山形県の環境と観光産業を守る会

山形県上山市川口地区に建設予定の清掃工場(2018年12月から「エネルギー回収施設(川口)」として稼働開始)に関する詳細、および諸問題について

仙台高裁からの造成工事仮処分決定書について | 山形県上山市川口清掃工場問題

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 守る会は、山形広域環境事務組合が進める上山市川口の公称「エネルギー回収施設」 敷地造成工事に対して工事の禁止を求め、とりあえず仮処分命令申し立てを山形地方裁判所に行いました。
 その後に審尋を経て、山形地裁によりこの申し立てが却下されたため、仙台高等裁判所に即時抗告を行っていました。その結果が守る会弁護士に届きましたので、ご報告致します。 これまでの経過は以下の通りです。

平成27年 8月中旬 組合が突然造成工事開始
平成27年10月28日 守る会は山形地裁に工事差止を求める
「仮処分申立書」を提出
同時に組合監査委員宛住民監査請求を求める
                             ↓
後日監査委員が棄却したため、住民訴訟を提起
平成27年11月 4日 山形地裁にて、平成27年(ヨ)第16号第1回審尋
平成27年11月 6日 守る会が申立書の一部変更・差し替え
平成28年 2月22日 組合より証拠乙1号証が届く
平成28年 2月24日 組合が第1準備書面(守る会の申立書に対する反論)を提出
平成28年 2月26日 山形地裁にて、平成27年(ヨ)第16号第2回審尋
平成28年 4月26日 山形地裁にて、平成27年(ヨ)第16号第3回審尋
守る会が「仮処分命令申立書訂正申立書(2)」提出
組合が「上申書」と証拠乙1号証の2提出
         ↓
どちらも証拠は出尽くしたとして【結審】
平成28年 5月12日 平成27年(ヨ)第16号造成工事禁止の仮処分命令
申立事件【決定文】が守る会弁護士宛に郵送される
【債権者(守る会)らの申立てをいずれも却下する】
平成28年 5月23日 守る会は仙台高等裁判所に「即時抗告状」を提出
平成28年 5月31日 敷地造成工事完了
平成28年 6月30日 組合が仙台高裁へ「答弁書」提出
平成28年 7月19日 守る会が仙台高裁へ第1準備書面提出
(平成28年(ラ)第 91号)
平成28年 9月20日 仙台高等裁判所より守る会弁護士宛【決定文】が届く
平成28年(ラ)第91号
【本件抗告を棄却する】

 9月20日に届いた、上記の平成28年(ラ)第91号造成工事禁止の仮処分命令申立却下決定に対する即 時抗告事件(原審:山形地方裁判所平成27年(ヨ)第16号)の決定文を公開致します。
*プライバシーに配慮し、個人名は削除致しますのでご了承下さい。


平成28年(ラ)第91号 造成工事禁止の仮処分命令申立却下決定に対する即時抗告事件(原審・山形地方裁判所平成27年(ヨ)第16号)

決定

(**省略**)

主文

1 本件抗告を棄却する。
2 抗告費用は抗告人らの負担とする。

理由

1 抗告の趣旨及び理由の要旨
本件抗告の趣旨は,原決定を取り消し,原決定別紙物件目録記載の各土地( 以下「本件土地」という。)において,同工事目録記載の造成工事(以下「本件造成工事」という。)を行ってはならないとの裁判を求めるものであり,その理由の要旨は,以下のとおりである。
本件造成工事は,現況,そのほとんどが休耕田で低湿地のような状態にある本 件土地を清掃工場の敷地として造成する工事であり,本件造成工事が完成すると, 本件土地の雨水浸透量を大きく低下させ,本件土地から忠川への雨水排水量が増加し,忠川や忠川と合流する前川が溢水し,又は,本件士地に雨水が滞留して忠川の護岸コンクリートが圧力を受けることで崩壊して同川が堰き止められ,氾濫するおそれがある。忠川又は前川流域付近において勤務ないし農業に従事してい る抗告人らの生命や身体等に著しい損害又は急迫の危険(人格権侵害)が生じる蓋然性が高いから,本件造成工事を差し止める必要性がある。

2 当裁判所の判断
(1)  抗告人らは,本件造成工事の完成により,従来,本件土地にあった3万5886㎡×50cm(忠川左岸の堤防との高低差) =1万7943㎥の貯水能力が失われるから,本件土地から忠川への雨水流入量が著しく増加すると主張する。 しかし,本件造成工事前の本件土地がすべて忠川護岸よりも低地であるというわけではないし,本件土地に流入した雨水については水路による排水も行われ ている(乙1の1) のであるから,本件土地全体に,水深50 cmの水槽に匹敵 する貯水能力があるかのような抗告人らの想定には,高低差を考慮し,貯水容量を7割(1万2560.1㎥)とし,流出計数を0. 7として貯水能力を想 定したからといって,何ら合理的根拠はない。抗告人らは,平成25年7月の大雨の際に,本件土地が冠水し,水が忠川の護岸コンクリートを越えて本件土地から忠川に流入した事実を指摘するが,この事実からは,本件土地に本件土 地の雨水浸透量を超える降雨があっても,その雨水のすべてが直ちに本件士地 の表層から忠川へ排水されるわけではなく本件土地に一定程度滞留(貯留)すること,その状態が一定時間続くと本件土地が冠水し,さらに降雨が続くと護岸コンクリートを越えて水が忠川に流入すること(その際には,本件土地に流 入した雨水の大部分がそのまま忠川に流入することも考えられる。),平成25 年7月の降雨の際に,上記雨水浸透量を超える降雨が実際に一定時間以上継続したこと(すなわち,本件土地には一定の貯水能力があるが,平成25年7月 にはその貯水能力を超える降雨があったこと)が推測されるだけであって,本件士地の貯水能力が抗告人らの主張するような量になることや本件士地から忠川に流入する水量の程度を想定する抗告人らの主張には,本件記録を精査しても何ら合理的な裏付けはない
。 他方,相手方は,本件造成工事の前後で,本件土地から忠川への雨水排水量は,基準点1 (忠川下流部の排水口)において0.140㎥/s増加するにす ぎず,基準点2 (忠川上流部の排水口)においては雨水排水量に変化はないと主張し,その旨を記載した雨水排水計画(甲16) を作成している。しかしながら,乙1の1によると,同計画は,簡単にいえば,降雨の際の本件土地から忠川への雨水排水量について,本件造成工事完了後の雨水排水量の計算値と, 本件清掃工場の建設地の開発面積0.036km2の流出係数を湛水した水田の流出係数(0. 7)に置き換えて計算した雨水排水量の計算値とを比較し,その差をもって本件造成工事前後の本件士地から忠川への雨水排水量の差としてい るものであって(乙1の1, 20~21 頁),本件造成工事前における本件土地 から忠川への雨水排水量については,近傍における雨量観測所の資料が得られないため,特殊係数法を適用するなど実証的な検証をしているわけではなく, 本件造成工事前の本件士地に一定程度存在していることが推測される上記の貯水能力について検討した様子はない(本件審理においても,貯水能力に関する抗告人らの主張に合理性はないという反論のみに終わっている。乙1の1, 2 2頁)。したがって,仮に,本件造成工事によって降雨の際に本件土地に流入する雨水が速やかに忠川に排水される状況になった場合に,本件土地から忠川へ の雨水排水量の増加量が基準点1 (忠川下流部の排水口)において0.140 ㎥/sにすぎず,基準点2 (忠川上流部の排水口)においては雨水排水量に変化はないという上記雨水排水計画の試算の合理性,正確性については,なお検討の余地がある。

(2)  しかしながら,疎明資料(甲38,乙2, 3) によると,本件造成工事は, 手直しの余地はあるとしても,平成28年5月27日頃までの間に完成したこ とが認められるから,本件申立ての利益は失われたというべきである。 また,この点をひとまず措き,上記(1)の点を踏まえて考慮しても,本件造成工事が行われた場合,本件土地から忠川への雨水排水量がどの程度増加するのかについては何ら明らかとはいえない(雨水排水量の増加量について,合理的 根拠を伴う具体的な主張や疎明はない。)。上記のとおり,平成25年7月の降雨の際には,本件士地が冠水し,溢れた雨水が護岸コンクリートを越えて本件土地から忠川へ流入したことが認められるところ,抗告人らは,それにより忠川が合流する前川が川口地区のみならず下流域広範囲で氾濫したと主張してい るが,相手方はこれを否認しており(原審答弁書6頁(力)),一件記録によっても, 平成25年7月の降雨の際に前川が川口地区のみならず下流域広範囲で氾濫したという事実の疎明はない。また,平成25年7月の本件土地から忠川への上 記の雨水の流入状況を示す抗告人ら提出の写真(甲19の1の写真1) を見て も,護岸コンクリートを越えて本件土地から忠川に流入している雨水の流入量が,前川下流域広範囲の氾濫を惹き起こす原因となるような規模であるとはにわかに認め難い。
 さらに,抗告人らは,本件造成工事で設けられる排水ゲートの構造を問題と し,忠川の水位が排水樋管の排水口よりも高くなって排水できない場合に,本 件土地に雨水が滞留するおそれがあるとも主張しているが,抗告人らは,本件 造成工事によって本件土地の貯水能力が失われる結果,本件土地から忠川へ流 入する雨水の量が増えることにより,忠川や忠川と合流する前川が溢水すると 主張しているのであり,本件造成工事完了後,本件土地から雨水排水計両にお いて想定されている排水ができなかった場合の危険性を主張するのは,本件士 地の貯水能力が失われることを問題とする前記の主張と基本的に矛盾しており (排水できなければ本件士地に雨水が貯留することは,本件造成工事の前後を 通じて同じはずである。),この点についての抗告人らの主張は採用することが できない。護岸コンクリートが劣化しているという主張も同様であり,護岸コンクリートが劣化していることによる崩壊の危険は,本件造成工事とは別の間題というほかない。

3 以上によると,一件記録によっても,本件造成工事が行われることにより,大雨の際に忠川や忠川と合流する前川が溢水し,又は,忠川の護岸コンクリートが崩壊して河川が氾濫し,忠川又は前川流域付近において勤務ないし農業に従事している抗告人らの生命や身体等に著しい損害又は急迫の危険(人格権侵害)が生じると一応認めることはできないから,抗告人らの本件申立ては理由がない。本件申立てをいずれも却下した原決定は相当であり,本件抗告は,理由がない。

よって,主文のとおり決定する。
平成28年9月20日
仙台高等裁判所第1民事部

裁判長裁判官 小野 洋一
裁判官 潮見 直之
裁判官 綱島 公彦

(**以下省略**)

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 一般市民が行政訴訟、または住民訴訟を行うためには、証拠集めが必要ですが、 そのためには行政等に対する「情報公開請求」を行います。情報公開請求は相手自治体に住民票があれば誰でも請求可能ですが、開示されるまで2週間の期間が必 要です。場合によっては(各自治体の情報公開条例に基づく)公開しなくてよいもの があり、検討して公開期日を延長できる場合もあります。
 仮処分申し立ては、期間が限られている中で急いで行う申し立てです。守る会は 平成27年8月に始まった造成工事に対し、情報公開請求を繰り返し、同年10月28日 に急ぎ仮処分申し立てを行いました。
 しかし、その後相手方の組合から、申し立てに対する反論である準備書面が届いたのは、申し立てから4か月近くを過ぎた2月のことでした。工期終了は5月31日予定で 期間が短い中、守る会はこれらの対応を不服として仙台高裁に抗告しましたが、それも「棄却」という結果になりました。
 「すでに工事は終了してしまった」ということですので、造成工事の仮処分事件は終了となりますが、この敷地造成工事については、組合に対する「公金差し止めを求 める住民訴訟」が残っておりますので、守る会は引き続きこちらの訴訟を続けて行く所存です。

■ 来る10月17日に山形地方裁判所において、山形広域環境事務組合に対する敷地造成 工事の住民訴訟(弁論準備)が、13:30から行われます。
平成28(行ウ)第1号 上山市清掃工場用地造成工事公金支出差止請求住民訴訟事件

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