山形県の環境と観光産業を守る会

山形県上山市川口地区に建設予定の清掃工場(2018年12月から「エネルギー回収施設(川口)」として稼働開始)に関する詳細、および諸問題について

2017年5月22日提出の被告・第1準備書面の公開(5完結) | 山形県上山市川口清掃工場問

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 (1)(2)(3)(4)に続き、今年の5月23日におこなわれた「平成28年(ワ)第236号 一般廃棄物焼却施設建設禁止等請求事件」の第二回・口頭弁論で、被告(山形広域環境事務組合)より提出された第1準備書面を公開いたします。長かったですが、今回でようやく完結です。

(※この訴訟の経緯は以下の記事をご覧下さい。)
[随時更新]進行中の裁判とこれまでの裁判結果 | 山形県上山市川口清掃工場問題 - 山形県の環境と観光産業を守る会

(※この書面に対する、原告(市民)の反論書(原告ら第1書面、平成29年9月5日(火)・第三回・口頭弁論)は以下のリンクからご覧下さい。)

(リンク)平成29年9月5日・原告提出第1準備書面 ※「禁無断転載」
(リンク)平成29年9月5日・原告提出の証拠説明甲 9~18 ※「禁無断転載」


平成28年(ワ)第236号 一般廃棄物焼却施設建設禁止等請求事件
平成28年12月06日~第一審、山形地方裁判所(松下貴彦裁判長)
原告:地域住民
被告:山形広域環境事務組合
原告ら訴訟代理人梶山正三弁護士(理学博士、ごみ弁連会長)、坂本博之弁護士(ごみ弁連事務局長)
被告訴訟代理人:内藤和暁弁護士、古澤茂堂弁護士、小野寺弘行弁護士


※ Web公開用に一部編集を行っています。

4 施設稼働に伴う騒音について

(1) 法令の定める基準

 本件エネルギー回収施設の建設地は,都市計画区域外に位置していることか ら,公害対策基本法9条に基づく環境基準や騒音規制法,条例等の定める騒音 についての規制値は適用されないものである(乙第15号証 エネルギー回収 施設《川口》建設事業生活環境影響調査書1-15)。 しかしながら,被告においては,本件エネルギー回収施設の稼働に伴う騒音 被害の発生を防止するための独自の基準として,山形県生活環境の保全等に関 する条例をもとに建設地周辺の土地利用状況等を勘案して,敷地境界におけ る基準として次頁の表の基準値を設定しているものである(乙第15号証 エ ネルギー回収施設《川口》建設事業生活環境影薔調査書1-15)。

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 また,本件エネルギー回収施設の稼働後の騒音に関する独自の環境保全目標 として,本件エネルギー回収施設の建設地及び直近民家において現況に著しい 影響を及ぼさないこと,廃棄物運搬車両の走行においても現況に著しい影響を 及ぼさないことという目標を設定しているものである(乙第15号証エネル ギー回収施設《川口》建設事業生活環境影響調査書4.2-27)。

(2) 施設稼働における騒音対策

 本件エネルギー回収施設においては,施設稼働に伴う騒音を軽減するため, ファン,空気圧縮機等の騒音発生機器は低騒音の機器を採用すると共に,室内 に設置し,

 また,騒音の発生源周辺では,できる限り壁面の吸音処理や遮音壁 など騒音の漏洩を抑制することとしているものである。 また,機械及び設備・装置は定期的に点検を行い,異常の確認された機器類 は速やかに修理,交換し,機器の異常による騒音の発生を未然に防止すること としているものである(乙第15号証エネルギー回収施設《川口》建設事業 生活環境影響調査書1-15,4.2-28)。

(3) 施設稼働における騒音レベルの予測

 被告においては,本件エネルギー回収施設の建設に先立って,生活環境影響 調査において,本件エネルギー回収施設の稼働による騒音が周辺にどの程度の 影響を及ぼすかを確認するため,2(3)(52頁)で上述したような周辺地域に おける騒音の調査を行ったうえ,これをもとに,本件エネルギー回収施設の稼 働後の騒音の予測を行ったものである。

ア.施設稼働による騒音

 本件エネルギー回収施設の稼働による騒音の,本件エネルギー回収施設の 建設地の敷地境界(St.1),直近民家付近(St.7)における影響を予測するため,本件エネルギー回収施設の騒音の主要発生源毎の設置台数と騒 音パワーレベルを設定し,各室の吸音率,透過損失等を基に外壁面レベルの 音圧レベルを算出したうえ,音源毎の距離城衰の計算を行い,予測地点にお ける現況騒音レベルとの騒音レベルの合成を行った(乙第15号証エネル ギー回収施設《川口》建設事業生活環境影響調査書4.2-17)。

 その結果,本件エネルギー回収施設の稼働による騒音の予測値は,本件エ ネルギー回収施設の建設地の敷地境界(St.1)において,朝(6時乃至 8時)で現況騒音レベル56dBに対して予測騒音レベル56dB,昼間(8 時乃至19時)で現況騒音レベル57dBに対して予測騒音レベル57dB, 夕方(19時乃至21時)で現況騒音レベル62dBに対して予測騒音レベ ル62dB,夜間(21時乃至翌6時)で現況騒音レベル57dBに対して 予測騒音レベル57dBであり,(1)で上述した敷地境界における基準値をい ずれも下回っていること,及び現況に著しい影響を及ぼさないことが確認さ れた。また,直近民家付近(St.7)においても,朝(6時乃至8時)で 現況騒音レベル69dBに対して予測騒音レベル69dB,昼間(8時乃至 19時)で現況騒音レベル68dBに対して予測騒音レベル68dB,夕方 (19時乃至21時)で現況騒音レベル69dBに対して予測騒音レベル6 9dB,夜間(21時乃至翌6時)で現況騒音レベル67dBに対して予測 騒音レベル67dBであり,現況に著しい影響を及ぼさず,(1)で上述した環 境保全目標を充足していることが確認された(乙第15号証エネルギー回 収施設《川口》建設事業生活環境影響調査書4.2-25乃至27)。

イ.廃棄物運搬車両の走行による騒音

 また,本件エネルギー回収施設への廃棄物運搬車両の走行による騒音の国道13号線及び市道石曽根川口線沿線(St.5),市道前川ダム東線沿線(S t.6)における影響を予測するため,工事用車両の走行による騒音レベル の予測の際と同様,一般車両のみが走行した場合の騒音レベルと「一般車両 +工事用車両」が走行した場合の騒音レベルの差を工事用車両の走行による 騒音レベルの増加量として予測するため,日本音響学会の「ASJRTN -Model2008」に基づいて騒音レベルの予測を行った(乙第15号 証エネルギー回収施設《川口》建設事業生活環境影響調査書4.2-2 1,13)。

 その結果,本件エネルギー回収施設への廃棄物運搬車両の走行による騒音 レベルの予測結果は国道13号線及び市道石曽根川口線沿線(St.5) において,昼間平均で現況騒音レベルが73.5dBに対して予測騒音レベ ル73.6dB,市道前川ダム東線沿線(St.6)においても,昼間平均 で現況騒音レベルが60.5dBに対して予測騒音レベル65.2dBであ り,現況に著しい影響を及ぼすものではないことが確認された(乙第15号証エネルギー回収施設《川口》建設事業生活環境影響調査書4.2-2 6,27)。

 

5 施設稼働に伴う振動について

(1) 法令の定める基準

 本件エネルギー回収施設の建設地は,都市計画区域外に位置していることか ら,公害対策基本法9条に基づく環境基準や振動規制法,条例等に基づく規制 値は適用されないものである(乙第15号証エネルギー回収施設《川口》建 設事業生活環境影響調査書1-16)。 しかしながら,被告においては,本件エネルギー回収施設の稼働に伴う振動 被害の発生を防止するための独自の堪準として,山形県生活環境の保全等に関 する条例を基に,建設地周辺の土地利用状況等を勘案して,敷地境界における 振動の基準として,次頁の表の基準値を設定しているものである(乙第15号証エネルギー回収施設《川口》建設事業生活環境影響調査書1-16)。

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 また,本件エネルギー回収施設の稼働後の振動騒音に関する独自の環境保全 目標として,本件エネルギー回収施設の建設地及び直近民家において現況に著 しい影響を及ぼさないこと,廃棄物運搬車両の走行による振動について,振動 規制法に基づく「道路交通振動の限度(要請限度)」を参考に,国道13号線 及び市道石曽根川口線沿線(St.5)及び市道前川ダム東線沿線(St.6) において,昼間70dB以下,夜間65dB以下との目標を設定したものであ る(乙第15号証エネルギー回収施設《川口》建設事業生活環境影響調査 書4.3-13)。

(2) 本件エネルギー回収施設の振動対策

 本件エネルギー回収施設においては,施設稼働に伴って発生する振動を軽滅 するため,主要な振動発生源については,独立した基礎とし,振動が地盤中に 伝達する程度を低下させ,また,主要な振動発生源に防振措置を行い,発生す る振動を吸収させることとしているものである(乙第15号証エネルギー回 収施設《川口》建設事業生活環境影響調査薯4.1-16)。

(3) 施設稼働における振動レベルの予測

 被告においては,本件エネルギー回収施設の建設に先立って,生活環境影響 調査において,本件エネルギー回収施設の稼働による振動が周辺にどの程度の 影響を及ぼすかを確認するため,3(2)(55頁)で上述したように,周辺地域 において振動の調査を行ったうえ,これをもとに本件エネルギー回収施設の稼 働時の振動の予測を行ったものである。

ア.本件エネルギー回収施設の稼働による振動

 本件エネルギー回収施設の稼慟による振動の,本件エネルギー回収施設の建設地の敷地境界(St.1),直近民家付近(St.7)における影薔を予 測するため,3(55頁,56頁)で上述した建設工事の振動の際と同様に, 国土交通省国土技術政策総合研究所の「道路環境影響評価の技術手法平成2 4年度版」の定める予測手法に従い,本件エネルギー回収施設内の各設置設 備の振動レベルを設定し,距離減衰の計算を行ったうえ,予測地点における 現況騒音レベルとの騒音レベルの合成を行った(乙第15号証エネルギー 回収施設《川口》建設事業生活環境影響調査書4.3-7)。

 その結果,本件エネルギー回収施設の稼働による振動の予測値は,本件エ ネルギー回収施設の建設地の敷地境界(St.1)において,現況振動レベ ル30dB未満に対して予測振動レベル53dBであり,(1)で上述した環境 保全目標である昼間65dB,夜間55dBを下回ることが確懃された。直 近民家付近(St.7)においても,現況振動レベル30dB未満に対して 予測振動レベル30dB未満であり,現況を著しく悪化させるものではなく, (1)で上述した環境保全目標を充足していることが確認された(乙第15号証 エネルギー回収施設《川口》建設事業生活環境影響調査書4.3-11, 16)。

イ.廃棄物運搬車両の走行による振動

 また,本件エネルギー回収施設への廃棄物運搬車両の走行による振動の国 道13号線及び市道石曽根川口線沿線(St.5),市道前川ダム東線沿線(S t.6)における影響を予測するため,一般車両のみが走行した場合の騒音 レベルと「一般車両+工事用車両」が走行した場合の騒音レベルの差を工事 用車両の走行による騒音レベルの増加量として予測するため,工事用車両の 走行による振動の際と同様に,国土交通省国土技術政策総合研究所の「道路 環境影響評価の技術手法平成24年度版」に示されている提案式「振動レベ ルの80%レンジの上端値を予測するための式」を使用して,振動レベルの 予測を行った(乙第15号証エネルギー回収施設《川口》建設事業生活 環境影響調査書4.3-8,6)。

 その結果,本件エネルギー回収施設への廃棄物運搬車両の走行による振動 レベルの予測結果は国道13号線及び市道石曽根川口線沿線(St.5) において,昼間平均で現況振動レベルが37dBに対して予測振動レベル3 7dB,市道前川ダム東線沿線(St.6)においても,昼間平均で現況振 動レベルが30dB未満に対して予測振動レベルが43dBであり,昼間7 0dB以下,夜間65dB以下という環境保全目標を充足していることが確 認された(乙第15号証エネルギー回収施設《川口》建設事業生活環境 影響調査書4.3-12,16)。

6 結論(騒音·振動による人格権侵害との原告ら主張の不相当性)

 以上のとおり,本件エネルギー回収施設については,施設及び建設工事の方法 において十分な騒音対策,振動対策がなされているものであり,本件エネルギー 回収施設の建設工事及び稼働によって,本件エネルギー回収施設周辺の現況の騒 音レベル,振動レベルを著しく悪化させることはなく,騒音規制法,振動規制法 や条例等を参考にして定められた環境保全目標を充足するものであることが予 測されているものである。

 よって,かかる本件エネルギー回収施設の建設工事及び稼働で生じる騒音,振 動によって,原告らの生命,健康,財産が侵害されるおそれがあるとは認められ ないものである。

 他方,本件エネルギー回収施設は,第1の1において上述したとおり,山形市上山市山辺町及び中山町においてもやせるごみを処理するために必要不可欠の 施設となっているものであり,その公共性,公益性の程度は大きいものである。 従って,本件エネルギー回収施設の建設工事及び稼働に伴う騒音,振動によっ て原告らが被る不利益が,社会生活上一般に受忍するのが相当とされる限度を超 えているとは到底評価し得ないものであり,本件エネルギー回収施設の建設工事 及び稼慟に伴う騒音,振動による人格権侵害に基づいて本件エネルギー回収施設 の建設及び操業差止を求める原告らの請求にも,理由がないものである。

 

第4 景観利益の侵害との原告ら主張の不相当性

 原告らは,訴状第3の3(7)(80頁81頁)において,原告****が事業所 の緑化と美しい景観保持に努めてきたこと,環境技術,都市計画保全に関する各 種表彰を受けてきたことを挙げたうえで,間口60m,奥行90m,高さ35m, 煙突の高さ59mの本件エネルギー回収施設が建設されることによって,強い圧迫 感があり,さらにパッカー車が出入りすることで,景観の破壊,眺望の阻害がなさ れ,原告****の人格権侵害,財産権侵害となる旨を主張している。

 しかしながら,このような良好な景観の恵沢を享受する利益を侵害したことにつ いて,違法な侵害と認められる場合については,国立市のマンションに対する建築 物撤去請求等事件における最高裁平成18年3月30日第一小法廷判決(乙第23 号証判例タイムズNo.1209の93頁)が,

「都市の景観は,良好な風景として,人々の歴史的又は文化的環境を形作り,豊かな生活 環境を構成する場合には,客観的価値を有するものというべきである。被上告人Y1が本 件建物の建築に着手した平成12年1月5日の時点において,国立市の景観条例と同様に, 都市の良好な景観を形成し,保全することを目的とする条例を制定していた地方公共団体 は少なくない状況にあり,東京都も,東京都景観条例(平成9年東京都条例第89号。同 年12月24日施行)を既に制定し,景観作り(良好な景観を保全し,修復し又は創造す ること。2条1号)に関する必要な事項として,都の責務,都民の責務,事業者の責務, 知事が行うべき行為などを定めていた。また,平成16年6月18日に公布された景観法 (平成16年法律第110号。同年12月17日施行)は,『良好な景観は,美しく風格の ある国土の形成と潤いのある豊かな生活猿境の創造に不可欠なものであることにかんがみ, 国民共通の資産として,現在及び将来の国民がその恵沢を享受できるよう,その整備及び 保全が図られなければならない。』と規定(2条1項)した上,国地方公共団体,事業者 及び住民の有する責務(3条から6条まで),景観行政団体がとり得る行政上の施策(8条以下)並びに市町村が定めることができる景観地区に関する都市計画(61条),その内容 としての建築物の形態意匠の制限(62条),市町村長の達反建築物に対する措置(64条), 地区計画等の区域内における建築物等の形態意匠の条例による制限(76条)等を規定し ているが,これも,良好な景観が有する価値を保護することを目的とするものである。そ うすると,良好な景親に近接する地域内に居住しその恵沢を日常的に享立している者は 良な景観が有する客観的な価値の侵害に対して密接な利害関係を有するものというべき でありこれらの者が有する良好な景観の恵沢を享受する利益(以下「景観利益」という。 は、法律上保護に値するものと解するのが相当である。

 もっとも,この景観利益の内容は景観の性質、態様等によって異なり得るものである し、社会の変化に伴って変化する可能性のあるものでもあるところ、現時点においては 私法上の権利といい得るような明確な実体を有するものとは認められず、景観利益を超え て『景観権』という権利性を有するものを認めることはできない。

4 ところで,民法上の不法行為は,私法上の権利が侵害された場合だけではなく,法律上 保護される利益が侵害された場合にも成立し得るものである(民法709条)が,本件に おけるように建物の建築が第三者に対する関係において景観利益の違法な侵害となるかど うかは,被侵害利益である景観利益の性質と内容,当該景観の所在地の地域環境,侵害行 為の態様,程度,侵害の経過等を総合的に考察して判断すべきである。そして,景観利益 は,これが侵害された場合に被侵害者の生活妨害や健康被害を生じさせるという性質のも のではないこと,景観利益の保護は,一方において当該地域における土地・建物の財産権 に制限を加えることとなり,その範囲・内容等をめぐって周辺の住民相互問や財産権者と の間で意見の対立が生ずることも予想されるのであるから,景観利益の保護とこれに伴う 財産権等の規制は第一次的には,民主的手続により定められた行政法規や当該地域の条 例等によってなされることが予定されているものということができることなどからすれば, ある行為が景観利益に対する違法な侵害に当たるといえるためには、少なくとも、その侵 害行為が刑罰法規や行政法規の規制に違反するものであったり、公序良俗違反や、利の濫 用に該当するものであるなど侵害行為の態様や程度の面において社会的に容認された行為としての相当性を欠くことが求められると解するのが相当である。

 これを本件についてみると,原審の確定した前記事実関係によれば,大学通り周辺にお いては,教育施設を中心とした閑静な住宅地を目指して地域の整備が行われたとの歴史的 経緯があり,環境や景観の保設に対する当該地域住民の意識も高く,文教都市にふさわし く美しい都市景観を守り,育て,作ることを目的とする行政活動も行われてきたこと,現 に大学通りに沿って一橋大学以南の距離約750mの範囲では,大学通りの南端に位置す る本件建物を除き,街路樹と周囲の建物とが高さにおいて連続性を有し,調和がとれた景 観を呈していることが認められる。そうすると,大学通り周辺の景観は,良好な風景とし て,人々の歴史的又は文化的環境を形作り,豊かな生活環境を構成するものであって,少 なくともこの景観に近接する地域内の居住者は,上記景観の恵沢を日常的に享受しており, 上記景観について景観利益を有するものというべきである。

 しかしながら,本件建物は,平成12年1月5日に建築確認を得た上で着工されたもの であるところ,国立市は,その時点では条例によりこれを規制する等上記景観を保護すべ き方策を講じていなかった。

 そして国立市は同年2月1日に至り,本件改正条例を公布・施行したものであるが, その際本件建物は,いわゆる根切り工事が行われている段階にあり,建築基準法3条2 項に規定する「現に建築の工事中の建築物」に当たるものであるから,本件改正条例の施 行により本件土地に建築できる建築物の高さが20m以下に制限されることになったとし ても,上記高さ制限の規制が本件建物に及ぶことはないというべきである。本件建物は, 日影等による高さ制限に係る行政法規や東京都条例等には違反しておらず違法な建築物 であるということもできない。また,本件建物は建築面積6401.98平方メートル を有する地上14階建てのマンション(高さは最高で43.65m。総戸数353戸)で あって相当の容積と高さを有する建築物であるがその点を除けば本件建物の外観に周 囲の景観の調和を乱すような点があるとは認め難い。その他,原審の確定事実によっても, 本件建物の建築が,当時の刑罰法規や行政法規の規制に違反するものであったり,公序良 俗違反や権利の濫用に該当するものであるなどの事情はうかがわれない。以上の諸点に照らすと,本件建物の建築は行為の態様その他の面において社会的に容認された行為とし ての相当性を欠くものとは認め難く,上告人らの景観利益を違法に侵害する行為に当たる ということはできない。」

と判示している。

 これは,地方公共団体において都市の良好な景観の形成,保全を目的とした条例 を設けているなど,良好な景観に近接する地域内に居住し,その恵沢を日常的に享 受している者が有する良好な景観を享受する利益(景観利益)は,法律上保護に値 するものではあるものの,その内容は景観の性質態様等や社会の変化に伴って変 化する可能性があることから,私法上の権利とまでは認めることができないとして いるものである。そして,かかる景観利益の法的性質を前提に,景観利益に対する 違法な侵害があると認められるためには,少なくとも,その侵害行為が刑罰法規や 行政法規の規制に違反するものであったり,公序良俗違反や権利濫用に該当するな ど,侵害行為の態様や程度の面において社会的に容認された行為としての相当性を 欠くものであることが必要であるとしているものである。

 最高裁平成18年3月30日第一小法廷判決(乙第23号証判例タイムズNo. 1209の94頁)は,このような前提の下,「建築面積6401.98平方メート ルを有する地上14階建てのマンション(高さは最高で43.65m。総戸数35 3戸)であって,相当の容積と高さを有する建築物であるが,その点を除けば本件 建物の外観に周囲の景観の調和を乱すような点があるとは認め難い。」と判示し,相 当の容積と高さを有する建築物であるという点のみをもって,建物の外観が,社会 的に容認された行為としての相当性を欠くとすることはできないとしているもので ある。

 これを本件について見ると,本件エネルギー回収施設の建設地においては景観利 益の保護を目的とした条例等の制定はなされておらず,また,原告****が事業 所の緑化と美しい景観保持に努めてきたこと,環境,技術,都市計画保全に関する 各種表彰を受けてきたこと等によって原告****に生じることとなる景観利益の具体的な内容も不明といわざるを得ず,景観の破壊,眺望の阻害に関する原告** **の利益も,そもそも,私法上の権利とまでは認められないものである。

 そして,本件エネルギー回収施設の建築規模は第1の3(2)(10頁)において上 述したとおりであり,煙突59m,軒の高さ28.2m,建築面積4885.67 ㎡,延床面積8409.75㎡という規模ではあるものの,本件エネルギー回収施 設の建物の外観は乙第16号証の「エネルギー団収施設(川口)建設及び運営事業 工事概要」のイメージ図記載のようなものであり,周囲の景観の調和を乱すような 点は認められないものである。

 従って,最高裁平成18年3月30日第一小法廷判決(乙第23号証判例タイ ムズNo.1209の93頁)の上記判示内容に照らせば,被告が本件エネルギー 回収施設を建設することは原告****の景観利益に対する違法な侵害とは認め られないものである。よって,本件エネルギー回収施設の建設差止めを請求する根 拠の1つとして原告****の景観利益の保護の点を挙げる原告ら主張にはそも そも理由がないものである。

 

第5 その他の原告ら主張の不相当性

1 道路の交通障害との原告ら主張の不相当性

 原告らは,訴状第3の3(1)(65頁乃至69頁)において,本件エネルギー回 収施設の建設工事の工事用車両が通行することにより,市道前川ダム東線のJR のガード下のカーブにおいて大型車同士のすれ違いができなくなり,原告**** の業務上の安全性と効率が低下する旨を主張している。

 しかしながら,市道前川ダム東線においては,上記カーブの前後の直線部分に おいて,大型車同士が容易にすれ違うことが可能であり,上記原告ら主張のよう に,大型車同士のすれ違いができなくなり,原告****の業務に支障を来たす などということはないものである。この点については原告****らが上山市 に対して提起した,前川ダム東線道路改良工事の公金支出差止請求住民訴訟にお いても同様の主張がなされていたものであるが,同訴訟(山形地方裁判所平成2 8年《行ウ》第2号前川ダム東線道路改良工事公金支出差止請求住民訴訟事件) においては,平成28年10月18日に第一審の山形地方裁判所において,大型 車のすれ違いができなって原告****の業務に支障を来たすなどという事実関 係は認められない旨を判示する判決が下され,控訴審である仙台高裁においても 平成29年4月27日に,同決を維持する旨の控訴棄却判決が下されているもの である(乙第24号証の1判決書,乙第24号証の2判決書)。

 また,原告らは,本件エネルギー回収施設の建設工事の工事用車両や完成後の 廃棄物運搬車両の走行による騒音,排ガス,振動等により,原告****におい て窓を開けて仕事をすることが困難になる旨を主張している(訴状68頁,69 頁)。

 しかしながら,かかる事情は被告としては不知であるが,工事用車両や廃棄物 運搬車両の走行に伴う騒音,振動が人格権侵害として本件エネルギー回収施設の 建設及び操業差止を求める原因となるようなものではないことは,既に第3にお いて上述したとおりである。

2 忠川護岸の崩壊,市道の水没との原告ら主張の不相当性

 原告らは,訴状第3の3(2)(69頁,70頁)において,水害時に忠川護岸の 崩壊,市道の水没という事態が容易に予想され,本件エネルギー回収施設に出入 りする工事用車両,廃棄物運搬車両によって,災害時のリスクが一挙に高まる旨 を主張している。

 しかしながら,そもそも,原告らが主張するような水害時に忠川護岸が崩壊 する危険性や,市道が水没するなどといった事態が発生する危険性は認められな いものであり,上記原告ら主張にも理由がないものである。

 この点については原告****が被告に対して提起した,忠川橋梁建設工 事の公金支出差止請求住民訴訟においても同様の主張がなされていたものである が,同訴訟(山形地方裁判所平成27年《行ウ》第2号忠川橋梁建設公金差止 請求住民訴訟事件)においては,平成29年3月21日に山形地方裁判所におい て,水害時に忠川護岸が崩壊する危険性や,市道が水没するなどといった事態が 発生する危険性があるなどという事実関係は認められない旨を判示する判決が下 され,同判決が確定しているものである(乙第25号証判決書)。

 

第6 結論  

 以上のとおり,本件エネルギー回収施設の建設工事や本件エネルギー回収施設の 稼働によって原告らの人格権が侵害されるなどという原告らの主張には全く理由が なく,人格権侵害に基づいて本件エネルギー回収施設の建設及び操業差止を求める 原告らの請求は棄却を免れないものである。

以上


今後予定されている裁判:

平成29年11月 6日(月) 13:15- 
山形県上山市川口清掃工場建設に関する裁判(判決)|平成28年(行ウ)第1号 上山市清掃工場用地造成工事公金支出差止請求住民訴訟事件

 清掃工場(公称エネルギー回収施設)を建設するための造成工事(平成28年5月31日 工事終了)の建設計画や安全性などに多くの問題みられるため、すでに支出した公金の返還を求める訴訟です。守る会は、組合の監査委員に対し住民監査請求をおこないましたが、棄却されたため住民訴訟を提起しました。

平成29年11月28日(火) 15:00- 
山形県上山市川口清掃工場建設に関する裁判|平成28年(ワ)第236号 一般廃棄物焼却施設建設禁止等請求事件

 平成24年5月に突如山形県上山市川口地区に建設が決定した清掃工場(公称エネルギー回収施設:山形広域環境事務組合は清掃工場とよばずに「エネルギー回収施設」と呼んでいます)本体の建設中止、かつ建設後の操業禁止を求める訴訟です。川口地区決定に至るまで、平成11年に山形市志土田地区、13年に山形市蔵王半郷地区、18年に上山市柏木地区、22年に上山市大石陰地区と候補地を定めながらも住民の反対運動が激しく、4度に渡り計画を断念した経緯があり、5度目の今回では、あまりにも強引に決定されたため(地域住民にはほとんど清掃工場についての説明がないまま、きわめて短期間のうちに決まった)、この経過・結果に納得できない市民が住民訴訟を提起しました。

平成29年11月28日(火) 15:30- 
山形県上山市川口清掃工場建設に関する裁判|平成29年(行ウ)第8号 川口地区助成金公金差止等請求住民訴訟事件

 清掃工場建設予定地である山形県上山市川口地区の地区会に対する不正な助成金の受け渡しについてを問う裁判で、川口地区会に支払われた助成金の返還と今後支払われる予定の助成金の支払停止等を求めています。

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