これは流量が計画高水流量となった場合には、前川治水ダムから忠川への放流は行われず、前川治水ダムにおいて流入した140㎥/sの全量をカットするとの意味」であるとの回答を得たため、原判決の内容が相当であることが明らかになった(第7準備書面10~11p)。
 原審における主張と同様の主張を繰り返している(第7準備書面11p)。

(3) 上記(3)の点については、何ら触れるところがない。

6 残された問題

(1) 上記の本件指導要綱に関する点については、流域開発行為が行われる面積に関する解釈の問題があるほか、本件造成地からの雨水排水量がどれだけ増加するかという認定が関係してくる。本件造成地からの雨水排水量の増加については、後述する通りである。

(2)  前川及び忠川の流域に関しては、防災計画等では、40年確率の降雨強度の雨が降った場合を想定している。従って、本件造成工事からの雨水排水計画が河川の安全性に与える負荷を考えるに当たっても、40年確率の大雨が降った場合の排水量を考える必要がある。これは、原判決も認定した通りである。
 この点、道路土工要綱は、造成工事現場からの雨水排水計画を10年確率の大雨を前提として計算することとしており、河川の防災計画や治水計画とは明らかに齟齬がある。このような齟齬があることについて、被控訴人は、正面から反論をしていない。
 本件造成地からの雨水排水量を考える場合、40年確率の大雨を想定しなければならないことは、原判決も認めたところである。
 また、組合は、雨水排水計画の策定に当たり、本件造成地からの雨水排水量の増加を検討するに当たり、「忠川の計画高水流量170㎥/s」との比較対象を行っている(甲16・20p)。組合の雨水排水計画は、本件造成地からの雨水排水は10年確率の降雨を想定しているのに対して、忠川の「計画高水流量」は40年確率の降雨を想定しているという齟齬があるほかに、①忠川には、河川法で言うところの本来の計画高水流量というものは存在しない、②忠川に計画高水流量というものがあるとすれば、前川治水ダム事業計画書に記載されたものであるが、それは0㎥/sである、というような、幾重にも重なる誤りがある。
 計画高水流量とは何か、忠川や前川にはその根拠となる河川整備計画や河川整備基本方針はあるのか、前川治水ダム事業計画書に記載された忠川の計画高水流量とは何か、と言った点について、被控訴人や被控訴人から紹介を求められた山形県は、誤魔化しを行っている。例えば、山形県は、前川治水ダム事業計画書に書かれた「→0」という記載を、忠川の計画高水流量ではない旨、被控訴人からの照会に対して回答したが、山形県河川課のホームページや、同県村山総合支庁山形統合ダム管理課発行のパンフレットには、忠川の計画高水流量が0㎥/sである旨の記載がある(甲89、90)。計画高水流量について、原審の裁判官は全く理解していなかったが、当審の裁判官の理解も不十分であることを奇貨として、誤魔化し通そうとしているものという他はない。
 上記の、計画高水流量とは何か、忠川や前川にはその根拠となる河川整備計画や河川整備基本方針はあるのか、前川治水ダム事業計画書に記載された忠川の計画高水流量とは何か、と言った点について、明らかにするために、そして被控訴人や山形県の誤魔化しを明らかにするために、河川工学の専門家である××証人、山形県の担当者である田中信明上人の人証取調は必須である。
 一方、本件造成工事によって、造成工事の前と後とでどれだけの排出量の変化があるかということを考慮するに当たり、本件工事前の雨水排水量がどれだけであったのかを正しく把握する必要がある。
 ところが、被控訴人は、本件造成工事前の雨水排水量を計算するに当たり、造成工事によって造られる排水管、排水口を利用するという前提の計算を行っている。このような計算では、本件造成工事前の排水量を正確に計算することはできない。
 一方、控訴人らは、控訴審において、実際に本件造成地に実際に存在した配水管・排水口の管径や傾きに基づいて、それらの排水口から排出される最大の水量を計算するという手法を用いて、雨水排水量の計算を行った。被控訴人は、このような手法について前記のような批判を行っているが、それ以上に、自らは、従前作成した雨水排水計画の際に行った排水量の計算以外のより正確な計算を行うことは全く行っていない。また被控訴人は、控訴人らの主張に対して、本件造成工事前に存在した排水口の他にも、本件造成地から直接忠川に流入する雨水があったなどと述べているが、そのようなことがどの程度の頻度であったのか、直接忠川に流入する水量がどれだけであったのかと言った点について、具体的な主張はしていない上、そもそもそのような事前調査を行ったことがあるのかどうかも不明である(おそらく行ってはいないと考えられるが)。
 本件造成工事前のより正確な排水量については、控訴人らと被控訴人との間で主張の相違があり、しかも被控訴人の主張は具体性を欠いているうえ、裏付けが乏しい。このような点を明らかにして、控訴人らの主張が正しいことを立証するために、原告××及び証人××の人証取調は必要である。併せて、被控訴人の主張が不相当であり且つ裏付けを欠いているものであることを立証するために、証人××の人証取調も必要である。
 本件工事前の雨水排水量を推定するに当たり、本件工事前の本件造成地の流出係数を推定することも必要である。そして、流出係数を推定するには、本件工事前の本件造成地の状況を明らかにする必要がある。それを行うには、本件造成地の直近に日常的に勤務しており、本件造成のようすを日常的に目にしていた、原告××の人証取調を行うことが必須である。
 本件土地からの排水は、前川ではなく、忠川に対してなされる。前述のように、山形県の調整池等設置基準では、「開発事業地の雨水が河川へ流入する地点を基準点とする流域において、当該開発行為に伴う最大流量が、開発前と比して原則として1%以上増加する……場合は、」調整池等により洪水調整池等の設置により洪水調整を行うべき旨規定されている。
 上記調整池等設置基準に従うならば、本件工事による排水量の増加は、被控訴人が行ったように前川に対して行うべきではなく、忠川に対して行うべきものである。そして、既に述べたように、忠川には、河川法で規定される意味での計画高水流量は存在しない。前川治水ダム事業計画書に書かれている忠川の計画高水流量は、0㎥/sである。被控訴人も原審の裁判官は、計画高水流量について誤魔化しを行っていたり全く理解をしていなかったりという態度であったことは既に述べた通りである。被控訴人や原判決は、前川ダム直下から忠川に流入する水があるとか忠川そのものにも降雨がある筈だから、計画高水流量が0㎥/sとするのは不自然だ、などと述べているが、計画高水流量というのがこのような概念ではないこともまた、既に述べた通りである。
 さらに、ここで注意をしなければならないのは、忠川の計画高水流量を何のために議論をしているかということが忘れられているということである。被控訴人も原判決も、忠川の計画高水流量が0㎥/sであるという点を批判して終わってしまっているが、本件造成地からの排水量の増加が、本件工事前と比べて1%を超えるのか、という点が、本来議論されるべき論点である。被控訴人が、もし、忠川の計画高水流量が0㎥/sではない、或いは40年確率の降雨の際の正確な忠川の流量は0㎥/sではない、と主張するのであれば、忠川の計画高水流量はいくらであるのか、或いは40年確率の降雨の際の正確な忠川の流量はいくらであるのか、という点について、積極的な反論・反証を行うことが必要である。
 控訴人らは、控訴人らの主張が正しいことを立証するために××証人の人証取調が必要であると考える。また、被控訴人が上記の点について何らの考えも持っていないこと、十分な反論をすることができないことを立証するために、××上人の人証取調が必要であると考える。
 本件工事前の本件土地に貯留効果があったことは、従前の本件土地の状況を把握するのが肝要である。そして、それを行うには、本件造成地の直近に日常的に勤務しており、本件造成のようすを日常的に目にしていた、原告××の人証取調を行うことが必須である。

(3) 控訴人らは、上記(3)の点について、即ち、忠川の左岸側コンクリートが大きく切り欠かれたことで、従前よりも遙かに大量の雨水排水が可能になり、造成地からの排水も、従前よりも遙かに大量に行われることとなったこと、この低く切り欠かれた箇所があるため、忠川の護岸の高さは左右両岸において格差が生じてしまっており、豪雨時に前川ダムから放水された水は、この低い護岸部より造成地内に流入し、樋門部を洗掘し、護岸を崩壊させ、さらに大量の排水を前川に対して行う可能性があることについては、河川工学の専門家である××証人の証言を以て立証したいと考えている。従って、同証人の人証取調は必須である。

第4 談合が成立するとの点について
1 控訴人らの主張
控訴人らは、本件工事の入札結果を示し、7つの共同企業体が入札を行ったが、僅かの価格の範囲内に各共同企業体の入札価格が犇めき合い、しかも××建設・××土建建設工事共同企業体の入札価格は予定価格の97%であったことを踏まえ、本件工事の入札においては談合が行われたものと考えられる旨、主張した。

2 被控訴人の主張
被控訴人の主張は、本件入札において談合が行われたことの根拠は一切示されておらず、そのような事実は認められない、というものであった。

3 原判決の内容
原判決は、控訴人らが示したのはあくまで入札結果に過ぎず、談合の具体的内容について明らかにするものではなく、他に具体的な談合の事実を認めるに足りる証拠がない、などという判断を行った(44p)。

4 控訴審における控訴人らの主張
一つの工事について、7社もの入札者があり、僅かの価格の範囲内にそのすべての入札者の入札価格が犇めき合い、しかも落札者の入札価格が予定価格の97%となる、などということは、常識的にみて、入札者(及び組合)が談合を行った結果であるとしか考えられない。何の作為もなしに、このような整然とした入札結果が出るなどということは通常はあり得ないからである。
 原判決の判断は、このような一般通常人の考えとは相容れないものであり、非常識かつ不合理な判決との誹りを免れない。

5 控訴審における被控訴人の主張
 被控訴人の主張は、入札価格が予定価格の97%であったことのみを以て、談合の事実が認められることとなるものではなく、談合の事実を認めるに足りる証拠がないとした原判決の判断は妥当である、と主張している。

6 残された問題
 談合が存在したことを立証するためには、落札した××土建が行った工事代金の積算の内容、入札の経緯等を明らかにする必要があり、その為には、同会社の代表者である××上人の人証取調が必要である。

第5 まとめ
 以上のとおり、本件は、被控訴人によって十分な反論がなされていなかったり、誤魔化されようとしていたりする点が多々ある。このような点については、人証の取調を行い、事実を明らかにする必要がある。
 また、控訴人らにとっても、その主張を立証するために既に挙げた人証の取調が必要であると考えている。

 

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